啓発・提言等
「自殺報道」に関する取り組み
自殺に関する報道や情報は、センセーショナルに伝えられることによって、模倣自殺を誘発し自殺者数の増加につながってしまうことがあります。こうした現象は「ウェルテル効果」と呼ばれています。一方、自殺を考えるほど追い詰められた人が死なずに生きる道を選んだ体験談などを伝えることが自殺を抑止する現象は「パパゲーノ効果」と呼ばれ、注目されています。WHOは、こうしたメディア報道のマイナスの側面を最小化し、プラスの側面を最大化するため、「メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き」(WHO自殺報道ガイドライン)を公開しています。日本では近年、WHO自殺報道ガイドラインを参考にするメディアが増えてきていますが、広く浸透している状況とはまだいえません。
JSCPでは、新聞・ラジオ・テレビ・雑誌・ネットメディア等に加え、これらのマスメディアからニュースを集めて配信するプラットフォーマーやSNS事業者などに対しても、WHO自殺報道ガイドラインを知ってもらい、実地で生かせるようサポートする様々な取り組みを行っています。
JSCPは、メディアに対して一方的に「べき論」を押し付けるのではなく、より良い自殺報道について互いの知見を出し合い共に作り上げていけるような協力関係の構築を目指して、以下のような取り組みを進めています。
自殺報道に関するプレスリリースの配信
有名人の自殺、あるいは特殊な方法を用いた集団自殺が大きく報じられるなど「ウェルテル効果」が生じるリスクが急激に高まることが懸念される場合には、厚生労働省との連名で、メディア各社に対し注意喚起のためのプレスリリースを配信しています(296社288媒体、2025年3月27日時点)。WHO自殺報道ガイドラインを周知すると同時に、それに沿った報道をお願いする内容で、メールやFAXで一斉に送信します。
また、ガイドラインからの逸脱の度合いが大きく特にリスクが高いと判断した報道に対しては、個別に注意喚起を行うこともあります。
■過去のプレスリリースはこちら
「自殺報道のあり方を考える勉強会」の開催
2020年度から半年に1回のペースで開催しています。これまで7回実施し、新聞・ラジオ・テレビ・雑誌・ネットメディア・プラットフォーマーなどから延べ800人以上にご参加いただきました。本勉強会は、参加者が安心して議論できる場とするため対象をメディア関係者とプラットフォーマー等に限定し(一般には非公開)、社の垣根を越えて互いの取り組みや課題を共有できる場であることを大切にしています。
この勉強会では、有名人の自殺報道の後に自殺者数が増加する「ウェルテル効果」が生じたか、自殺報道はどのように変化しているかなどについてJSCP分析官らが調査・分析を行い、調査結果を公開しています。これまでの分析では、有名人の自殺報道の初報当日や翌日から自殺者数が急増していることが明らかになったケースもあり、自殺報道の際にメディアによる配慮の必要性を示す客観的な根拠となっています。
■これまでの報道勉強会の詳細は、「開催レポート」として公開しています
また、2024年には、初めて映画・ドラマや舞台の関係者を対象とした勉強会「『自殺の表現』に関する映像・舞台関係者向け勉強会〜自殺や自傷に関連する企画・制作・表現を行う際に知っておきたいこと〜」を開催。自殺や自傷を描く作品の制作に際してどのような課題や留意点があるのか、関係者のみなさんと一緒に考える機会としました。
■映像・舞台関係者向け勉強会の詳細はこちら [Par1/Part2]
「自殺リスクAI情報システム ホエール報道プラットフォーム」の運営
「ホエール報道プラットフォーム」は、刻々と変化するインターネット上の情報や各種統計などを用い、ネット上で配信された自殺報道の拡散状況や「自殺」に関するSNSトレンドと、それらを踏まえた自殺リスク予測などをリアルタイムで更新していく、世界的にも珍しいAIポータルサイトです。メディア関係者が、自殺や自殺対策に関する報道を企画・実行する際、その支えとなる情報を提供することを目的に、対象をメディア関係者に限定して公開しています。