研修・会議

「第2回 『オンライン形式のわかち合いの会』運営スタッフ研修 ~大人向けのわかち合いの会を実施する団体向け~」開催レポート

2022年1月25日

いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)は令和3年11月27日(土)、「第2回 『オンライン形式のわかち合いの会』運営スタッフ研修 ~大人向けのわかち合いの会を実施する団体向け~」をオンラインで開催し、全国で自死遺族等の「わかち合いの会」を運営している26団体から計30人にご参加いただきました。

■式次第はこちら

新型コロナウイルスの影響で多くの団体等が「対面形式のわかち合いの会」の開催自粛や活動の縮小を余儀なくされました。4回シリーズの本研修は、感染のリスクを避けるだけでなく遠隔地からの参加等が可能になるなど「対面形式のわかち合いの会」の課題を解決できる可能性がある「オンライン形式のわかち合いの会」について、基本的な考え方や運営のノウハウを実践例から学ぶことを目的としています。また、「オンライン形式のわかち合いの会」がもたらす新たな可能性について、参加者の皆様と共に考え模索する場とすることを目指すものです。

今回の第2回研修は、第1回「基礎編」を踏まえた上で、大人向けの「オンライン形式のわかち合いの会」の実践に必要なポイントや工夫を理解し、実践に対して感じている疑問や課題を解消するためのヒントを得ながら、具体的な実践イメージを持ち帰ってもらうことを目的としています。

「第1回運営スタッフ研修基礎編の振り返り」 いのち支える自殺対策推進センター 自死遺族等支援室長 菅沼 舞

まず最初に、JSCP自死遺族等支援室長の菅沼舞が、前回研修のテーマである「安全・安全な環境作りのためのポイント」について、振り返りました。

菅沼は、自死遺族の「わかち合いの会」「遺族のつどい」等に求められる環境は、「参加者が安心して、ありのままの思いを表現することができ、それが受けとめられる会であること」だとし、そのために主に気を付けるべきこととして、「プライバシーが守られ、感情表出が出来るよう配慮された場であること」、「進行役は受容と共感をもって傾聴すること」、「遺族の主体性を尊重すること」、「遺族にただ寄り添う姿勢が大切であること」を挙げました。

それらを前提にした上で、「オンライン形式のわかち合いの会」における「安心・安全な環境作りのためのポイント」として、次の4つが重要であると述べました。

  1. プライバシー確保のためのルールを設ける
  2. 参加の条件や必要な環境、当日の流れを紹介する
  3. 事前申し込み~開催案内まで丁寧に対応する
  4. リスクに対応するための準備を事前しておく
JSCP自死遺族等支援室長の菅沼 舞
当日の発表資料より

「大人向けのわかち合いの会の実践例の紹介」 自死・自殺に向き合う僧侶の会 浦上 哲也共同代表

続いて、「自死・自殺に向き合う僧侶の会」の浦上哲也共同代表が、団体の活動内容や「自死遺族と僧侶のオンライン茶話会」の実践例を紹介しました。以下、浦上共同代表のお話の概要です。

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2007年設立の「自死・自殺に向き合う僧侶の会」は、仏教のさまざまな宗派から僧侶有志が集まって設立された団体で、東京都中央区にある築地本願寺を主な活動拠点としています。12月1日に行っている自死者のための追悼法要には、近年は200人以上の自死遺族の方が参加。自死に関する悩み相談を僧侶と手紙で交わす往復書簡は、累計で1万通以上のやり取りがあります。コロナ禍の一昨年からは、対面形式で行っていた自死遺族の分かち合い「いのちの集い」を、オンライン形式に切り替え、「自死遺族と僧侶のオンライン茶話会」として毎月開催。平均して10名前後の方が参加されています。昨年の10月からは「10代とお坊さんのオンライントーク」も始めました。

自死・自殺に向き合う僧侶の会 浦上 哲也共同代表

「自死遺族と僧侶のオンライン茶話会」は、冒頭に僧侶から全参加者に向けて仏教的な話をすることから始まります。その後、ブレイクアウトルーム機能を使って、僧侶2名+参加者2~4名の小グループに分かれ、75分間の茶話会を実施。茶話会終了後は、もう一度参加者全体で集まり、心を鎮めるための黙とうをして終了する流れになっています。オンラインになると、対面の時よりも対話性が落ちるのではないかという懸念もあり、僧侶と参加者の「茶話会」という話したい人が話す雑談形式を取っています。

「自死遺族と僧侶のオンライン茶話会」の当日のスケジュール

事前申し込みの工夫点については、URLが含まれるメールは、迷惑フォルダに入ってしまうことがあるため、申し込みを受け付けた際は、「この後、詳細のメールを送ります」というメールをまず送った後に、当日の接続先を送ることで、参加者に案内が届かないということが起きないように気を付けています。また、申し込みフォームに「あなたは自死遺族でいらっしゃいますか」という質問を設け、「はい」「いいえ」の選択肢を選んでもらうことで、参加対象である自死遺族以外の方が参加することがないように工夫しています。

ルールについては、録画や録音などをしていないことが目で確認できるように、ビデオはオンの状態で顔を出して参加してもらっています。また、亡くなった状況の詳しい説明は、他の参加者の方がショックを受けることもありうるので、控えていただくように事前にお願いしています。

「自死遺族と僧侶のオンライン茶話会」の参加ルール

雰囲気作りの工夫については、団体名に「僧侶の会」とあるように、仏教やお寺、僧侶に対して、何かしらの期待があったり、好ましく思って参加されることが多いので、スタッフ全員が僧侶だと見てわかるように僧衣を着たり、背景を本堂や茶室や日本庭園などにして、意識的に雰囲気作りを行っています。ご遺族の中には、葬儀などで自死者を貶めるようなことを宗教者から言われて傷ついたという方もいるので、冒頭の法話ではそういったことに配慮した内容を話すように心がけています。

リスクに対する準備については、対面形式とオンライン形式で大きく差はないと感じています。対面形式と同様に、体調不良者や接続トラブルに対応するために、各グループに2名以上の僧侶を配置したり、何か問題が生じた場合は、用意してある他のブレイクアウトルームに進行役以外の僧侶が付き添ったりすることになっています。しかし、この1年間オンラインの茶話会を実施してきている中では、そういった場面にはまだ遭遇していません。

「大人向けのわかち合いの会の実践例の紹介」 リメンバー福岡 自死遺族の集い 代表

次に、「リメンバー福岡 自死遺族の集い」の代表が、同団体の活動を紹介しました。「リメンバー福岡」は、2004年に設立された、九州で初めての自死遺族の会です。コロナ禍の昨年からは、対面形式とオンライン形式のハイブリッド開催など、さまざまな形式でわかち合いの会を実施してきました。代表も平成19年に妻を自死で亡くしたご遺族の一人であり、平成23年に代表に就任されました。以下、代表のお話の概要です。

リメンバー福岡 自死遺族の集い 代表

以前から福岡市との共催で対面形式のわかち合いの会を実施してきましたが、コロナ禍の一昨年9月からはオンラインと対面のハイブリッド形式の開催に取り組んできました。しかし、ハイブリッド形式の開催は、スタッフの労力が2倍かかることもあり、現在はオンライン形式のみに切り替えて実施しています。

開催頻度は、月に1回で奇数月にリメンバー福岡の集いに初めて参加する方向けの会を、偶数月に継続参加の人の会を実施。初参加の方向けの会では、事前にZoomの操作に慣れてもらうだけでなく、会の趣旨やルールの意味を理解してもらうことで、安心・安全な環境を参加者の方たちにも意識して作ってもらうように工夫しています。

開催方法は、ハイブリッド形式の時には360度が見渡せるカメラとマイクを会場の中心に置き、会場参加者にはその周りに円になって座ってもらい、前方のスクリーンに自宅からの参加者を映し出しながらわかち合いを行っていました。現在はその方法はやめて、原則は各自の自宅からオンラインで参加してもらっています。自宅にWi-Fi環境がない方や、パソコンやスマートフォンのスキルに自信がない方のみ会場に来てもらい、スタッフがサポートしながら、会場でご自身のスマートフォンやパソコンを接続して参加してもらっています。

参加のルールとして、原則は顔を出しての参加をお願いしていますが、画面に自分の顔が映ると緊張して話が出来ないというケースが過去にありました。その際は、顔出しが出来ない理由を他の参加者に対してご自身から説明してもらい、皆さんの承諾を得てから参加いただくように対応しました。ルールの厳守は、安心・安全な環境を守るためにも重要であり、守れない場合は、強制退出や次回以降の参加をお断りする可能性があることを参加者に理解してもらっています。

「リメンバー福岡 自死遺族の集い」の参加ルール

雰囲気作りの工夫としては、やはり対面形式と比べると、オンライン形式の方が非言語的なメッセージが伝わりにくい気がしているため、言葉以外の表情やジェスチャーを意識して使っています。前髪を切って参加者に眉毛が見えるように工夫した、というスタッフもいます。また、運営側がオンラインの限界を知ること、認めることも非常に重要なプロセスだと思います。まずはスタッフ同士で実践し、失敗した部分をどのようにして修正していくかをみんなで考えること、その工程を繰り返しながら方法を確立していくことが大切です。それから、参加者に対しても、手を差し伸べ過ぎないこと。その人が本来持っている回復力や問題解決能力の芽を摘むことになってしまうため、あくまで自分自身の力で参加できるようにサポートすることを大切にしています。

参加者が参加しやすい雰囲気にするための工夫

リスクに対する準備に関しては、私たちの会でもまだまだ懸念していることがあります。対面形式であれば体調不良者が出た場合は、別室で精神保健福祉士や保健師が対応してくれますが、オンライン形式の場合はそれが出来ません。警察や消防への通報も、申込者の住所がわからないため難しく、オンライン形式の限界かもしれないと感じています。過去には対面形式のわかち合いの会の中で「今日は皆さんに最後のお別れを言いに来た」という方や、「今から逝きます」と具体的な場所や日時を話す方が参加されたことがありました。今後、同じような場面がオンライン形式で起きた時にどう対応したらいいのか、参加されている皆さんも含めてどう考えるかを逆にお聞きしたいと思っています。

「大人向けの会の実践」(グループワーク)

2団体の講義の後は、Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能を使って4つの小グループに分かれ、グループワークを行いました。2団体の講師らが進行役を務め、それぞれの団体が実施しているわかち合いの会の流れに沿って、ルール説明や法話等を行い、前半は「自己紹介と活動団体紹介」をテーマに参加者同士で語り合いました。後半は、前半と別の団体の講師らが進行役となり、「コロナ禍における遺族支援活動の中で感じたこと」をテーマとして参加者一人一人が思いを語りました。

グループワークの中では、既にオンライン形式のわかち合いの会を実施している団体から、「コロナ禍でなかなかわかち合いの会が実施出来ない期間が続き、ご遺族からも『また中止の連絡で残念です』と言われた。手探りで実施を始めたが、技術的な面での不安が拭えない」といった声や「スタッフ同士のミーティングが対面で出来ないことによるトラブルが増えた」という声があがりました。一方で「全国各地の参加者と繋がることが出来た」という声や、「スタッフも移動時間が発生しないため、オンライン形式の方が便利になった」というメリットについても紹介がありました。事後に行った参加者からのアンケートには、「それぞれの団体がオンラインで実施する時に配慮しているルールなど、とても具体的で参考になった」「他の団体の取り組みなど意見交換が出来て良かった」といった感想が寄せられました。

パネルディスカッション(質疑応答・意見交換)

グループワークを終えた後は、ディスカッション・質疑応答が行われました。講師の「自死・自殺に向き合う僧侶の会」の浦上共同代表と「リメンバー福岡 自死遺族の集い」の代表に加え、グループワークで進行役を務めた両団体スタッフ2名、JSCP自死遺族等支援室の菅沼と秋田整の計6名が、パネリストとして登壇しました。

「遺族にとって安心・安全な環境を確保するための工夫」についてリメンバー福岡代表は、「ルール徹底の大切さを参加者に繰り返し説明するのは、オンライン形式だけでなく、対面形式でも同様です。参加者同士やスタッフと参加者が、傷つけあうことがないようにするためです。このルールは、わかち合いの会の中だけでなく、例えば参加者同士が仲良くなって、会の外で食事をする時などにも守ってもらいたいと伝えています。このルールが存在する意味さえ理解出来れば、身近な人を自死で亡くした家族同士でさえも付き合いが円滑になるという自分自身の経験からも重要視しています」と話しました。
「実際にルール違反が起きた時の対処方法は?」という参加者からの質問に対しては、同団体のスタッフから「ルール違反が起きたらすぐに参加者を退出させたり、音声をオフにしたりするわけではなく、何か気になる発言や行動があった場合は、進行役がお声がけをするようにしています。それでも改善されない場合などは、別に用意しているサポートルームにその方を移動させる流れにしていますが、今のところ、そのような事態になったことはありません」と述べました。
「対面形式、オンライン形式に関わらず、会のルールを守れない参加者への対処方法を事前に決めておくことや、ルールが守れない場合にはどのように対処するかを予め参加者に伝えておくことが、参加者やスタッフの安心・安全な環境の確保に繋がるのではないでしょうか」とJSCPの菅沼も話しました。
一方で、グループワークの中では、「技術面において『遺族にとって安心・安全な環境の確保』を担保することが難しいので、なかなかオンラインに踏み込めない」という参加者からの声もあり、その点については、「やってみないとわからないことも多いので、まずはスタッフ同士や、友人・知人、協力してくれそうなご遺族などに声かけをして、本番を想定した会をやってみるのが良いのではないか」とJSCPの菅沼が提案しました。

「雰囲気づくりの工夫」については、浦上共同代表から、「対面形式であれば五感を使って繋がりを感じることが出来ますが、オンラインではそれが難しい。対面形式のわかち合いの会を実施していた際は、最後に僧侶全員で読経をして、参加者が焼香をして帰ることが雰囲気づくりにも繋がっていたが、オンラインで同様のことをやろうとしたらハウリングしてしまい、今は最後に参加者全員で30秒間の黙とうをしてから解散する流れになっています」と、取り組みを紹介しました。

「リスクに対応するための準備」に関しては、リメンバー福岡代表は「万が一、具体的に死ぬ方法を考えている方や、緊急対応の必要性が高い方が参加された場合の対応については、私たちの団体でもどのようにすれば良いかまだ答えがみつかっていません。電話相談などでは、警察に通報をして緊急保護をすることがあるそうですが、同様のことをわかち合いの会の中で出来るかというとそれは難しいと感じています」と話しました。
浦上共同代表も「先月から始めた『10代とお坊さんのオンライントーク』」では、事前に参加者の名前と連絡先、住所を確認しており、緊急性が高いと感じた場合は対応することにしています。ただそれによって参加のハードルが上がっている可能性もあり、難しい問題だと感じています」と述べました。また、「これは僧侶ならではかもしれませんが、手紙の往復書簡の中で、やはり希死念慮が高い方の相談があり、途中で返信が届かなくなるような場合もあります。その場合も、『仏様が後ろに付いているから大丈夫だろう』という少し仏様を緩衝材のようにして相談を受けながら、スタッフ自身の心を守るということもあります」と話しました。

第1回研修の講師を務め、今回は受講者として参加していた日本グリーフ専門士協会の井手敏郎代表理事からは、「4年間オンラインで開催をしていて、緊急対応が必要な事態は一度もありませんが、途中で不自然な抜け方や突然退出される方はいました。その場合は、申込時に伺った電話番号にショートメッセージで『少しお話しませんか』といった内容のメッセージを送り、反応があった方に電話をしたケースは何件かありました」との発言がありました。また、「参加者の急な退室により、残された参加者やスタッフが『自分のせいじゃないか』と悩んでしまうことも多々あるので、他の参加者やスタッフをサポートする体制も整えています」とも述べました。
最後にJSCPの菅沼が「いくら運営側が準備をしても、全てのリスクに対応するということは、対面形式であっても、オンライン形式であっても難しく、やはり自分たちで出来ることと出来ないことを見極めて実践していくことも大事なのかもしれません」と述べ、パネルディスカッションは終了しました。

パネルディスカッション(質疑応答・意見交換)の様子

■第2回研修の「受講者アンケート」結果の概要はこちら

以上

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今後の自死遺族等の「わかち合いの会」の新たな可能性について考える上で、多くの支援団体の方々に役立てていただきたく、研修動画及び詳細レポートを公開しています。


第1回研修<第一部:講義編>【一般公開】
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第2回研修<大人向けの会の実践>【遺族支援団体のみの限定公開】
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第3回研修(若者向けの会の実践)の詳細レポートは後日公開予定、
第4回研修(子ども向けの会の実践)は3月12日にオンラインで開催の予定です。
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