啓発・提言等

【開催レポート】第4回 自殺報道のあり方を考える勉強会 ~放送・ネットにおける『新基準』 最新動向~

2023年10月18日

JSCPは2023年3月5日(日)、「第4回 自殺報道のあり方を考える勉強会~放送・ネットにおける『新基準』 最新動向~」を開催しました。報道に携わる方々が安心して議論できる場とするため、対象をメディア関係者とプラットフォーム事業者等に限定した勉強会です。全国のテレビ局や新聞社、ネットメディア、ニュースプラットフォームなどから約160名が参加しました。
今回は、自殺の誘発を避けるための「解説文」がかなり踏み込んだ形で盛り込まれた新たな「民放連 放送基準」が4月に運用開始されるタイミングに合わせた開催で、全国ネットの放送局だけでなく地方の放送局からも多数の方にご参加をいただきました。

■プログラムはこちら

メディアの取り組み報告として、TBSテレビ報道局統括局次長の小池博氏に、「民放連・放送基準」改正についてのお考えや、TBSの報道・情報番組での自殺報道への取り組みについてお話いただきました。また、Yahoo! ニュースでの自殺報道に関する新たな「プッシュ通知」の取り組みについて、ヤフー株式会社 メディア統括本部 編集本部 ニュース編集(現・LINEヤフー株式会社 メディアカンパニー Yメディア統括本部)の西丸尭宏氏にご報告いただきました。


<開会の挨拶> 

 JSCP代表理事 清水康之

photo-shimizu_230928.png勉強会ではまず、JSCP代表理事の清水康之が開会の挨拶をし、日本の年間自殺者数の推移について「2010年から10年連続で減少していたが、コロナ禍の2020年に11年ぶりに増加に転じた。この時点で増加したのは女性だけだったが、男性についても昨年(2022年)、13年ぶりに増加に転じた」と概要を説明しました。

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次に、過去5年間の月別自殺者数の推移を示し、「2020年10月と2022年5月の自殺者数が突出して多い」と指摘しました。そして、この2つの月の共通点として「有名人が自殺で亡くなり、報道が大きくなされた時だ」と解説しました。

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厚労省サイト「自殺統計:最新の状況(暫定値)」より


清水は、「自殺がセンセーショナルに報じられた直後に自殺の増加が起きてしまっているのが現状だ。こうした状況を何とか回避し、むしろ人の命を守り自殺を減少させる自殺報道を共に作っていけるよう、皆さんと意見交換をさせていただきたいという思いで勉強会を続けている。質疑の時間もあるので、ぜひ積極的なご参加をお願いしたい」と述べました。

■本資料より詳しい分析はこちらからご覧いただけます


「民放連 放送基準」改正の概要
 JSCP広報官 山寺香

続いて、JSCP広報官の山寺香が、「民放連 放送基準」の概要を説明し、「放送事業者は『番組基準』の制定が放送法で義務付けられているが、約200の民放連会員社は何らかの形で『民放連 放送基準』を自社の番組基準に取り入れていることから、『民放連 放送基準』の改正は各社の番組基準の改正といえる」などと話しました。

photo-yamadera_230928.png新たな基準では、第1章「人権」、第6章「報道の責任」、第8章「表現上の配慮」の条文または解説文に、「自殺」についての記載があります。
第1章「人権」の第1条では、解説文に、「自殺を取り上げる場合は、視聴者に対する影響を考慮し、報道であってもフィクションであっても慎重に取り扱う」との総論的一文が追加されました。
また、第6章「報道の責任」の第35条では、解説文に「自殺について報道する場合は、他の自殺を誘発する危険性が指摘されていることを常に意識し、注意を払う必要がある」との文章が盛り込まれるなど、ウェルテル効果(自殺に関する報道の影響で自殺者数が増える現象)を防ぐための配慮について、かなり踏み込んだ形で記載されました。

■「民放連 放送基準」改正に関する詳細は、当日の発表資料または下記資料をご参照ください。

参考)民放online『民放連 放送基準』2023年改正 その経緯と趣旨
   民放連HP 『日本民間放送連盟 放送基準』の改正について


【取り組み事例の報告❶】「自殺報道 ~テレビ局の配慮、近年の変化とその実態~」
 TBSテレビ報道局統括局次長 小池博氏

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小池氏は、TBSテレビ報道局統括局次長として、夕方のニュース番組「Nスタ」や土曜夕方放送の「報道特集」などを担当されています(勉強会開催当時)。2021年までの約5年間は情報番組を作る情報制作局の次長を務め、報道番組だけでなく情報番組の制作にも携わってこられました。
今回は「TBSの自殺報道への取り組み」というテーマでご講演いただきました。「社の取り組みと言っても私の視点からの話になるので、TBS全体の話かというと当然議論があると思う」と断った上で、担当番組を通してコロナ禍以降に相次いだ有名人の自殺報道と向き合った経験や、感じたことなどについて語りました。

近年の自殺報道の傾向

小池氏はまず、近年の自殺報道の傾向として、下記3点を挙げました。

  1. 一般の方の自殺のニュースは、特別な事情(所属先が有名だったり、他者を巻き込んだりするなど)がない限りは報じられなくなってきている
  2. 子どもの自殺に関する報道も、ご遺族への配慮などの理由から減ってきている
  3. 有名人の自殺報道について社会の関心が高まり、強い反応がみられる(厚生労働省がメディアに自殺報道に関する注意喚起をする、コメンテーターが出演番組の放送内容についてWHO自殺報道ガイドラインからの逸脱を指摘する、SNSでメディア批判が起こるなど)

その中で、近年特に社会的に注目された自殺報道として、次の4名の方が亡くなった際の報道を挙げ、各事案の初報や続報、社会的な反響について、TBSの報道や社内での議論などを振り返りながら説明しました。

  • 2020年7月 有名男性俳優
  • 2020年9月 有名女性俳優
  • 2021年12月 有名女性俳優
  • 2022年5月 有名男性タレント

TBSの自殺報道の変化

TBSの報道番組や情報番組では、2020年の2事案については自殺の手段や亡くなった場所等の詳細を報じた一方で、2021年の事案では「自殺」という言葉を避け、現場へおもむかないなどの変化がありました。情報番組においては、直近の2022年の事案について、自殺で亡くなったことを「ニュース」としてフォーカスするのではなく、「追悼」を前提とした取材・放送が行われたといいます。
小池氏は、TBSを含むテレビ局が自殺の詳細を報じたり、現場(亡くなった方の自宅前など)から中継を行ったりする背景として、自殺報道に限らず「発生ニュース」の初動として現場周辺を取材するのが通例であったこと、自社がいち早く情報をキャッチし「独自ニュース」として報じる際には初報がより詳細(具体的)になりがちであること、などの点を挙げました。

情報番組の特性、テレビを取り巻く環境の変化

また、近年自殺報道での課題が指摘されることが増えている情報番組の特性について、下記の点を挙げました。

  • (自殺報道に限らず)亡くなった方の追悼や実績を伝えることが、情報番組の一つのテーマとなっている
  • 一つの出来事の放送時間が長い
  • 情報のファクトだけでなく、コメンテーターの発言や表情も強いメッセージとなる
  • 他メディア(新聞、ネットなど)の報道を紹介することがある

さらに、近年はテレビ放送を見てネット記事が作成されたり、テレビ画面が無断で切り取られSNSで投稿されたり、取材現場でテレビ局員がユーチューバーなどの取材対象となったりするなど、「テレビ局を取り巻く環境や立ち位置が大きく変化している」との認識を示しました。

TBSの自殺報道への取り組み

小池氏は、こうした社会やテレビを取り巻く環境の変化や、報道番組や情報番組の特性を踏まえた上で、TBSでは自殺報道に対しどのような取り組みがなされているのか、説明しました。
TBSには以前から「報道倫理ガイドライン」があり、自殺報道については、手段などを詳報しない、写真や遺書の取り扱いに注意する、特に有名人に関する報道は影響が大きいので伝え方に注意する、自殺に代わる方法をスタジオコメントや識者インタビューで可能な限り伝えるなど、WHO自殺報道ガイドラインに沿った趣旨の記載があります。
自殺報道に関する社の姿勢としては、「あいまいな情報や解説で人々の希死念慮をあおるべきでないという前提に立ちながらも、『それでも(報じる意義が大きければ)報じなければならない時がある』というスタンスだ」と述べました。

社内の情報共有については、「TBSでは、自殺報道に限らず『報道』と『情報』が情報共有できるようにするための体制があり、複数の会議で、両者に加えコンプライアンス担当部署などが情報共有する場が設けられている。そうした場で、ナレーションや画面テロップ、他メディア紹介時の留意点などについて意見が交わされている」と話しました。

また、「個人的な考え」と前置きした上で、近年の大きな社会変化に対応するには「特に発生的な事案については他メディアの動きや、ベテランディレクターの『これはこうやるんだ』といった過去の経験に基づく助言はあまり参考にしない方がよい。逆に、若者に聞いた方がよい(時代の感覚と合っている)場合もあるのではないか」と語りました。
最後に、自殺報道について感じている課題や疑問として、

  • 自殺だから「取材しない」となってしまうと、背景にある大きな問題(事件の疑惑、いじめの問題など)を見逃してしまうことにつながる
  • 有名人の自殺報道と合わせて相談窓口を紹介する流れは習慣化されてきているが、その相談窓口がパンク状態になってしまうことがある
  • 「心中」の場合はさらに社会性が強い背景がある場合があり、どう報じるか

などを挙げ、「『自殺報道をよく考えて扱いましょう』というのが大きな方向性ではあるが、各社内での伝え方によっては現場の取材意識の低下を招いてしまう可能性があり、『自殺報道の罠』のような側面があると思う」と指摘しました。

その上で、過去に起きた衝撃的な自殺事案(三島由紀夫の事案など)を振り返り、「同様の事案が今の時代に起きたらどう報じるべきかを考えながら、日々の報道に当たる必要があるのではないか」と述べました。


【講演】「自殺の『手段』と『場所』の詳報がもたらす影響とは?~日本と海外の事例・研究から~」
 JSCPセンター長補佐チーム 反町吉秀

続いて、医師でJSCPセンター長補佐チームの反町吉秀が、自殺の「手段」と「場所」を詳細に報じることで起こるウェルテル効果(自殺報道の影響で自殺が増加する現象)について、国内外の事例と研究を紹介しながら、その科学的根拠を解説しました。

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反町は、大学の法医学教室、東京都監察医務院、大阪府監察医事務所で法医学者として計15年にわたり、300人以上の自殺で亡くなった方を検案した経験があります。自殺者が前年比8000人近く増加し初めて3万人を超えた1998年には、1日7人もの自殺者を検案したことがあり、その時に「日本社会が壊れてしまった。(自殺で亡くなった方は)追い詰められた末に、社会にできた落とし穴にはまってしまったのではないかと思った」と振り返りました。その後スウェーデンに留学した後に公衆衛生医となり、現在は青森県立保健大学看護学科教授として自殺対策等に取り組んでいます。

反町が自殺報道に関心を持ったきっかけは、1998年にある有名ロックバンドのメンバーが自殺で亡くなり、その直後に全く同じ方法で亡くなった未成年のご遺体を検案したことでした。このバンドメンバーの自殺報道では、自殺に用いられた手段が映像やイラストなども使って詳細に、繰り返し伝えられました。「WHOの自殺報道ガイドラインに『自殺の手段を詳細に報じないこと』という記載があることを後で知った(WHO自殺報道ガイドラインの初版は、2000年発行)。それ以来、ずっとこの問題に関心を抱いてきた」と話しました。

1.「手段」制限による自殺予防 ~有効性のエビデンス~

JSCPではこれまで、WHO自殺報道ガイドラインに基づき、メディア関係者に向けて自殺の手段と場所を詳細に報じないよう要請してきました。
講演ではまず、「自殺手段を制限することで自殺を予防できるのか」という問いに対し、「WHOでは、自殺手段の制限をエビデンスレベルの高い自殺戦略と位置付けている」と回答しました。
エビデンスレベルの高い系統的レビューで有効性が裏付けられている対策の具体例として、飛び降りを防止するフェンスの設置、鉄道のホームドアの設置、農薬・向精神薬・練炭などの入手制限などを挙げました。

2.「手段」制限による自殺予防 ~有効となるメカニズム~

手段を制限することによって自殺を抑制できるメカニズムについて、反町は「実は、自殺念慮を持つ人には、それぞれ親和性のある自殺手段がある。一般的なイメージでは、特定の自殺手段を封じたとしても他の手段を採るのではないかと思われがちだ。しかし、特定の自殺手段が制限された場合、別の手段に向かうことは少ないことが様々な研究で裏付けられている」と述べ、「自殺手段代替説」を否定しました。そして、「特定の手段の規制や制限は、結果的に自殺者全体の減少をもたらすことが明らかになっている」と話しました。

メディア報道で自殺手段を具体的に報じることの影響については、「その手段と親和性のある人の背中を自殺に向けて押してしまう可能性がある。その結果、その手段で亡くなる人が増えるだけでなく、自殺者全体の増加につながる。また、新たな自殺手段を伝えることにより、既存の自殺手段では自殺しなかった人まで自殺に追い込む可能性がある」と指摘しました。

次に、メディアが自殺手段に関する報道を控えた結果、自殺者が減少した事例として、オーストリア・ウィーンの地下鉄の事例を紹介しました。ウィーンでは1970年代後半に地下鉄での自殺が急増し、多くの報道がなされました。1987年中ごろ、自殺予防の専門家とメディアが協議して自殺報道に関するメディアガイドラインを作成し手段に関する報道を控えたところ、同年後半には地下鉄での自殺が前半比約80%減少しました。その効果は、少なくとも5年は持続したということです。

逆に、新たな自殺手段について詳報した結果、その手段を用いた自殺が急増した事例として、香港で1998年に、練炭自殺が美化されセンセーショナルに報じられた事例を紹介しました。報道後、香港の若年~中年男性の練炭自殺が著しく増加しました。
さらに、その影響は日本を含めたアジア諸国にも波及しました。日本でも練炭を用いた集団自殺が大々的に報じられ、2003年2月から若者や中年男性の練炭自殺が顕著に増えました。「この時、他の手段による自殺死亡率は低下しておらず、練炭を用いて亡くなった方の数がほぼそのまま、前年の自殺者に上乗せされた形となった。こうして2003年の自殺者数は、過去最多となってしまった」と解説しました。

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また、日本国内では2007年~2008年、硫化水素を用いた自殺が大々的に報じられ、硫化水素の簡単な合成方法がネット上で拡散。その結果、硫化水素を用いた自殺が著しく増加した事例も紹介しました。この件を巡っては、「硫化水素を発生させる際の原料となっていた入浴剤等の販売が自粛された結果、原料を簡単に入手できなくなり、硫化水素自殺の急増は収束に向かった」と話しました。

3.自殺「場所」の報道による影響

自殺「場所」の詳報が与える影響については、先行研究を基に「自殺手段と同様に、特定の場所に親和性を持つ人がいる。そのため、場所の詳報によって自殺のリスクが高まってしまう人がいる」と述べました。

また、「小説、映画、報道、SNSなどの影響は大きい」とし、過去には樹海などの自然環境が自殺のホットスポットとなっただけでなく、東京都内のある団地での自殺が大々的に報じられた結果、そこで年間50人以上が自殺で亡くなった例を紹介しました。
こうした自殺のハイリスク地での自殺予防については、飛び降り防止柵の設置などの物理的制限が非常に効果的であることがこれまでの研究で分かっている他、パトロールや監視カメラの設置もある程度効果があることが確認されています。

反町は、「特定の場所で自殺防止策を講じても、他の場所で自殺が増えるのではないか」という疑問に対し、「他の場所での自殺は増えないという報告と、いくらか増えるという報告がありばらつきがあるものの、系統的レビューでは『場所代替説』は否定的に扱われている」と話しました。

メディアと自殺対策専門家の協働

反町は最後に、講演の中で紹介したウィーンの地下鉄や、香港で練炭自殺が急増した事例などについて、「いずれもその後、自殺対策の専門家とメディアの協働により自殺者数が大幅に減少している」と説明。「日本でも最近、メディア関係者とJSCPなどの自殺対策の専門機関等が自殺予防のために協働している動きがあり、非常に共感を覚えている。私もメディアの皆さんを自殺予防のパートナーとして大切に思っている。ぜひ、これからも一緒にお仕事をさせていただきたい」と述べました。

■反町の当日発表資料は、こちら

【取り組み事例の報告➋】「著名人の自殺を巡る速報ニュースの届け方」
 ヤフー株式会社 メディア統括本部 編集本部 ニュース編集(現・LINEヤフー株式会社 メディアカンパニー Yメディア統括本部) 西丸尭宏氏

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西丸尭宏氏は、2016年にヤフー(現・LINEヤフー)に入社し、制作や編成など幅広くニュース業務に携わってこられました。2022年、相談窓口情報や自殺を踏みとどまるきっかけを作る記事コンテンツを提供する「生きるのがつらいあなたへ」(https://news.yahoo.co.jp/special/lifeline/)のリニューアルを推進し、その後もニュース領域で自殺対策に関する取り組みにかかわっておられます。
本勉強会では、大手プラットフォーマーとしての、自殺報道のプッシュ通知に関する新たな取り組みについてご報告いただきました。

Yahoo!ニュースについて

西丸氏は本題に先立ち、Yahoo!ニュースのサービスの概要や、Yahoo!ニュースがこれまでに行ってきた自殺報道に関する取り組みについて紹介しました。

Yahoo!ニュースのサービス概要や、これまでの自殺報道への取り組みの詳細は、「第2回 自殺報道のあり方を考える勉強会」の開催レポートをご覧ください。
https://jscp.or.jp/action/jisatsu_benkyokai_report211219.html

自殺報道に関する取り組みの経緯

Yahoo!ニュースの自殺報道に関する取り組み強化のターニングポイントは、2020年7月の有名男性俳優の自殺報道でした。社会の反響は非常に大きく、この時、「自殺」や「首つり」の記載がある初報記事が広く拡散しました。2020年のYahoo!ニュースへのアクセス数は、この時の報道が最も多く、記録的な数となりました。JSCPの分析では、この自殺報道後にウェルテル効果とみられる顕著な自殺者数の増加が確認されています。
「これを機に、自殺に関する情報をどう届けていくべきかを社内で改めて議論し、これまでの(自殺対策に関する)様々な取り組みをアップデートしていくことになった」と西丸氏は振り返りました。

2021年からは、配信社向けの記事入稿ガイドラインに、WHO自殺報道ガイドラインの「やっていはいけないこと」「やるべきこと」を参考情報として追記する、パパゲーノ効果をねらったコンテンツの制作・編成を検討するチームを社内に発足させる、などの取り組みを実施していきました。

対策強化を進める最中、2021年12月には有名女性俳優、2022年5月には有名男性俳優と有名男性タレントが自殺で亡くなりました。特に有名男性タレントが亡くなった直後にはウェルテル効果とみられる自殺者数の顕著な増加が再び確認されました。JSCPの分析では、その影響は2020年7月の有名男性俳優の自殺報道とほぼ同規模と推計されています。

自殺報道を取り巻く現状

Yahoo!ニュースが自殺報道への取り組みを強化する一方で、ネット上では有名人の自殺に関する情報が、新聞・テレビ・雑誌等の配信記事、SNS、トレンドブログなどを通じて瞬く間に広がっていきます。Yahoo!ニュースが対策を強化したとしても、それ以外の経路から、WHO自殺報道ガイドラインに反したり、憶測を含んだりするような情報が拡散してしまう現状があります。

新たな取り組みは、「先手を打つ」発想

こうした現状にYahoo!ニュースとしてどう対処すべきか。Yahoo!ニュース内部では、WHO自殺報道ガイドラインの「やってはいけないこと」「やるべきこと」を改めて確認し精査しました。

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その結果、Yahoo!ニュースが着目したのは、WHO自殺報道ガイドラインでは、「やるべきこと」として「自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと」と記載があると同時に、「やってはいけないこと」として「自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。報道を過度に繰り返さないこと」という記載もあることでした。

このことについて西丸氏は、「誰もが知る有名人が自殺で亡くなると、ユーザーの知る権利もあり死去の事実は速報ニュースとして出さざるを得ない場面があり、一度はニュースを目立つ場所に配置することになる。翻って考えてみると、我々はユーザーに対し正しい情報を提供し切れているのだろうか? という課題に思い至った」と振り返りました。その上で今回の取り組みの趣旨について、「発想を転換し、自殺報道が起きた時にまず、適切な情報と共にケア情報をなるべく早く届けることで、希死念慮への悪影響を低減し、(自殺を)踏みとどまるきっかけを最大化したいと考えた。先手を打つ発想で、模倣自殺の抑制を目指す取り組みだ」と説明しました。

特設ページの概要

Yahoo!ニュースのこれまでのプッシュ通知は、スマホに届いたプッシュ通知をタップすると、直に記事に遷移する形でした。一方、新たなプッシュ通知は、プッシュ通知をタップし記事に遷移する間に、「特設ページ」を挟み込んだ形です。

特設ページは、従来のような相談窓口に関する情報だけでなく、訃報への向き合い方や、訃報により精神的ダメージを受けた人が取るべき対処法、悩んでいる人向けのケア情報、訃報についてSNS投稿する際の留意点などのポイントがまとめて掲載され、パパゲーノ効果があるとされるコンテンツの紹介もあります。
(※特設ページは、有名人が自殺で亡くなった際のプッシュ通知時のみ掲出される仕組みであり、勉強会開催時にはまだ一度も使用されたことがありませんでした。その後、2023年7月の有名男性タレントの訃報に際し、初めて使用されました)
「特設ページの例」(Yahoo!ニュース提供).jpg

さらに、本特設ページの検討に当たっては、自殺対策の専門家、ジャーナリズムに詳しい弁護士、メディア法の専門家など、様々な分野の有識者から聴取した意見を踏まえ、Yahoo!ニュースとしてとるべき対策を総合的に判断したといいます。

最後に西丸氏は、新たな取り組みについて「あくまで今考えられるベストの取り組みであって、決してゴールではない。プッシュ通知を届けた時、様々な声が社内外から上がるかもしれないし、さらに良い方法が見つかるかもしれない。そうした声を受け、引き続きアップデートを続けていきたいと思っている」と述べました。

Yahoo!ニュースのプッシュ通知に関する新たな取り組みについては、こちらJSCP配信の記事でも詳しくお伝えしています。

<質疑応答>
 進行: JSCP清水 小池氏、西丸氏、反町

photo-QA_230928.png質疑応答は、清水の進行で、参加者から寄せられた質問について各登壇者が回答しました。

【質問①】 自殺報道について、社内の内部体制の整備あるいは若手の育成で取り組まれていることがあれば、教えてほしい。また、TBSでは報道基準をどのように社内で共有しているのか?

小池氏) TBSの社内ガイドライン(報道倫理ガイドライン)は、報道や情報番組に携わる人は内部のクラウドで見ることができる。特に報道・情報の現場では、改訂するごとに説明会も行っている。ただ、説明会は儀式的になりがちなので、何か起きるごとに、様々な会議で重層的に伝えていくのが一番効果的ではないかと思っている。若手に対しては入社時の勉強会で伝えているので、むしろ若い世代の方が意識は高いのではないかという感触も持っている。

【質問②】 自殺手段の報じ方について。「首を吊る」というのは珍しい亡くなり方ではないが、報じることでどのようなリスクがあるのか?

反町) 「首吊り」は一見新奇性がなく地味に見えるが、最も致死率が高い自殺手段だ。「首吊り」と報じることは、それに親和性のある人たちの背中を押すことになるので、できるだけ報道すべきではないと思う。有名人であろうがなかろうが、同じことが言える。
清水) 補足すると、自殺念慮を抱えている人が実際に自殺行動に至る思考的なプロセスは、「いつ自殺行動に出るか」「どういう手段を用いるか」「どこで実行するか」、などが具体化されていく中で、漠然とした自殺念慮が自殺行動に近づいていってしまう。「首吊り」という手段を明示することで、自殺行動に一歩近づけてしまうリスクがある。

【質問③】 Yahoo!ニュースの取り組みで、自殺報道に関する記事を閲覧しているユーザーのうちどれくらいの人が、ケア情報にアクセスしているか?

西丸氏) ケア情報へのアクセスは、自殺報道の際に増える傾向にあるが、日ごろから一定のアクセスがある。それが、自殺報道に関するニュースと一緒に届けることで大きくなるが、記事を読んだユーザーのうちどれくらいの人が閲覧したかは、なかなか計りにくい。
一つの方法として、一報とは別立ての記事で伝えるケースがあるが、一報に次ぐくらいのアクセスがある。自殺報道に限らず、衝撃的な事件(安倍元首相が銃撃された事件など)のときにも多くのアクセスがあった。このことから、別立ての記事をしっかり出すことで、情報を見てもらいやすくなり、そうした情報を求めているユーザーにしっかりと届くのではないかと思っている。

質問) もう1点伺いたい。記事にあえて書いていない自殺の詳細に関する情報などが、コメント欄に書き込まれることがある。こうしたコメントには、どう対応しているか?

西丸氏) プラットフォーマーとしては非常に悩ましい問題だが、Yahoo!ニュースのコメントポリシーに従って対応していくしかない。それ以外には、Yahoo!ニュースのコメント欄では、コメンテーターという形で専門家にご参画いただいており、そうした専門家のコメントが一番上に表示される仕組みになっている。専門家のコメントの中で、報道とどう向き合うべきか、注意点などをしっかり発信していただくことが、今一番スピーディーに対応できることだと思っている。

【質問④】 死にたいと思っている方や悩みを持つ方に対し、放送ではどのような心持ちで、どのような言葉で呼びかけ、支援につなげればよいか?

清水) 一つは、「自殺以外の解決策もあるんだ」ということを伝えていくこと。そして、西丸さんが先ほどおっしゃったように、自殺以外の方法があることを、別の記事、あるいは別の機会に情報発信していくことも大切ではないかと思う。
パパゲーノ効果をねらった放送や報道も少しずつ増えてきている状況がある。こうしたコンテンツで、「死にたい」気持ちを抱えながらも死なずに生きている人のストーリーや存在を伝えていくことによって、「自殺しなければこのつらい状況から抜け出せない」と思っていた人が、「死にたい気持ちを抱えながら、こうやって生きていけるんだ」と思えるロールモデルに触れることができる側面があると思う。こうした情報は、有名人が自殺で亡くなったタイミングなどだけでなく、日常的に伝えていくことが大切だと感じている。

【質問⑤】 勉強会を通し、自殺について詳報することで自殺者が増えることを、データに基づいて理解することができた。心中に関する報道も自殺報道と同様、詳報することで心中が増加するというデータがあるのか?

反町) 現時点でこの件に関する研究をきちんと調べられていないので確たることは言えないが、無理心中も自殺同様に慎重に報じていただいきたいと思っている。
無理心中というのは、「殺人+自殺」ということだ。だから、例えば無理心中事案で、「練炭を使って」「目張りをして」などのように詳報するのは、非常にまずいと考える。「自殺」ではなく「無理心中」となった途端にWHO自殺報道ガイドラインから逸脱する報道がなされていることを危惧している。

【質問⓺】 事件か事故か自殺か、判断がつかない時の初期対応に関する考え方について、教えてほしい。

小池氏) これはすごく難しい。「自殺と他殺の両面の可能性があるとみて捜査……」といった定番的な表現もあるが、もう少しニュース価値が高い場合には、そのこと(両面の可能性があること)自体を大きく扱わざるを得ない場面もある。ただ、その時に基本に立ち返り、死に至った手段を詳報するのかどうかを考える必要がある。
一方、用いた手段自体が自殺か他殺かの分かれ目で判断材料となる場合もある。そうした場合は、本当にその都度の判断になるが、自殺ニュースというカテゴリーで伝えないことの方が重要かと思う。

【質問⑦】 初報で「自殺」と書いていない場合でも、相談窓口情報を掲載する必要があるのか? 掲載することによって逆に、自殺であることが推測されてしまうのではないか?

清水) 自殺に関する報道でなくても、有名人が急に亡くなったり、大きな事件や事故が起きたりするような衝撃的な報道に触れた際には、視聴者や読者の気が動転することは当然あり得る。そうした時に気持ちを落ち着けていただくための相談窓口の情報やセルフケアの情報などは、むしろ掲載した方がよいと思っている。自殺の時はもちろん、自殺以外の時にもそうした衝撃的なニュースを報じる際には、相談窓口の情報を併記することをスタンダードにしていただければいいのではないかと思っている。




JSCPが作成した、相談窓口情報やケア情報等をまとめたサイト「こころのオンライン避難所」は、自殺に限らずショッキングなニュースを報じる際にご紹介いただくことが可能です(サイト内では、「自殺」という言葉をあえて使用していません)。ぜひ、ご活用ください。

■これまで開催した「自殺報道のあり方を考える勉強会」のレポートは、こちらで公開しています