自殺対策概要

自殺対策の歩み

「自殺する奴は弱い人間だ」「自ら勝手に死んだんだ」―――。自殺は、かつては「個人の問題」と認識されがちでしたが、2006年10月に自殺対策基本法(以下「基本法」という。)が施行されて以降、広く「社会の問題」と認識されるようになり、国を挙げて自殺対策が総合的に推進されるようになりました。2016年には基本法が改正されて、「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指すために、すべての都道府県及び市町村が自殺対策計画を策定することになる(地域自殺対策計画策定の義務化)など、時代の状況に応じて、我が国の自殺対策は大きく変化し続けています。

「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指して

「自殺する奴は弱い人間だ」「自ら勝手に死んだんだ」―――。「個人の問題」と認識されがちであった自殺は、2006年10月に自殺対策基本法(以下、「基本法」)が施行されて以降、広く「社会の問題」と認識されるようになり、国を挙げて自殺対策が総合的に推進されるようになりました。10年後の2016年には、基本法が大きく改正され、全国どこででも「生きることの包括的な支援」として自殺対策が推進されるよう、すべての都道府県及び市区町村が当該地域の自殺実態を踏まえた地域自殺対策計画を策定することとなりました(計画策定の義務化)。このように、我が国の自殺対策は、基本法第一条(目的)にも謳われているように、「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指して、進化し続けています。

自殺が「社会の問題」になるまでの状況(~2006年)

うつ病対策や職場のメンタルヘルス対策が中心

我が国においては、1998年に自殺者数が急増するまでは、自殺問題が行政上の課題とされることは少なく、その後も、自殺対策について国全体としての基本方針は策定されてきませんでした。国における取り組みは、厚生労働省におけるうつ病対策や、職場のメンタルヘルス対策を中心に、結果的に自殺予防に寄与していると認められる取り組みを含め、各府省がそれぞれに実施しているのが実態でした。

自死遺族や民間団体の声が、自殺が「社会の問題」となる一歩に

このような状況の下、自殺者の遺族や自殺予防活動、遺族支援に取り組んでいる民間団体から、「個人だけでなく社会を対象とした自殺対策を実施すべきである」といった声が強く出されるようになりました。
2005年5月には、「特定非営利活動法人自殺対策支援センターライフリンク」と国会議員有志との共催により、参議院議員会館において、「自殺を防ぐために いま私たちにできることとは」と題したシンポジウムが開催され、さらに、同年7月には参議院厚生労働委員会において「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」が全会一致で行われました。
これらを受け、政府は、関係省庁が一体となって自殺対策を総合的に進めるため、同年12月に「自殺予防に向けての政府の総合的な対策について」を取りまとめました。

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『自殺って言えない』
自死遺児編集委員会・あしなが育英会(編)
2000

『自殺って言えなかった。』
自死遺児編集委員会・あしなが育英会(編)
2005、サンマーク文庫)

あしなが育英会から奨学金を受けている大学生、専門学校生の「自死遺児」たちが自らの体験や苦しみなどを書いたこの2冊の手記集は、社会で大きな反響を呼んだ。

自殺対策基本法の制定へ(2006年)

法制化に向けた署名活動

2006年には、自殺予防活動や遺族支援に取り組んでいる民間団体が中心となって、政府の自殺対策の動きをより確実なものとし、実効性のある総合的な自殺対策を推進させるためには、自殺対策の法制化が必要であるとして、「自殺対策の法制化を求める3万人署名」と称する署名活動が全国で展開されました。結果、10万余の署名が参議院議長に提出されました。

超党派の「自殺防止対策を考える議員有志の会」による法案の提出

また、国会では超党派の「自殺防止対策を考える議員有志の会」が結成され、「自殺対策基本法案」について検討が進められました。法案は、2006年6月9日に参議院本会議、15日に衆議院本会議で可決され、21日に自殺対策基本法として公布、10月21日に施行されました。

国における自殺対策の推進体制が作られる

2006年10月、自殺対策基本法に基づき、内閣官房長官を会長とし、内閣総理大臣が指定する関係閣僚を構成員とする「自殺総合対策会議」が設置されました。同会議は、大綱の案の作成のほか、自殺対策に必要な関係行政機関相互の調整、自殺対策に関する重要事項について審議し、その実施を推進することとされ、各府省にまたがる自殺対策を統括し推進するための枠組みとしての機能を担っています。また、2007年4月、内閣府に自殺対策推進室が設置され、自殺総合対策会議の事務局機能を担うこととされました。

自殺対策基本法の理念

自殺対策基本法の基本理念として、第2条第2項に「自殺対策は、自殺が個人的な問題としてのみ捉えられるべきものではなく、その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取り組みとして実施されなければならない。」と定められ、自殺が初めて「社会問題」として捉えられました。
また、「自殺対策は、保健、医療、福祉、教育、労働その他の関連施策との有機的な連携が図られ、総合的に実施されなければならない。(第2条第5項)」とし、単に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して対策が実施されることとなりました。

自殺総合対策大綱の制定(2007年)

最初の自殺総合対策大綱の策定(2007年)

自殺対策基本法においては、政府の推進すべき自殺対策の指針として、基本的かつ総合的な自殺対策の大綱を策定することとされました。この大綱では、
〈自殺は追い込まれた末の死〉
〈自殺は防ぐことができる〉
〈自殺を考えている人は悩みを抱え込みながらもサインを発している〉
という自殺に対する3つの基本的な認識のもと、自殺対策を進める上では、失業、倒産、多重債務、長時間労働等の社会的要因も踏まえて総合的に取り組むという基本的考え方を示しました。
また、自殺対策の数値目標として、「2016年までに、2005年の自殺死亡率を20%以上減少させる」ことを掲げました。なお、大綱についてはおおむね5年をめどに見直しを行うこととされました。

地域における自殺対策推進のための枠組み整備

自殺対策基本法の成立や自殺総合対策大綱の策定を受け、各都道府県において、自殺対策を担当する部局等が明確化されるとともに、2008年度末までに全都道府県において様々な分野の関係機関・団体により構成される自殺対策の検討の場として、自殺対策連絡協議会等が設置されました。

地域自殺対策緊急強化事業

地域自殺対策緊急強化基金(2009年)

内閣府では、「地域における自殺対策力」を強化するため、2009年度補正予算において100億円の予算を計上し、都道府県に当面3年間の対策に係る「地域自殺対策緊急強化基金」を造成しました。これは、1998年以降、年間の自殺者数が11年連続して3万人を超えたこと、また、厳しい経済情勢を背景とした自殺の社会的要因である失業や倒産、多重債務問題の深刻化への懸念から、追い込まれた人に対するセーフティーネットの一環として、地域における自殺対策の強化が喫緊の課題となっていたことを踏まえたものです。
地域自殺対策緊急強化基金の100億円の予算については、各都道府県の人口や自殺者数等に基づき配分され、各都道府県では、条例を制定するとともに、実施事業の内容等を盛り込んだ計画を策定し、執行されました。基金事業の内容については、国が提示した「対面型相談支援事業」、「電話相談支援事業」、「人材養成事業」、「普及啓発事業及び強化モデル事業」の5つのメニューの中から、各都道府県が地域の実情を踏まえて選択し、実施されました。

第2次自殺総合対策大綱(2012年)

地域レベルの実践的な取り組みを中心とする自殺対策への転換

2012年には大綱の見直しを行い、「誰も自殺に追い込まれることのない社会」という目標を提示し、今後の課題として、「地域レベルの実践的な取り組みを中心とする自殺対策への転換」が指摘されました。自殺総合対策の基本的な考え方として、「政策対象となる集団毎の実態を踏まえた対策を推進する」、「国、地方公共団体、関係団体、民間団体、企業及び国民の役割を明確化し、その連携・協働を推進する」の2つが追加されました。

当初の数値目標を達成

第1次及び第2次大綱では、数値目標は「2016年までに、自殺死亡率を2005年と比べて20%以上減少させる」と設定されました。2005年の自殺死亡率は24.2であり、それを20%減少させると19.4となります。2016年の自殺死亡率は16.8で、2005年時点から30.6%の減少となっており、目標を10.6ポイント上回る減少を達成しました。

自殺対策業務が厚生労働省へ移管(2016年)

自殺対策の推進業務は、内閣府から厚生労働省へ移管することとされ、2016年4月1日をもって業務が移管されました。

厚生労働省に移管された背景

現場とより緊密な連携を目指して
自殺対策基本法(2006)の施行以来、内閣府において自殺総合対策大綱を2度策定し、これに沿った様々な取り組みが進められてきた結果、年間の自殺者数が約2万4,000人まで減少するなど、着実に成果を出してきました。
一方、今後、地域レベルの実践的な取り組みを中心とする自殺対策への転換を一層進め、健康問題や経済的困窮を始めとする自殺の背景にある様々な要因に対して、地域において自殺対策の中核を担っている自治体の保健・福祉部局等や、経済的な自立を支えるハローワークなどの現場と緊密に連携することがますます重要となると考えられました。こうした現場と関連が深い厚生労働省に移管することで、取り組み体制の更なる強化を図ることになりました。
2016年4月1日に厚生労働省に自殺対策推進室が設置され、内閣府の担ってきた事務を引き継ぎました。同日付で厚生労働大臣を長とする「自殺対策本部」を設置。多岐にわたる自殺対策を総合的に推進するため、保健、医療、福祉、労働その他の関連施策の有機的連携を図り、省内横断的に取り組んでいくこととなりました。

自殺対策基本法の改正(2016年)

自殺対策基本法改正の経緯

自殺対策基本法の施行から10年が経過しようとする中、自殺対策に取り組む民間団体や自殺対策を推進する国会議員を中心に、我が国の自殺対策を更に強化・加速させるために、この10年間に蓄積された様々な知見や経験を踏まえた自殺対策基本法の見直しが必要であるという機運が高まっていきました。
2015年5月、「NPO法人 自殺対策支援センターライフリンク」の主催、「自殺対策全国民間ネットワーク」、「自殺のない社会づくり市区町村会」及び「自殺対策を推進する議員の会」の共催により、自殺総合対策の更なる推進を求める院内集会が開催され、自殺対策を推進する議員の会に対し、自殺対策基本法の改正を始めとする12項目からなる要望書が提出されました。
国会においても、同年6月2日、参議院厚生労働委員会において自殺総合対策等をテーマとした審議が行われ、「自殺総合対策の更なる推進を求める決議」が全会一致で可決されました。
自殺対策を推進する議員の会からの改正案は2016年2月24日に参議院本会議において全会一致で可決。3月22日には衆議院本会議において全会一致で可決・成立し、4月1日から施行されました。

自殺対策計画の策定が全都道府県、市区町村において義務化

2016年4月1日に改正された自殺対策基本法は、誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して、自殺対策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、事業主、国民のそれぞれの責務を明らかにするとともに、自殺対策の基本となる事項を定めること等により、自殺対策を総合的に推進して、自殺防止と自殺者の親族等の支援の充実を図り、国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的としています。
都道府県は、自殺総合対策大綱及び地域の実情を勘案して、都道府県自殺対策計画を定めるものとされ、また、市町村においても、自殺総合対策大綱及び都道府県自殺対策計画並びに地域の実情を勘案して、市町村自殺対策計画を定めるものとされました。

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第3次自殺総合対策大綱(2017年)

「子ども・若者の自殺対策」などが重点施策に

第3次大綱では、基本理念として、自殺対策は社会における「生きることの阻害要因」を減らし、「生きることの促進要因」を増やすことを通じて、社会全体の自殺リスクを低下させる方向で推進するものとすることが新たに掲げられるとともに、基本方針として、

  • 自殺対策は「生きることの包括的な支援として推進する」
  • 関連施策との有機的な連携を強化して総合的に取り組む
  • 対応の段階に応じてレベルごとの対策を効果的に連動させる


こと等が盛り込まれました。また、第2次大綱では9つであった当面の重点施策が12施策へと拡充され、新たに、「地域レベルの実践的な取組への支援を強化する」、「子ども・若者の自殺対策を更に推進する」、「勤務問題による自殺対策を更に推進する」等が盛り込まれました。
自殺対策の推進体制については、改正自殺対策基本法を踏まえ、「地域における計画的な自殺対策の推進」が盛り込まれました。

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自殺対策の中核を担う「指定調査研究等法人」の新法が制定(2019年)

自殺対策の一層の充実を図るため、「自殺対策の総合的かつ効果的な実施に資するための調査研究及びその成果の活用等の推進に関する法律」が2019年6月6日に成立し、自殺対策を支える調査研究及びその成果の活用等の中核を担う調査研究等法人を厚生労働大臣が指定する制度が創設されました。

いのち支える自殺対策推進センターが指定調査研究等法人に(2020年)

多分野と連動した調査研究及び地域自殺対策の支援を推進

2020年2月に同法に基づき一般社団法人いのち支える自殺対策推進センターが指定調査研究等法人に指定され、同年4月から業務が開始されました。これに伴い、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)にあった自殺総合対策推進センター(JSSC)は廃止されました。今後は、指定調査研究等法人を中核として、保健、医療、福祉、教育、労働など広く関連施策と連動した総合的かつ効果的な自殺対策の実施に必要な調査研究及びその活用、地域レベルの実践的な自殺対策の取組みへの支援が行われていくことになっています。

第4次自殺総合対策大綱(2022年)

自殺者数は依然として年間2万人を超える水準で推移しており、男性が大きな割合を占める状況が続く中、更にコロナ禍の影響で自殺の要因となる様々な問題が悪化したことなどにより、女性は2年連続の増加、小中高生は過去最多の水準となった。
こうした状況を踏まえ、

  • 子ども・若者の自殺対策の更なる推進・強化
  • 女性に対する支援の強化
  • 地域自殺対策の取組強化
  • 総合的な自殺対策の更なる推進・強化

などを新たに位置づけた。

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