調査・研究等
「令和4年度 革新的自殺研究推進プログラム 自殺対策推進レアール(委託研究成果報告会)」開催レポート
JSCPは、2023年7月と8月の3日間、令和4年度 革新的自殺研究推進プログラム 自殺対策推進レアール(委託研究成果報告会)をオンラインで開催しました。令和4年度に採択された計16の研究課題について、3つの領域ごとに報告と議論を行いました。
■各領域の開催日
- 領域1(子ども・若者に対する自殺対策) :2023年7月31日(月)
- 領域2(自殺ハイリスク群の実態分析とアプローチ):2023年8月8日(火)
- 領域3(ビッグデータ・AI等を活用した自殺対策) :2023年8月7日(月)
今回の自殺対策推進レアールは昨年度に引き続き、研究成果をより広く社会に還元し地域での自殺対策の実践に生かしていくため、委託研究の関係者だけでなく、市町村を含めた地方自治体の自殺対策担当者や自殺対策関連学会に所属する方々に対して参加を募りました。その結果、自治体関係者を中心に、各回とも多くの方にご参加いただきました(領域1:約430名、領域2:約300名、領域3:約210名)。
開催にあたりJSCP代表理事の清水康之が、この自殺対策レアールが、自殺対策の研究と実践と政策の連動性を高めるために必要な面々がそろい踏みする形での開催となったことへの感謝を述べ、参加者に対して「実践現場の声を、質問・要望という形で研究代表者に積極的にぶつけていただきたい。それが、研究と実務の連動性を高めていく重要な機会となる」と呼びかけました。
また、厚生労働省大臣官房参事官(自殺対策担当)の前田奈歩子氏と自殺対策推進室室長補佐の鈴木航太氏からも挨拶があり、自殺対策の提言に速やかにつながる実践的な研究の場としての革新的自殺研究推進プログラムの意義についての説明と、今回の自殺対策推進レアールを経て各研究課題がより一層有効な自殺対策に還元できる研究成果となることへの期待が述べられました。
各領域の報告会では、領域のプログラムディレクター(領域1:佐々木剛氏・千葉大学附属病院、領域2:藤森麻衣子氏・国立がん研究センター、領域3:久保順也氏・宮城教育大学)が座長を務め、課題別の研究成果の報告(代表発表者からの発表15分、質疑応答10分の計25分)と、全体討議(20分~25分)が行われました。
いずれの研究課題も令和5年度末あるいは令和6年度末までの研究であり、今回は中間報告となりましたが、それぞれがこれまでの取り組みや既に得られた成果について中身の濃い説明を行い、多様な分野の研究がどのように自殺対策にかかわっているのか幅広く知ることができる機会となりました。
質疑応答や討議では、自殺対策や自殺研究の多岐にわたる課題について議論が展開されました。様々な研究に共通する課題としては、誰とどのように連携するのかといった「連携」に関すること、データを含めた様々なイノベーションに伴いそれを生かす「人材」に関すること、自治体の現場の職員や教職員等に対する「支援者支援」に関すること、それらを解決するための政策資源の必要性等についても議論が及びました。
参加者からは質問や意見が積極的に寄せられ、活発な議論や意見交換が行われました。
3日間にわたる報告会の最後に、JSCP調査研究推進部長の西尾隆が閉会の挨拶をしました。今回の報告会が、研究者同士はもちろんの事、研究に日頃かかわっていない方も含め、多様な分野の方々の交流の機会となったことを踏まえて、それが「生き心地の良い社会の形成」に向けて革新的な新しいアイデアが生まれるきっかけとなる可能性に言及しました。そして、参加したすべての方へ引き続きのご協力をお願いしました。
JSCP調査研究推進部長の西尾隆
※「革新的自殺研究推進プログラム」は、官民横断型の自殺対策に関する総合的な研究プログラムとして、2017年度に創設されました。自殺総合対策大綱に明記された研究事業であり、自殺総合対策推進センター(JSSC)が管理・運営を行ってきましたが、2020年度からはJSCPが、厚生労働大臣指定法人の事業の一環として管理・運営にあたっています。詳細は、こちらをご覧ください。
※「自殺対策推進レアール」は、革新的自殺研究推進プログラムの委託研究成果報告会の名称です。『レアール』という言葉はフランス語で中央市場(Les Halles)を意味し、研究で得られた成果物を中央市場に持ち寄り吟味して、情報共有し、共有された成果物を各自が自分のフィールドに持ち帰って次のステップを進めていくという意図を込めています。革新的自殺研究推進プログラムが創設されてから、今回で5回目(JSCPとしては3回目)の開催となりました。
※「令和3年度 革新的自殺研究推進プログラム 自殺対策推進レアール」の開催レポートは、こちら。
令和4年度 革新的自殺研究推進プログラム 委託研究一覧
【領域1】子ども・若者に対する自殺対策
課題番号・研究課題名 | 研究代表者・所属・役職 | ||
1-1 | オンライン不登校支援事業が子どもの学校復帰に及ぼす効果に関する研究 | 池田 利基 | 認定NPO法人カタリバ 研究チーム 研究員 |
1-2 | SOSの出し方教育における地域連携モデルの開発 | 江畑 慎吾 | 中京学院大学 短期大学部 保育科 准教授 |
1-3 | 児童生徒の自殺リスク予測アルゴリズムの解明:自殺リスク評価ツール(RAMPS)を活用した全国小中高等学校での大規模実証研究によって | 北川 裕子 | 東京大学大学院 教育学研究科身体教育学コース健康教育学分野 特任助教 |
1-4 | 全小児科医を対象とした大規模調査:「小児科による自殺防止セーフティネット」構築へ向けた課題整理と政策提言に関する研究 | 呉 宗憲 | 東京医科大学 小児科・思春期科学分野 講師 |
1-5 | 子どもの抑うつに対する遠隔メンタルヘルスケアの社会実装と早期受療システム整備-KOKOROBOと子どもの精神疾患レジストリ連携 | 佐々木 剛 | 千葉大学医学部附属病院 こどものこころ診療部 副部長・講師 |
1-6 | 大学生および妊産婦の社会的孤立・孤独に注目したAYA世代の自殺対策プログラムの開発 | 藤原 武男 | 東京医科歯科大学 国際健康推進医学分野 教授 |
1-7 | 学校において教職員がゲートキーパーとして機能するためには何が必要か?―チーム学校によるマルチレベルな自殺予防体制の支援・組織モデルの構築― | 目久田 純一 | 梅花女子大学 心理こども学部こども教育学科 准教授 |
【領域2】自殺ハイリスク群の実態分析とアプローチ
課題番号・研究課題名 | 研究代表者・所属・役職 | ||
2-1 | トラウマを有する者における自殺行動の予測と予防に向けた認知機能・認知バイアスの検討 | 金 吉晴 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 所長 |
2-2 | 非行を有するハイリスクな青少年の自殺・自傷行為の理解・予防・対応策に関する包括的な検討 | 高橋 哲 | お茶の水女子大学 基幹研究院人間科学系 准教授 |
2-3 | がん患者の自殺に関する全国実態分析とがん診療病院自殺対策プログラムの検討 | 藤森 麻衣子 | 国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 サバイバーシップ研究部 支持・緩和・心のケア研究室 室長 |
2-4 | DPCおよびレセプトデータを用いた自殺企図者の医療機関受診状況の分析 | 松田 晋哉 | 産業医科大学 医学部 教授 |
【領域3】新たな政策領域の開拓
課題番号・研究課題名 | 研究代表者・所属・役職 | ||
3-1 | 視覚情報のAI分析を活用したメンタルヘルスDXプロジェクト | 奧山 純子 | 東北大学病院 リハビリテーション科 助教 |
3-2 | IoT活用による子どもの援助希求行動の促進に関する研究 | 久保 順也 | 宮城教育大学大学院 高度教職実践専攻(教職大学院) 教授 |
3-3 | ポストコロナの自殺対策に資する統計等のミクロデータ利活用推進に関する研究 | 椿 広計 | 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所 椿研究室 名誉教授 |
3-4 | 過量服薬のゲートキーパーの養成を目指したビッグデータ解析と新規養成システムの構築:地域の薬局を「気付き」と「傾聴」の拠点とした過量服薬の防止 | 永島 一輝 | 千葉大学 薬学研究院 先端実践薬学講座 実務薬学研究室 助教 |
3-5 | 兵庫県における医療ビッグデータと法医学データを組み合わせたコホートデータベースを用いたリアルワールドデータによる自殺リスクの検討 | 宮森 大輔 | 広島大学病院 総合内科・総合診療科 診療講師 |
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