調査・研究等
「令和5年度 革新的自殺研究推進プログラム 自殺対策推進レアール(委託研究成果報告会)」開催レポート
2024年10月30日
JSCPは、2024年9月2日・11日・20日の3日間にわたり、革新的自殺研究推進プログラム(*1)「自殺対策推進レアール(*2)(令和5年度委託研究中間・最終成果報告会)」をオンラインで開催しました(*3)。
「革新的自殺研究推進プログラム」は、科学的根拠(エビデンス)に基づいた政策立案及び社会還元に資する研究を推進するため、自殺対策関連分野の研究者等への公募による委託研究を行うものです。研究成果をより広く還元し地域での自殺対策の実践に生かしていくことを目的に、2023(令和5)年度に取り組んだ3つの領域に関する16の研究課題の成果報告会を実施。自殺対策の現場を担う地方自治体の自殺対策担当者や自殺対策関連学会に所属する方々を対象に参加者を募り、延べ約650人(領域1:約260人、領域2:約240人、領域3:約150人)の方にご参加いただきました。
■各領域の開催日
- 領域1(子ども・若者に対する自殺対策) :2024年9月20日
- 領域2(自殺ハイリスク群の実態分析とアプローチ):2024年9月2日
- 領域3(ビッグデータ・AI等を活用した自殺対策) :2024年9月11日
領域1:佐々木剛座長 |
領域2:藤森麻衣子座長 |
領域3:久保順也座長 |
各報告会の冒頭、JSCP代表理事の清水康之は、研究代表者や自殺対策の現場の最前線で活動している自治体職員など多くの方に参加いただいたお礼とともに、今回のレアールが研究者と自殺対策の現場を結ぶ対話の機会となるよう、積極的な議論を呼びかけました。
続いて、厚生労働省大臣官房参事官(自殺対策担当)の前田奈歩子氏と同省自殺対策推進室室長補佐の宮腰恵氏が挨拶。自殺をめぐる現状(第4次自殺総合対策大綱閣議決定後の各種の自殺対策施策、自殺者数の推移等)の紹介と、レアールにおける研究報告およびそれに対する参加者からの質問と意見交換の意義、さらに委託研究の成果が自殺対策に資するような形で還元されることへの期待を述べました。
前田奈歩子・厚労省大臣官房参事官 |
宮腰恵・厚労省自殺対策推進室室長補佐 |
3つの領域の報告会では、各領域のプログラムディレクター(領域1:佐々木剛氏(千葉大学附属病院)、領域2:藤森麻衣子氏(国立がん研究センター)、領域3:久保順也氏(宮城教育大学))が座長を務め、課題別の研究成果の報告と、領域ごとの全体討議を行いました。
3領域全体で計16課題に及ぶ研究代表者と研究分担者(代理発表者)が、それぞれの研究について報告し、これまでの取り組みや得られた成果などを説明。質疑応答では、参加者から多くの質問や意見が寄せられ、積極的に議論が行われました。
特に、2023年度で研究を終了した5つの研究課題(R4-1-1:池田利基氏、R4-1-6:藤原武男氏、R4-2-1:金吉晴氏、R4-2-4:松田晋哉氏、R4-3-3:椿広計氏)についての報告では、2022年度から2年間にわたる委託研究の結果や、それに基づく政策的インプリケーションに関する発表とともに質疑も活発に行われ、充実した成果発表の場となりました。
領域ごとの全体討議では、登壇者同士の議論・意見交換を実施。領域1では、研究成果の社会実装を考えた際に、「どのように多様な分野・異なる情報・異なるメンバーと、力を合わせ連携していくのか」について意見を交わしました。領域2では、「自治体の現場の職員や教職員・専門家等の『現場の支援者』に研究で得られたエビデンス(リスクや支援のポイント)などをどのように伝え広げていくことができるのか」について議論。領域3では、「研究成果の実装を展開する際・現場を意識し研究成果を還元していく際に直面するハードル(財政面、金銭的等)」について意見交換しています。
いずれの全体討議も、研究成果をどのように現場に届け、活用してもらうか、研究が現場とどのように連動するのかという、「研究をいかに社会実装するか」ということに向き合う議論となりました。
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領域2(自殺ハイリスク群の実態分析とアプローチ)の全体討議の様子 |
領域3(ビッグデータ・AI等を活用した自殺対策)の全体討議の様子 |
報告会の最後に、JSCP調査研究推進部長の西尾隆が閉会の挨拶。「今後、これらの研究成果を踏まえた社会実装に向けて、JSCPとしても研究者・現場・政策担当者等と協力していきたい」と、意欲を述べるとともに、すべての参加者に引き続いての協力をお願いしました。
*1「革新的自殺研究推進プログラム」は、官民横断型の自殺対策に関する総合的な研究プログラムとして、2017年度に創設されました。自殺総合対策大綱に明記された研究事業として、自殺総合対策推進センター(JSSC)が管理・運営を行ってきましたが、2020年度からはJSCPが、厚生労働大臣指定法人の事業の一環として管理・運営に当たっています。詳細は、こちらをご覧ください。
*2「自殺対策推進レアール」は、革新的自殺研究推進プログラムの委託研究成果報告会の名称です。「レアール」という言葉はフランス語で中央市場(Les Halles)を意味し、研究で得られた成果物を中央市場に持ち寄り吟味して、情報共有し、共有された成果物を各自が自分のフィールドに持ち帰って次のステップを進めていくという意図を込めています。
※「令和4年度 革新的自殺研究推進プログラム 自殺対策推進レアール」の開催レポートは、こちらをご参照ください。
■令和5年度 革新的自殺研究推進プログラム 委託研究一覧■
【領域1】子ども・若者に対する自殺対策
課題番号・研究課題名 |
研究代表者・所属・役職(レアール開催時のもの) |
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R4-1-1 |
オンライン不登校支援事業が子どもの学校復帰に及ぼす効果に関する研究 |
池田利基 |
関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構PD |
R4-1-2 |
SOSの出し方教育における地域連携モデルの開発 |
江畑慎吾 |
中京学院大学短期大学部保育科准教授 |
R4-1-3 |
児童生徒の自殺リスク予測アルゴリズムの解明:自殺リスク評価ツール(RAMPS)を活用した全国小中高等学校での大規模実証研究によって |
北川裕子 |
東京大学大学院教育学研究科身体教育学コース健康教育学分野 特任助教 |
R4-1-4 |
全小児科医を対象とした大規模調査:「小児科による自殺防止セーフティネット」構築へ向けた課題整理と政策提言に関する研究 |
呉 宗憲 |
東京医科大学小児科・思春期科学分野講師 |
R4-1-5 |
子どもの抑うつに対する遠隔メンタルヘルスケアの社会実装と早期受療システム整備-KOKOROBOと子どもの精神疾患レジストリ連携- |
佐々木 剛 |
千葉大学医学部附属病院こどものこころ診療部准教授 |
R4-1-6 |
大学生および妊産婦の社会的孤立・孤独に注目したAYA世代の自殺対策プログラムの開発 |
藤原武男 |
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科公衆衛生学分野教授 |
R4-1-7 |
学校において教職員がゲートキーパーとして機能するためには何が必要か?―チーム学校によるマルチレベルな自殺予防体制の支援・組織モデルの構築― |
目久田純一 |
梅花女子大学心理こども学部こども教育学科准教授 |
【領域2】自殺ハイリスク群の実態分析とアプローチ
課題番号・研究課題名 |
研究代表者・所属・役職(レアール開催時のもの) |
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R4-2-1 |
トラウマを有する者における自殺行動の予測と予防に向けた認知機能・認知バイアスの検討 |
金 吉晴 |
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所名誉所長 |
R4-2-2 |
非行を有するハイリスクな青少年の自殺・自傷行為の理解・予防・対応策に関する包括的な検討 |
高橋 哲 |
お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系准教授 |
R4-2-3 |
がん患者の自殺に関する全国実態分析とがん診療病院自殺対策プログラムの検討 |
藤森麻衣子 |
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所サバイバーシップ研究部支持・緩和・心のケア研究室室長 |
R4-2-4 |
DPCおよびレセプトデータを用いた自殺企図者の医療機関受診状況の分析 |
松田晋哉 |
産業医科大学医学部教授 |
【領域3】ビッグデータ・AI 等を活用した自殺対策
課題番号・研究課題名 |
研究代表者・所属・役職(レアール開催時のもの) |
||
R4-3-1 |
視覚情報のAI分析を活用したメンタルヘルスDXプロジェクト |
奧山純子 |
東京農工大学保健管理センター准教授 |
R4-3-2 |
IoT活用による子どもの援助希求行動の促進に関する研究 |
久保順也 |
宮城教育大学大学院 高度教職実践専攻(教職大学院) 教授 |
R4-3-3 |
ポストコロナの自殺対策に資する統計等のミクロデータ利活用推進に関する研究 |
椿 広計 |
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構統計数理研究所椿研究室名誉教授 |
R4-3-4 |
過量服薬のゲートキーパーの養成を目指したビッグデータ解析と新規養成システムの構築:地域の薬局を「気付き」と「傾聴」の拠点とした過量服薬の防止 |
永島一輝 |
千葉大学薬学研究院先端実践薬学講座実務薬学研究室助教 |
R4-3-5 |
兵庫県における医療ビッグデータと法医学データを組み合わせたコホートデータベースを用いたリアルワールドデータによる自殺リスクの検討 |
宮森大輔 |
広島大学病院総合内科・総合診療科診療講師 |
※令和5年度で終了した5つの研究課題:課題番号R4-1-1、R4-1-6、R4-2-1、R4-2-4、R4-3-3
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