啓発・提言等

「第1回 自殺報道のあり方を考える勉強会~報道の自由と自殺リスクの狭間で~」 実施レポート

2021年8月10日

いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)2021620日(日)午後2時~4時半、「第1回 自殺報道のあり方を考える勉強会~報道の自由と自殺リスクの狭間で~」をオンラインで開催しました。2020年7月と9月には有名俳優が相次いで自殺で亡くなり、その直後に自殺者数が急増する事態が起きました。本勉強会は、あれから1年を迎えるのを前に再び自殺報道の増加が予想される中、関係者が本音で議論し合える場とするため、対象者をメディア関係者に限定。大手や地方の新聞社、テレビ局を中心に、インターネットメディア、雑誌などで報道に携わる約110人が全国から参加しました。ジャーナリストでメディアコラボ代表の古田大輔氏、朝日新聞社社会部兼地域報道部次長の永田工氏、NHK大型企画開発センター・チーフプロデューサーの渡辺由裕氏が講演し、参加者から寄せられた自殺報道に関する悩みや疑問について共に考えました。(当日のプログラムはこちら

開会の挨拶 JSCP代表理事・清水康之

JSCP代表理事の清水康之が冒頭で挨拶し、2020年の自殺者数の推移と自殺報道の影響について、JSCPの分析データなどに基づいて説明しました。

まず、月別の自殺者数の推移(Figure1)を示し、新型コロナウィルスの影響等で4~6月に大幅に減少していた全国の自殺者数が、7月と10月に大幅に増加したことを報告しました。次に、1日ごとの自殺者数の推移(Figure2、過去5年間の自殺者数を基に2020年の自殺者数を予測し実際の自殺者数との差を表示)を示し、「さらに詳細なデータを見ていくと、有名男性俳優の自殺報道があった翌日の7月19日と、有名女性俳優の自殺報道があった当日の927日に自殺者が急増したことが分かる。著名人の自殺報道直後に自殺者が急増したことは明らかだ」と解説しました。

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また、JSCPとは別に代表を務める自殺対策のNPO「ライフリンク」が実施する電話・SNS相談事業には自殺報道後、「芸能人の自殺のニュースを見て自分もそっち(自殺)に引き込まれてしまいそうで怖い」(30代女性)、「新型コロナの影響で客が減り経営が厳しくてお金が心配。芸能人のように自分も自殺して楽になりたい」(40代男性)などの声が多数寄せられたことを紹介。「新型コロナウィルスの影響で仕事や生活、人間関係等に関する悩みや不安を抱えていた人たちが、相次ぐ有名人の自殺報道に触れて自殺の方向に後押しされてしまったのではないかと、私たちは捉えている」と話しました。

また、JSCP2020年度中、著名人が自殺で亡くなった際にWHOの「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2017年版」(いわゆる「自殺報道ガイドライン」)に沿った報道を呼びかける注意喚起を、報道各社(計82社、242媒体)に対し計9回実施したことを報告しました。その上で清水は「だからといって自殺の報道を全くすべきではないと申し上げたいわけではない。私はNHKの報道ディレクターだった経験から、今自殺が起きていること、なぜ起きているのか、どういう支援があれば亡くならずに生きる道を選べたのか、といった情報をしっかり伝えていくのは報道の責務でもあると考えている。ただ報道の仕方によって、受け手を自殺の方向へ追いやってしまう現実があり、報道のリスクを精査しながら伝えていただく必要あると思う。私たち自殺対策の専門家が一方的に(ガイドラインを)押し付けるのではなく、どういう報道は避けるべきか、あるいは可能なのかを皆さんと一緒に考えていきたい」と述べました。

「報道が自殺のトリガーになってはいないか? ~30万人の自殺記録と数値解析~」JSCP分析チーム・阿部博史氏

続いて、JSCP分析チームの阿部博史氏が、「報道が自殺のトリガーになってはいないか?~30万人の自殺記録と数値解析~」と題して講演しました。厚生労働大臣の指定を受けた調査研究等法人であるJSCPは、自殺の実態について分析することを責務としており、過去12年間に自殺で亡くなった約30万人の自殺統計原票データを用いた分析も行っています。これまでは月単位の自殺者数など大まかなデータしか公表されていませんでしたが、自殺が起きた日時や原因などについてさらに詳細な分析が行えるようになりました。阿部氏は、自殺統計原票のデータをビッグデータ解析や機械学習など高度な数理解析を用いて分析した結果について、報告しました。

日次データから見えてきたこと

阿部氏は、これまで公表されてきた月単位の自殺者数のグラフと、国内の新型コロナウィルスの感染者数のグラフを並べて示し(Figure3)、「グラフの盛り上がりの時期が重なって見えることから『新型コロナの影響で自殺者か増えている』と報じてしまいそうになるかもしれない。しかし、さらに細かい日次データを見ていくと、7月の有名男性俳優の自殺と9月の有名女性俳優の自殺が自殺者数の大きな底上げ要因となっていることか分かってきた」と話しました。特に女性俳優の影響について「自殺日を含めた10日間で約200人が女優の自殺・自殺報道の影響を受けて亡くなった可能性がある」との分析結果を示し、「自殺には様々な要因があるが、自殺念慮を持つ方々にとって、有名俳優の自殺報道を目にしたことがトリガー(引き金)になってはいないか」と問いかけました。

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時間単位のデータから見えてきたこと

さらに、7月18日(土)午後3時ごろに有名俳優の自殺が報じられた時間を起点に、いずれも時間単位の「自殺者数」、「ツイッター投稿数」、「自殺報道の量」のデータを重ね合わせて分析した結果、自殺が報じられた直後にツイッターで男性俳優のフルネーム、「自殺」、「首吊り」の3つのワードがバースト(急な盛り上がり)し、その山が穏やかになった夜間帯に「〇〇したくない」、「リストカット」、「死にたい」、「孤独」、「助けて」の言葉を含むツイッターの投稿数が少しずつ時間をずらしながらピークを迎え、明け方に自殺者数が増加していることが分かりました(Figure4)。

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19日は日曜日だったため自殺報道の量も大きく増えることはありませんでしたが、夜間帯はツイッターの投稿で前日と同様の傾向が見られ、その後自殺者が増加しました。翌20日(月)は状況が大きく変わり、午前中から大量の自殺報道が集中的にあり、それと重なる時間帯に自殺者数が増加しました。阿部氏は、「この月曜日は稀に見る自殺者が多い1日になった。テレビのワイドショーなどで男性俳優の自殺が集中的に取り上げられ、自殺の手段や場所、亡くなった方の人間性についても共感できるような形で視聴者に伝わった。それが後追い自殺につながっていないか、慎重にみていかなければならない」とし、「自殺者数を曜日別にみると、月曜日はとにかく自殺リスクが高いことが分かる(Figure5)。特に月曜日の朝の番組を担当される方は、報道が自殺を後押ししてしまうリスクがないか注意する必要があるのではないか」と話しました。

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最後に阿部氏は、「自殺に関する報道がたくさんあっても、自殺者があまり増えない場合もある。自殺者数は報道量だけでなく、その後SNSでどれだけ拡散したか、どれだけ検索されたかなどが複合的に影響しており、すべての自殺報道をやめる必要はない。ただ、SNSで過度に拡散しない、不安が増幅しやすい夜の時間帯や月曜日の午前中の報道を控えるなど、少しずつ配慮していくことで自殺を減らしていけるのではないかいうことが、データ分析から見えてきた」と述べました。

【講演1】「デジタル時代の自殺報道の現状と課題」 ジャーナリスト/メディアコラボ代表 古田大輔氏

ジャーナリストの古田大輔氏は、朝日新聞記者を経てネットメディア「BuzzFeed Japan」創刊編集長などを務めた経験から、ネット上で拡散される自殺報道について「インターネットメディアの責任と考えられがちだが、拡散されている情報の起点はマスメディアの報道であり、新聞やテレビも『ネットメディアである』という自覚と責任を持つことが重要だ」と述べました。

古田大輔(ジャーナリスト/メディアコラボ代表).png

昨年の自殺報道で最も拡散したニュースとは?

古田氏は、2020年中の有名人の自殺報道でインターネット上で最も拡散されたのは、ある民放テレビ局がニュース速報をツイートしたもの(ニュース動画の添付あり)で、推定インプレッション(このツイートを目にした人の数)は5700万回、合計エンゲージメント数(このツイートをリツイートしたり、「いいね」したりした数)は11万3600回に上るとのデータを示しました。さらに、最もシェアされたのは、同じ速報がyahooニュースを通して配信されたものの「コメント欄」(約26万シェア)、次いで同じ記事の本文(約19万8000シェア)であったとし、こうした状況から「新聞やテレビが流す速報は、ネット上で圧倒的に強い影響力を持つことが分かる」と述べました。

「デジタル時代」になぜ、新聞やテレビの報道が強い影響力を持つのか?

ネット上で様々な情報があふれる時代に、とりわけ自殺報道において新聞やテレビの影響力が強いのはなぜでしょうか。

古田氏は、

1)警察や消防が発生を覚知

2)新聞やテレビなどマスメディアが加盟する警察記者クラブに情報を発表

3)加盟社の事件担当記者が記事化して速報

という報道の流れを示した上で、「警察からの情報を得ることができるのは記者クラブに加盟できるマスメディアだけであり、マスメディアが事件(自殺)報道の起点になっている」と指摘しました。さらに、速報記事がその後、記事を集めて配信する大手「アグリゲーター」によってプッシュ通知で大量拡散されると同時に報道各社のSNSアカウントからツイッターなどに投稿されてシェアが広がり、さらに記事の引用や噂によりコンテンツを作成する「まとめサイト」により誤情報化していくとし、「マスメディアの『ネットへの責任』の自覚が非常に重要になってきているのではないか」と問いかけました。

自殺報道の現状と課題

古田氏は有名俳優の自殺が報じられた翌日の2020年7月19日、報道各社の対応がWHO自殺報道ガイドラインが示す「やってはいけないこと」「やるべきこと」に沿ったものであるかどうかを検証する記事(https://news.yahoo.co.jp/byline/furutadaisuke/20200719-00188898)を公表しました。そうした状況を踏まえ、最近の自殺報道について「記事の末尾に相談窓口の情報を掲載する、関連リンクに相談窓口の情報を入れる、などの対応を取る社が複数あった。一方で、WHOガイドラインが『やってはいけないこと』としている『過度な報道』に当てはまるのではないかと思われる部分もあった」とし、マスメディアの速報を起点にアグリゲーターがプッシュ通知することで自殺報道がスマホのタイムラインに強制的に送られる状況があったこと、一部メディアで自殺の場所や手段に関する詳しい情報が報じられ、それがソーシャルメディアと『まとめサイト』で一気に拡散したことなどを問題点として挙げました。

古田氏は報道各社が取り組みを進めていることに理解を示した上で、「だが、より細かな部分でまだまだできることはあるのではないか」と指摘。米国の自殺対策団体がジャーナリストらと議論してよりきめ細かな自殺に関する報道指針「Reporting On Suicide」を作成した取り組みを紹介しました。自殺した人の遺書の内容の報じ方等について表現の細部までを具体的に例示している点などを挙げ、「デジタル時代に『報道』の概念が広がる中で、報道指針をマスメディアだけでなく、オンラインメディアやブログの書き手などにも提供していくような取り組みも、今後は重要になってくるのではないか」と問題提起しました。そして最後に、「そもそも、なぜ自殺を報じるのか、何のためにその情報を社会と共有する必要があるのかを、きちんと考える必要があると思う」と語りました。

【講演2】「社独自のガイドライン作成とニュース報道の現場での取り組みについて」 朝日新聞社社会部兼地域報道部次長 永田工氏

朝日新聞社の社会部兼地域報道部次長(いわゆる「デスク」)としてニュース報道の最前線で働く永田氏は、長年事件・事故報道に携わり、警視庁捜査一課担当、デジタル編集部デスクなどを経て2019年から現職を務められています。講演では事件報道とデジタル報道の両方に関わってきたご自身の経験も踏まえ、朝日新聞社が独自の自殺報道に関するガイドラインを作成した経緯について、また、同社が現在どう自殺報道と向き合いどのような報道を行っているのかについてお話しいただきました。

永田工(朝日新聞社 社会部兼地域報道部次長).png

「事件報道」の中の「自殺報道」

永田氏によると、同社では「事件報道」のカテゴリーの中に「自殺報道」を位置付け、「事件報道小委員会」(同社全国4本社の事件、デジタル報道、紙面編成等の担当デスクらで構成)という枠組みの中で議論が行われています。そこでの議論は、「事件の取材と報道」という同社の報道指針をまとめた冊子に、数年ごとの改訂時に反映されます。もともと「自殺」については、「自殺・心中・虐待などの家庭内事件」という項目の中で「実名報道か匿名報道か」という文脈で扱われてきましたが、2012年と2018年に大幅な改訂が行われました。

何を機に、どのように改訂されたのか

永田氏は、自殺に関する報道指針の大幅な改訂について、次のように説明しました。
2012年の改定では、指針の既存項目の他に「自殺を大きく報じる場合には、報道による『連鎖自殺』の可能性に十分に注意する。特に連鎖自殺のおそれが高いとされるタレントや青少年の自殺などでは、肉筆が分かるような遺書の写真は原則掲載しない。相談窓口を併せて掲載することは連鎖防止には有用だ。』という項目が追加されました。改訂のきっかけは、20117月の朝日新聞夕刊に、内閣府参与(当時)の清水が国の会議で報告した内容として「今年5月に自殺者が急増したのは、女性タレントの自殺の影響だったーー。」と掲載されたことでした。これについて清水が同社に対し「(女性タレントの)自殺が連鎖を呼んだのではなく自殺報道が連鎖を呼んだのだ」と指摘し、同社内で協議が行われました。その結果、同社は記事の訂正を行うと同時に、ネット記事についても見出しの修正、女性タレントの自殺を伝える初報を「関連リンク」から削除するなどの対応を取りました。さらに、報道各社が独自に自殺報道の指針を作成する必要性を訴える清水のインタビュー記事と共に、同社の自殺報道の方向性を宣言し自殺報道に関する指針の改訂を進めていることを伝える「誘発しない報道目指す」と題した記事も掲載しました。

ところが201712月、韓国の有名アイドルの自殺を報じた朝日新聞デジタルの記事で遺書の全文(テキスト)を公開した際、興味本位とも見える形の掲載だったため、社内外から批判が寄せられる問題が起きました。掲載から約1時間後には削除されたものの、社外の有識者を交えて構成する「パブリックエディター」会議でも「自殺報道の留意点を再度確認すべき」との指摘がありました。これを受けて「事件報道小委員会」で再度議論がなされ、2018年の改訂では、2012年に追加した項目に「遺書の扱いについては慎重に判断する」等の文言を加えるなど、特に若い人への影響が大きい自殺報道に関する留意点が追加されました。一方で、WHO自殺報道ガイドラインでは「遺書は公表すべきではない」としていますが、同社の指針では「誘発リスクに気を付けながらも遺書を掲載することの社会的意義が勝る場合はあり、掲載する公益性と自殺リスクを十分に吟味しながら判断する必要がある」、という内容の一文が加えられ、同社独自の方針が示されました。

朝日新聞社の現在の取り組み

自殺報道に関する指針を独自に作成し改訂を重ねる中で、同社では2017年4月に掲載した子どもの自殺を防ぐための連載「大切な君」の冒頭で「WHO自殺報道ガイドラインを念頭に伝える」ことを明示した他、2020年に相次いだ有名人の自殺について自社を含むメディア各社がWHO自殺報道ガイドラインに沿った報じ方をしたかどうかについて検証する記事を掲載するなどの取り組みを続けています。永田氏は、「(同社では)過去十数年、実際の報道の中でぶつかる課題を踏まえながら試行錯誤を続けてきた。今も試行錯誤は続き、今後も改訂すべき部分があれば社の指針に盛り込んでいきたい」と話しました。

【講演3】「自殺の抑止力となる『パパゲーノ効果』に着目したプロジェクトについて」 NHK大型企画開発センター・チーフプロデューサー 渡辺由裕氏

NHK大型企画開発センターのチーフプロデューサーである渡辺氏は、テレビとデジタルで展開するプロジェクト「わたしはパパゲーノ~死にたい、でも、生きてる人の物語~」について、開始に至る経緯や概要、効果の検証などについて講演しました。

渡辺氏はこれまで、NHKEテレの「ハートネットTV」など、福祉番組の制作に長く携わってきました。自殺問題について取材する中で、2008年ごろに視聴者が意見を投稿できる特設サイト「自殺と向き合う」を開設したところ、「死にたい」という気持ちを率直に綴る声が多く寄せられるようになったといいます。その数は徐々に増え、1カ月に20002500件、トータルで約5万件に上ります。それらの「声」に耳を傾ける中で渡辺氏は、「死にたい気持ち、死にたいくらいつらい気持ちを吐き出せる場が世の中にはほとんどない」と感じるようになり、「死にたい」気持ちを抱える若者らがスタジオで語り合う「生きるためのテレビ」を2014年に開始した他、夏休み明けに10代の自殺が多いことから2017年には「#8月31日の夜に。」を開始するなど、「死にたい気持ちを安心して共有できる場」づくりに取り組んできました。

渡辺由裕(NHK 大型企画開発センター チーフ・プロデューサー).png

コロナ禍の中でスタートした「わたしはパパゲーノ」プロジェクト

その流れの中で渡辺氏らは、「わたしはパパゲーノ」プロジェクトを今年からスタートしました。そのきっかけは「コロナ禍で自殺が増える中で、その事実や分析結果を伝える以外にメディアとしてできることはないかと考えた時、死にたい気持ちと向き合って前向きに対処するポジティブな物語の量が圧倒的に少ないことを知り、そうした物語を共有できるプロジェクトができないかと考えた」ことだったと、振り返りました。

プロジェクトでは、自殺報道の影響で連鎖的に自殺が増える現象が「ウェルテル効果」と呼ばれるのに対し、報道が自殺を抑止する効果が「パパゲーノ効果」と呼ばれることに着目。「パパゲーノ」がモーツァルトのオペラ「魔笛」で死を思いとどまった登場人物の名前にちなんで名付けられたことから、プロジェクトではパパゲーノの親しみやすいキャラクターを作り、番組やプロジェクトサイト内に登場させています。

渡辺氏によると、プロジェクトはテレビ放送とデジタル(特設サイト、SNSなど)で展開されました。具体的には、死にたい気持ちを抱えながらもそれと向き合い今も生きている5人(大学生やフリースクール運営者、女優など)へのインタビューをベースにしたミニ番組を制作して今年2月末からEテレや総合テレビで放送した他、4月にはハートネットTVで、インタビューの詳細を伝えたりスタジオで当事者たちが死にたい気持ちにどう対処したかなどを共有したりする番組を放送しました。さらに、プロジェクトの特設サイト(https://www.nhk.or.jp/heart-net/papageno/)を開設してミニ番組の動画を掲載し、視聴者らが自らの体験を共有できる掲示板を設けました。渡辺氏は「ミニ番組をきっかけにサイトを訪れていただき、コンテンツに触れることでつらい気持ちを和らげてもらえないかと考えた」と説明しました。

掲示板にはこれまで(2021620日現在)に約130件の投稿があり、SNS上でのプロジェクトの反響も概ね肯定的。つらい気持ちの吐露や共感、つらいときの対処法など「知恵の共有」のリアクションが見られるといいます。

プロジェクトの効果測定調査を実施

渡辺氏はプロジェクトのコンテンツ制作で留意した点について、「視聴者にネガティブな影響を与えないことを第一に、自殺報道ガイドラインに則って行った。一方で、改善点を明らかにするため、コンテンツが視聴者にポジティブな影響を与えたかどうかを調べる効果測定調査も必要と考えた」とし、同プロジェクトが2021年3月、全国の1579歳から無作為に抽出した2500人を対象に実施したインターネットアンケート調査の結果の一部を報告しました。

アンケートは、5本のミニ番組を見てもらった上で回答を求めました。その結果、希死念慮の程度を尋ねる問いでは、「生きるのが苦しいと感じたことがある」が54%、「死にたいと思ったことがある」が47%、「最近(1週間以内)死にたいと思うことがあった」が13%でした。この質問への回答をもとに、調査対象者を希死念慮の程度別に【なし】【弱】【強】【最近】の4カテゴリーに分類して集計・分析を行ったところ、「この動画(5本のうちいずれか1本でも)を見てポジティブな気持ちになった」と答えた人は、希死念慮【なし】では42%、【弱】では52%、【強】では49%、【最近】では41%でした。動画を見てポジティブな変化があったかを尋ねる他の質問でも同様の傾向が見られたことから、渡辺氏は「希死念慮のある人に対するポジティブな影響は一定程度認められたが、最近死にたいと思ったことがある方に対しては他のカテゴリーよりも効果が低い可能性があり、今後さらに分析が必要と考えている」と考察。さらに、「最近死にたいと思った方たちに対しては、動画だけでなく死にたい気持ちを共有できるような場所づくりや相談窓口にいかに効果的につなぐことができるか等を考えていく必要がある」と話しました。

講演の最後には、約5年にわたり渡辺氏と共に福祉番組の制作や「わたしはパパゲーノ」プロジェクトに携わるNHKディレクターの後藤怜亜氏が登壇しました。後藤氏は、同プロジェクトで「死にたい」気持ちを抱える2030人にインタビュー取材をしてきた経験から、「動画を見た人にどう伝わるかを考えると同時に、インタビューに応じてくださる方にとって取材で話すことがネガティブな影響を与えないよう気を配ってきた。具体的には、取材時間の半分まで『死にたい』気持ちを聴いたら、残り半分は必ずその人の言葉でポジティブな話に転換していけるようにしている。この後のディスカッションで、皆さんのご意見も伺いたい」などと話しました。

ディスカッション・質疑応答

ディスカッション・質疑応答では、JSCP代表理事の清水が司会を務め、講演で登壇した皆さんが参加者から寄せられた質問に答えました。主な質問と回答は、以下のとおりです。

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【質問①】最近は、自殺報道と共に相談窓口の情報を掲載する取り組みが広がっているように感じる。こうした取り組みの効果を示すデータはあるか?

清水)JSCP代表理事ではなくNPO法人「ライフリンク」の代表としての発言となるが、自殺報道に相談窓口の情報を加えていただくと、電話でもSNSでも相談が殺到する。中には「今まさに死のうと思っていた」という方もおり、相談窓口の掲載が自殺リスクの高い方々の支援につながっているといえる。一方で、相談を受けるのに十分な体制がない中で相談件数が急増し、せっかく相談してくれた方々に十分に応えられない状況が残念ながらあった。そのため今、これから自殺報道が出されるだろうといった時には、電話相談やSNS相談の相談員を大幅に増やして対応ができるよう、仲間たちとシステム構築に取り組んでいる。

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【質問②】自殺の手段を報じることが自殺の誘発につながる恐れがあるのはなぜか?「首吊り」は自殺において最も一般的な手段なので、あえて伏せて報じる必要はあるのか?

清水)自殺に至る思考には段階があり、まず「死にたい」「生きているのがつらい」などという気持ちがあり、次に「どうやって死のうか」「いつ死のうか」と考える段階があり、最後に自殺行動に至る。自殺報道で「手段」を伝えることにより、漠然と「生きづらい」「このつらい状況から脱したい」と思っている方が、「こういうふうに死ねばいいんだ」と自殺行動へ一歩後押しされてしまう危険性があると思う。さらに、自殺念慮を抱えている方のお話では、報じられた「手段」が本人にとってピンときてしまった時には、「ロックオンされたようにそっち(自殺)の方向に持っていかれてしまう」ということもあり、「手段」を報じることはリスクがあると言える。

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【質問③】自殺報道そのものだけでなく、Yahooニュースの「コメント欄」やTwitterの「リプ欄」などで、一般ユーザーの憶測や心無いコメントを目にすることにより悩みを抱える方の希死念慮が強まることもあるのではないか。そうしたコメントの量と自殺者数の増加の関連を示すデータはあるか?また、著名人の自殺報道では「コメント欄」の書き込みをできなくするといった対策が奏功する可能性はあるか?

古田氏)講演でも話したが、昨年7月の有名俳優の自殺報道で、最もシェアされたコンテンツは、ある民放がYahooニュースを通して配信した記事の「コメント欄」だった。コメント欄がこれだけシェアされる現象は他では見たことがなく非常に驚いたが、やはりコメント欄が持っている影響力は無視できないものがあるのは間違いないと思う。ただ、「コメント欄」がどれだけネガティブに影響しているかは私が知る限りではまだよく調べられておらず、今後より深く研究し、対応を考える必要があると感じている。

清水)NHKの渡辺さんは、自殺防止に関するプロジェクトでいくつかの掲示板の運営にも関わっておられるが、コメント欄の取り扱い・管理について感じていることを伺いたい。

渡辺氏)2008年以降に「自殺と向き合う」という投稿サイトを運営しており、「死にたい」という気持ちを投稿する方がとても多くいらっしゃる。その中で最近特に目立つのは、「このような気持ちを抱えているのは自分だけかと思っていたが、ここに来ると同じような気持ちを抱えている人が他にもいることに気づく」といった内容の投稿で、共感することで「今日1日生きられる」というような方も少なくない。掲示板的なものは、そういったポジティブな効果も持ちうると思う。ただ、投稿をそのまま公開してしまうとネガティブな効果につながりかねない場合もあるので、専門家の意見も聞きながら「この表現(例えば、「手段」に関する情報や差別的な表現など)は載せないほうが良いだろうか」といった議論や作業を丁寧にやっていくことも、同時に必要だと感じている。

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【質問④】社会部で教育担当をしており学校での自殺予防教育などの記事を書いてきたが、児童生徒の自殺予防は成人とは違う難しさがあると感じる。例えば、事前に兆しがなく亡くなってしまう、原因がまったく分からないといったケースも少なくないと聞く。また、学校で自殺について扱う難しさを感じるが、だからといって触れなければよいということでもないと思う。こういった点で、学校でできる取り組みはあるのか、親や教師がどうかかわったらよいか、意見を伺いたい。

後藤氏)これまでに、死にたい気持ちを抱えた未成年約20人に取材でお話を伺ってきたが、「話しても仕方ないから、家族にも友達にも言わなかった」という方がほとんどで、「取材では自分と直接かかわりのない第三者だから話せた」という方も少なくない。本人も「死にたい」としか言葉にできないので苦しんでいるが、例えば夏休み中に起きた出来事を「昨日何があったの?」「1学期には何をしていたの?」のように具体的なエピソードとして聞いていくと、「死にたい」以外のいろいろな話が出てくる。それを細かく聞いていくと、「死にたい」にはその人なりのロジックや理由がちゃんとある。けれど、「なんでそんなことで死にたいの?」と言われることを恐れ、「迷惑をかけたくない」という気持ちが強く、周囲に話さない方が本当に多い。こうしたところに、学校の中で何ができるのか、親御さんがどうかかわっていけばよいのかを考える上でのヒントがあると思っている。

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【質問⑤】鉄道会社からは度々、(マスメディアに対し)人身事故発生の発表がある。自殺とみられるケースも多く、その可能性が高い場合は報じない選択をするようになってきている。一方で、鉄道で日常的に自殺が起きていることを社会問題として伝える必要もあると思う。どのように伝えたらよいか。

永田氏)かつては、ある鉄道で自殺が集中的に起きているといったことがセンセーショナルに報じられたこともあった。しかし、そういった報じ方よりも、鉄道会社がどういった対策を取っているのか、どうしたら減らすことができるのか、といった視点で取材をし、事実と合わせて報じていくことで、センセーショナルにならずに社会問題として伝えられるのではないかと思う。

古田氏)この問題を考えるときのポイントの一つは、「一体何のためにその報道をするのか」だ。例えば、生活情報として電車が遅れことを速報する時に、「遅れたのは飛び込みのためです」という情報を伝える必要性や意味はあるのかを、しっかり考えないといけない。鉄道事故に限らず、自殺について何をどこまで報じるかは個々のケースによって変わってくる。個別具体的に考える必要があるわけだが、そういったことをその時だけ考えるのではなく、普段から考えておき、いざという時に備える必要があると思う。

清水)私も同じ意見で、自殺報道が必要になった時に慌てて対応を考えると、WHOガイドラインに書いてあることの紋切り型の対応になりがちだ。だがそうではなく、それぞれの社で管理職も含めて自殺のケースにどう対応するのかをあらかじめ話し合っておく、それが難しければ朝日新聞社がされているように社独自のガイドラインを作っておいてそれに基づいた報道を心がけていくことが、報道機関として最低限やるべきことではないかと私は考えている。

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閉会の挨拶 JSCP代表理事・清水康之

質疑応答では参加者からの質問が途切れず、時間の制約からすべての質問に回答することはできませんでした。勉強会の最後に、JSCP代表理事の清水は「今日の勉強会の内容を、同僚や上司、他社の知人などに共有し、自殺報道について少しでも議論をしていただきたい。その際に、『こうした資料やリーフレットがあれば議論しやすい』といったご意見があれば、ぜひご連絡をいただきたい。JSCPでは、そうしたツールの作成にも積極的に取り組んでいきたいと考えている。また、皆さんそれぞれの自殺報道に関する取り組みについて情報をご提供いただければ、それをメディア関係者に広く知ってもらい取り組みを広めるお手伝いをしたいと考えている。JSCPでは今後も勉強会を継続的に開催する予定なので、ぜひご参加いただきたい」と挨拶しました。

※JSCP関係者の配布資料は以下からダウンロードいただけます。