研修・会議

「第1回 『オンライン形式のわかち合いの会』運営スタッフ研修 ~遺族にとって安心・安全な環境作りとは~」 開催レポート

2021年11月26日

いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)は2021918日(土)、「第1回 『オンライン形式のわかち合いの会』運営スタッフ研修 ~遺族にとって安心・安全な環境作りとは~」をオンラインで開催し、全国で自死遺族等の「わかち合いの会」を運営している49団体から計78人にご参加いただきました。

JSCPは、自死遺族等支援の推進を目的に昨年9月に自死遺族等支援室を新設しました。JSCPとして自死遺族等支援団体を対象とした研修は今回が初めての実施となり、グループワークも含めた内容のため参加人数に制限があったのですが、参加申し込みの受付直後から当初の定員を大きく上回るお申し込みをいただき、急遽定員枠を拡大して対応しました。

■式次第はこちら

■第1回研修<第一部:講義編>の動画を公開しています
https://www.youtube.com/playlist?list=PLRHJB8JfI9pr0Pu-K_lm4cRwq8bQcT2WE

本研修は、新型コロナウイルスの影響で多くの団体等が「対面形式のわかち合いの会」の開催自粛や活動の縮小を余儀なくされる中、感染のリスクを避けるだけでなく遠隔地からの参加等が可能になるなど「対面形式のわかち合いの会」の課題を解決できる可能性がある「オンライン形式のわかち合いの会」について、基本的な考え方や運営のノウハウを実践例から学ぶことを目的としています。また、「オンライン形式のわかち合いの会」がもたらす新たな可能性について、参加者の皆様と共に考え模索する場とすることを目指すものです。今年度中に、今回を含め全4回の研修を実施する予定です。

<第一部:講義編> 「自死遺族等支援の枠組み」  JSCP代表理事 清水康之

第一部ではまず、JSCP代表理事の清水康之が「自死遺族等支援の枠組み」と題して講演しました。清水は、自殺対策基本法において、「自殺者の親族等の支援」が国や行政が推進すべき自殺対策の重要課題として明記され、自殺総合対策大綱においても、「遺された人への支援を充実する」ことが「当面の重点施策」の一つに位置付けられており、本日の研修会もまさにその自殺総合対策大綱に記載されている「遺族の自助グループ等の運営支援」に関わることだと説明しました。その上で、「しかし、公的機関の職員の資質向上や遺児等への支援については、まだ必ずしも全国的に取り組みを進められておらず、課題は多く残っている」との認識を示しました。

また、「自死遺族・遺児の支援が社会的な広まりを見せるきっかけは、自殺がタブー視される中で自死遺児自らが体験を語り始めたことがきっかけだった」とし、2000年にあしなが育英会の奨学金を受けている遺児たちが「自殺って言えない」という冊子を発行したことを紹介しました。遺児たちの声を受け、2004年に清水が代表を務める自殺対策に取り組むNPO法人「ライフリンク」が設立され、自殺対策基本法の法制化を求める「3万人署名」活動を展開し、故・山本孝史議員が中心的役割を担った超党派議員有志の会が主導する議員立法として2006年に同法が成立した経緯を説明しました。

清水は「オンライン形式のわかち合いの会」について、「『対面形式のわかち合いの会』を補完するものではなく、コロナが収束した後も全国に広げていくべきだと思う。この広がりをもって自死遺族等支援に関わる人が増え、全国的な自死遺族等支援の底上げにつながっていくのではないかと考えている。本日はそうした動きを進める第一歩であり、みんなで考える機会にしたい」と述べました。

【写真①】清水さん.jpg

JSCP代表理事の清水康之

全国の自死遺族等支援の実態報告  JSCP自死遺族等支援室長 菅沼舞

「自死遺族の『わかち合いの会』運営のポイント ~遺族にとって安心・安全な環境作りとは~」
◆「全国の自死遺族等支援の実態報告」

続いて、JSCP自死遺族等支援室長の菅沼舞が、JSCPが実施した全国の「わかち合いの会」に関する実態調査の結果を報告しました。

自死遺族等支援室は202010月1日~2021831日、全国で自死遺族等を対象とした「わかち合いの会」を実施する民間団体と自治体について、Googleによるキーワード検索を行いました。その結果、自死遺族等が参加可能な「わかち合いの会」は全国に少なくとも253団体あり、そのうち自死遺族等のみを対象とするのは143団体である実態が明らかになりました。

菅沼は、「自殺対策基本法制定後の約15年間で自死遺族が参加できる『わかち合いの会』が大幅に増えた」とする一方で、自死遺族の中には「自死以外で亡くなったご遺族と一緒だと本音を話しづらい」といった声もあるとし、自死遺族等向けの「わかち合いの会」の課題について、以下の3点を挙げました。

  1. 実施場所が都市部に集中している。
  2. 親を亡くした自死遺族、子どもを亡くした自死遺族など、同じ境遇の遺族だけを対象とした会は、まだ少ない。
  3. 新型コロナウイルスの影響で活動を休止している団体が、現在も約2割に上る。「オンライン形式のわかち合いの会」を実施している団体は少しずつ増えているとみられるが、把握できているのは全国に約20団体で1割に満たない。

その上で菅沼は、「『オンライン形式のわかち合いの会』が普及することで、これらの課題が解決し、感染症や会場使用の有無に左右されない新たなわかち合いの会の形を模索できるのではないか」と述べました。

【写真②】投影資料.png

◆「自死遺族の『わかち合いの会』運営のポイント ~遺族にとって安心・安全な環境作りとは~」

菅沼は、「自死に限らず、身近な人を亡くすということは、人生において苦しい出来事の一つであり、遺されたご遺族にはさまざまな影響が出ることがあるといわれている。その中でも自死で身近な人を亡くしたご遺族は、自責の念や、周囲からの誤解や偏見等によって『誰にも話すことができない状況』にあることも少なくない」とした上で、「そうした背景を抱えた自死遺族が参加する『わかち合いの会』に求められる安心・安全な環境は、『参加者が安心して ありのままの思いを表現することができ、それが受けとめられる会』であり、わかち合いの会を主催する側は、対面形式であってもオンライン形式であっても、その点を意識して、会を運営する必要がある」と述べました。

「対面形式のわかち合いの会」と比較した「オンライン形式のわかち合いの会」のメリットとして、「開催日時や場所の制約がない」、「居住地に関係なく参加可能」などがある一方、「表情や雰囲気が伝わりにくい」、「参加者に『接続することへの不安』が生じ、緊張感が高まる」「プライバシー確保や接続のサポートなど丁寧な対応や準備が必要」等のデメリットがあることを説明しました。

「オンライン形式のわかち合いの会」を実施する11団体へのヒアリング調査、民間団体が開催する「オンライン形式のわかち合いの会」への1年間にわたる視察から見えてきた「安心・安全な環境づくりのためのポイント」として、①プライバシー確保のためのルールを設けること、②参加の条件や必要な環境、当日の流れを紹介すること、③事前申し込みから開催案内まで、丁寧に対応すること、④トラブルが発生した時の対応を事前に決めておくこと、の4点を挙げました。

【写真③】菅沼さん.png

JSCP自死遺族等支援室長の菅沼舞

「『オンライン形式のわかち合いの会』の利点と課題」  全国自死遺族総合支援センター 杉本脩子代表

2008年設立の全国自死遺族総合支援センターは、自死遺族を対象とした電話相談・メール相談、自治体主催の「対面形式のわかち合いの会」の立ち上げや運営支援などを行ってきました。コロナ禍の昨年からは、「身近な人を亡くした子どもとその家族のつどい」「身近な人を亡くした若者のつどい」をオンライン形式に切り替えて毎月開催しています。

「『オンライン形式のわかち合いの会』の利点と課題」と題した講演で杉本脩子代表は、「当初は、オンラインは情報伝達には適しているが、わかち合いのような深い気持ちを聴き合うことはできるのだろうか? という懐疑的な気持ちを持っていた。しかし、実際に『オンライン形式のわかち合いの会』を実施してみると、予想と大きく違い驚いた」と語りました。その理由として、「対面の会では、新型コロナウイルスの影響でマスク着用は欠かせないため、互いの声が聞き取りづらい、表情が見えづらいなどの悩みを抱えていたが、オンラインでは声や表情がはっきりと確認でき、コミュニケーションが非常にとりやすい」、「自宅にいながら遠方の会に参加できることは参加者にとっても主催者にとってもメリットである」などの点を挙げました。

一方、課題としては「互いの声を聞き取るため、対面よりも少しゆっくりと話す必要がある」、「スタッフ間で役割を分担することが、対面形式以上に求められる」、「対面形式でも終了時に声を掛け合うなどの丁寧な対応が必要だが、オンラインの場合は一瞬で『退出』となるため、突然、参加者が中途退出された場合などは、残された参加者やスタッフの気持ちに痛みを残すことがある」などの点を指摘しました。

その上で「オンラインで『わかち合いの会』ができるのか? と問われれば、はっきりと『イエス』と答える。対面との違いは確かにあるが、違いよりも共通項の方がずっと多く、対面かオンラインかの二者択一では決してない。『わかち合いの会』の意味・目的は、かけがえのない人との死別を経て、遺された方がその後の人生をその人らしく生きるために、同じような経験をした方々との交流の中で人生の組み立て直しのきっかけが得られることであり、対面でもオンラインでも違いはない。会の運営で迷った時には、この原点に立ち返るときっといい答えが見つかると、体験を通して感じている」と話しました。

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全国自死遺族総合支援センターの杉本脩子代表

「オンライン研修のプロに聞く~オンライン開催の心得、成功に導くテクニック~」  株式会社インソース オンライン事業部担当者

次に、オンライン研修を多く手掛ける株式会社インソース、オンライン事業部の担当者が、「オンライン研修のプロに聞く~オンライン開催の心得、成功に導くテクニック~」と題し、「オンライン形式のわかち合いの会」の運営者が直面することが予想される疑問に答えました。

講義では、Zoomによる開催に伴う運営者側と参加者側双方の不安を払拭するため、「インターネットと環境は、有線とWi-Fiはどちらがいい?」「機材は何が必要?スマホやタブレットじゃダメ?」「背景に生活感が出てしまう場合の対処法は?」「グループを分けたい時はどうすればいいの?」「接続が不安な人にはどう対処する?」「トラブルが起きた時の対処法は?」などの疑問に丁寧に回答しました。

担当者は、オンライン開催の難点として「リアクションが見えにくい」ことを挙げ、「真剣に聞いていても、小さくうなずくだけだと本当に聞いているのか画面がフリーズしているのかの区別がつかない。聴く側は、体いっぱいで『聴いていますよ』と伝えるオーバーリアクションが特に大切」と説明しました。

また、「参加者への事前の案内は、1回送っただけではメールを見ていなかったりすることもあるので、開催の1週間前、前日、などのタイミングで何度か送ることも大切である」と、事前の丁寧なやり取りの必要性について話しました。

「『オンライン形式のわかち合いの会』の運営基礎と傾聴スキル」  日本グリーフ専門士協会 井手敏郎代表理事

公認心理師である井手敏郎氏は、日本、アメリカ、ドイツの複数の団体でグリーフケアやカウンセリング等を学び、2015年に一般社団法人日本グリーフ専門士協会を設立しました。2016年から、オンラインによるグリーフケアに取り組んでいます。

講演では、「オンライン形式のわかち合いの会」の申し込み手順、当日の流れになどについて、オンラインならではの留意点を中心に解説しました。「場づくりで大切にしていること」として同協会の造語である「敬話敬聴」を示し、「ゆっくり丁寧に、優しく穏やかに話す。沈黙を大切に聞く、特別な体験として聴く」ことを意識することが大切だと語りました。さらに、「『特別な体験として聴く』というのは、相手の体験と自分の体験は異なることを認識して聴くということであり、自分の経験を横に置き、相手の経験を自身に重ね過ぎないということ、安易に『お気持ちわかります』という言葉を使うことでご遺族を傷つけてしまう可能性を意識することが大事だと思う」と話しました。

その上で、オンラインでの留意点について「相槌や頷きを、より意識して行うことが必要。ただ、オーバーリアクションが大事な一方で、グリーフの場には『はい!はい!』という強い相槌はそぐわないこともあり、深くゆっくりと相槌を打つ意識が大切だと思う」などと述べました。

オンライン開催中の緊急時の対応については、「PCの不調や、別途対応が必要な参加者のために、スタッフは二人体制をとる」、「参加者の具合が悪くなった場合等は、Zoomのブレイクアウトルーム機能を活用して個別対応を行う」などのポイントを説明しました。

井手氏は最後に「私がグリーフケアを続けてこられたのは、参加者の『悲しい』『つらい』という気持ちの奥には、亡くなった方への愛情や大切に思っていたという気持ちがあり、深く丁寧に聞くほど、その奥の気持ちに触れさせていただくことになる。それを考えると、私たちが力をいただいたり大事なことを教えていただいたりすることもある。こうした活動に従事する人が増え、協力できる流れが世の中にできると素敵だなと思う」と述べました。

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日本グリーフ専門士協会の井手敏郎代表理事

<第二部:実践編> 「オンライン形式のわかち合いの会」疑似体験(ブレイクアウトルーム)

第二部には、第一部の参加者のうち40人が参加。Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能を使って8つの小グループに分かれ、「オンライン形式のわかち合いの会」を疑似体験しました。ファシリテーター役は、講師やJSCP職員らが務めました。

各グループでは、ファシリテーターの進行により全員が簡単に自己紹介をした後、「あなたはなぜ、遺族のサポート活動に関わっていますか」とのテーマで参加者一人一人が「自分の気持ちを意識しながら」思いを語りました。その際に聴き手は、第一部で講師から助言があった「聴いていることが相手に伝わるよう、深くゆっくり相槌を打つこと」などを意識し、実践しました。

疑似体験の終了後は再び全体の会に戻り、井手氏から、「わかち合いの会」の最後に参加者の心を落ち着かせるために実施する「バタフライハグ」について説明がありました。バタフライハグは、自分自身を両手で抱きしめながら、両手を交互にタップさせることで心を落ち着かせるワークで 、オンラインならではの接続が突然途切れてしまう終わり方を、少しでも余韻を持った終わり方にするための工夫の一つとして紹介されました。ゆったりとした雰囲気の中でバタフライハグを行うことで、参加者の多くが安堵の表情を浮かべた状態で研修を終えることが出来ました。

【写真⑥】バタフライハグ.png

研修の最後に、「バタフライハグ」で心を落ち着かせる参加者ら
(参加者の許可を得て撮影)


第2回~4回目の研修会は1127日、2022129日、312日にオンライン開催を予定しており、「わかち合いの会」の対象者(大人、若者、子ども)別に、さらに詳しい運営ノウハウ等の習得を目指します。


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