啓発・提言等

【開催レポート】「第2回 自殺報道のあり方を考える勉強会~ネット上での拡散への対応とその課題~」

2022年4月28日

いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)は令和31219日(日)、「第2回 自殺報道のあり方を考える勉強会~ネット上での拡散への対応とその課題~」をオンラインで開催しました。ニュースを制作するメディアの自殺報道に関する取り組みは近年積極的に展開されるようになってきましたが、ニュースをインターネット上で収集・配信する事業者であるニュースアグリゲーターやSNS事業者でも、いのちを支えるための様々な取り組みが進められていることは、まだあまり知られていません。

第2回の今回は、前半にYahoo!ニュース、LINE NEWSTikTokの3社の取り組みをご報告いただきました。後半にはジャーナリストの古田大輔氏をモデレーターに迎え、ディスカッション・質疑応答を行い、3社の発表者にJSCP代表理事の清水康之らも加わって、メディアとニュースアグリゲーター、SNS事業者に求められる連携のあり方などについて議論しました。

勉強会は、関係者が本音で議論できる場とするため、対象者をメディア、ニュースアグリゲーター、SNS事業者の関係者に限定。全国の新聞やテレビ、ネット等で報道に携わる方やSNS事業者などから約60人が参加しました。(プログラムはこちら

(※メディアの取り組みについて考えた第1回勉強会の詳細は、こちら

勉強会当日、両親ともに著名人である有名女性俳優が急逝されたとの報道があり、その直後から短時間で多数の関連報道がネット上に発信されました。死因は断定されていないものの、自殺の可能性に言及したり自殺を想起させたりするような記事も複数見られ、ウェルテル効果(報道の影響で自殺者が増える現象)が懸念される状況でした。

午前10時にスタートした勉強会では、まずJSCPエグゼクティブ・アドバイザーの阿部博史氏が、有名女性俳優の死去について、日付が変わって間もなく出された第一報(速報)から勉強会開始直前までにネット上に配信されたあらゆる報道の情報を収集・分析した結果を報告しました。

以下、各登壇者の発言の概要をまとめました。


「デジタル時代において リスクが高まる自殺報道のメカニズム」 
JSCPエグゼクティブ・アドバイザー 阿部博史氏

当日配信された有名女性俳優死去に関する報道の分析

本日午前0時過ぎに初報があった、現在まさに進行中である報道を踏まえてお話していきたい。初報から午前9時現在までの間に、この件に関するツイートは約46万件発信され、推定インプレッション(ツイートが他のユーザーに表示された回数)は約7億7千万回に上っている。勉強会直前までほぼすべての関連報道を洗い出し、配信時刻、報じた社、タイトル、「自殺」「飛び降り」「転落」などの言葉をタイトルまたは本文で使用したかどうか、記事を読んで不安になった人が相談できる「相談窓口情報」を載せたかどうか、等の情報を一覧化する作業を行った。そこから、いくつかのポイントが見えてきた。


【ポイント①】「自殺」「飛び降り」という言葉を使ったかどうか
自殺と断定されていない段階だが、初報のスポーツ紙の記事には「飛び降り」「自殺とみられる」という言葉が入っていた。その後の報道でタイトルにまで入れていたのはこの社を含む2つのスポーツ紙で、特定の社が複数回報じる傾向がみられた。一方で、他の報道機関はこの言葉をあまり使わずに「急死」「死去」「死亡」、書いたとしても「転落」までにとどめ、自殺をにおわせないよう様々な工夫をしているように見受けられた。こうした言葉をタイトルにまで使っている社は限られており、報道のためのガイドラインや社内のルールなどがないと、どんどんエスカレートしてしまうような印象を受けた。


【ポイント②】相談窓口情報を掲載したかどうか
記事を読んで不安を感じた人が利用できるよう、記事に相談窓口情報を付けるかどうかについては、各社で判断が分かれたと思う。自殺と断定していない記事に、自殺関連の相談窓口情報を付けることが、逆に「自殺なのではないか」とにおわせてしまうことにならないか。そういう判断をして付けなかった社も多いのではないか。「自殺」に触れていない記事で、窓口情報を付けていないものが目立つ印象だ。


【ポイント③】Yahoo!ニュースや報道各社はトップページにどう掲載したか
各社のトップページを確認したところ、Yahoo!ニュースでは「トピックス」の上位ではなく常に下位に配置されており、NHKや読売新聞社、毎日新聞社等のサイトでも掲出はするがトップニュースには据えない形で配置されていた。伝えないことが最善ではもちろんなく伝えることも重要なので、こうしたできるだけ目立たなくする配慮は素晴らしいと思う。

少し驚いたのは朝日新聞社の対応で、初報から9時間以上経った午前9時半過ぎに初めて詳細を報じる記事が出た。原稿を書くのが遅かったのではなく、自殺をにおわせるような表現をできるだけ避けながら相談窓口情報も載せる、というすごく丁寧な対応がなされたのではないかと思う。

一方、最初に記事を出したスポーツ紙のトップページは、記事のサムネイルとして用いた女性俳優の顔写真で埋め尽くされ、ページ全体として見る人に強いインパクトを与えていた。こうした報道を目にしたタレントらが「自殺かもしれない」とほのめかすようなコメントを発信すると、同じ社がそのコメントをまた記事にし、それが事実であるかのように広がってしまう状況がみられる。


報道が及ぼす影響を考える上での4つのポイント

ここからは本来予定していた内容である、自殺報道が及ぼす影響について、次の4点を体系的にお話していきたい。

❶ 構造の理解 “要因とトリガー”
自殺報道をしたからといって自殺が誘発されるのか。ここは正確に認識しなければならない。警察庁や厚生労働省の統計資料などでは、自殺の要因は「学校問題」「勤務問題」「経済問題」「健康問題」「男女問題」「家庭問題」の6個に分類されている。

コロナ禍が各要因に影響を与えてバランスが崩れ、自殺念慮が高まっている方がたくさんいる。何とか踏みとどまっていても、例えば有名人が自殺で亡くなったという報道に触れ、「私も同じように死んだ方が楽なんじゃないか』と思ってしまったら、報道がトリガーになってしまったということになる。ダムの水がたくさんたまっている状態で雨が降ったら、あふれてしまうように、不安が高まっている状況の中でそうした報道に触れると自殺に至ってしまうかもしれない。このイメージを正確にもっていただきたい。

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❷ “速報拡散”と“深掘拡散” 成分の違い
「速報拡散」とは、警察が覚知した事実を記者クラブに伝え、テレビや新聞が報道をはじめ、ニュース・プラットフォームがさらに多くの人に伝えていくことだ。スマートフォンのアプリのプッシュ通知で一気に広がり、それらを受け取った一般の方々が家族や友人等に共有したりリツイートしたりすることで、数時間のうちに大きく拡散する。

「深掘拡散」とは、速報が一定程度終わり事実が伝わり切った上で、様々な噂や人間関係、過去の経歴などが根掘り葉掘り出てきて、それをテレビ、新聞、週刊誌等が情報構成して伝え、さらに市民が何かを付加して発信することで拡散していくこと。速報拡散のように爆発的な増加は見せないが、非常に長引く傾向がある。

これらを、令和2年に有名男性俳優と有名女性俳優がお亡くなりになった際の報道についてグラフでみてみると、どちらも第一報直後に速報成分がドーンと立ち上がり、落ちていく。これが速報拡散に当たり、その後の第二、第三の低い山が深掘成分に当たる。

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男性俳優に関する報道

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女性俳優に関する報道

私がかつて、東日本大震災当日に首都圏で発信された約3500万件のツイートを解析した結果では、地震が来た事実に関するツイートがバーストするのは2、3時間だけだった。一方で「怖い」「不安」といった心の面のツイートは、数週間、数ヶ月と続いた。だから、今日の有名女性俳優に関する報道は、第一報の事実の拡散が今ようやく鎮まってきたタイミングで、ここから心への影響が続いていくとの前提に立ち、今後の報道について考えていく必要がある。

また、報道から実際に自殺に至ってしまうまでには、実はタイムラグがある。令和2年に男性俳優と女性俳優がお亡くなりになった際の報道量をグラフ化し、下に同じ時期の1週間ごとの自殺者数の推移を並べた。男性俳優は第一報から2週間後、女性俳優は12週間後に自殺者数がピークとなり、その後高止まりの状況が続いた。初報の直後ではなく、根掘り葉掘りの報道の中で心を動かされ、少し考えてからお亡くなりになるケースが多いとみられ、報道の配慮は初報後23週間くらいは続けないと危ないということになる。

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❸ “誘発報道”と“事実報道”の違い

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上のスライドは、令和2年中の「自殺報道量」、「SNS量(自殺関連ツイートの量)」、「自殺者数(予測値と実測値の差)」を1週間ごとに集計したグラフを並べたもので、男性俳優が亡くなった7月と女性俳優が亡くなった9月に自殺報道量とSNS量が顕著に増えた後、自殺者数が有意に高くなっている。令和2年で最も報道量が多かったのは、3月に森友学園をめぐる公文書改ざん問題で自ら命を絶った男性の遺書公開・提訴がなされたタイミングであり、SNS量も増加しているが、自殺者数に目立った増加は見られなかった。また、厚生労働省から前年の年間自殺者数の速報値が公表された1月には、自殺報道の量は普段よりも増加したものの、SNS量と自殺者数に増加は見られなかった。

この結果から、自殺報道の量が増えても事件や裁判、自殺統計に関する報道ではSNS量や自殺者数に大きな影響を与えないが、亡くなった方の名前や手段、人となりが分かり身近に感じられるような内容の報道の場合、SNS量や自殺者数にも強い影響が出る可能性がある。こうしたポイントを押さえると、もう少し丁寧な報道もできるのではないか。自殺報道をすべて自粛するよう求めるつもりはまったくなく、むしろ自殺を抑止するパパゲーノ効果を狙った報道などはぜひ積極的にしていただきたい。


❹ 報道後も“情報寿命”に注意
報じられた文字や動画のニュースは、自社やニュースアグリゲーターによりネット配信されたり、SNS投稿されたりする。ネットやSNSで配信された自殺報道は、配信元がその記事を削除したとしても、それを見た市民のつぶやきも含め後々まで残っていく可能性が大きい。例えば、有名男性俳優が亡くなった際の速報記事は、記事へのリンクが切れていてもツイートは残り続け、「自殺」や「首つり」といった言葉を含むタイトルは読めてしまう。ネット上で記事を公開する際の仕組みとして、タイトル下に「ツイート」「いいね!」「シェア」などのボタンが標準表示される仕組みがあるようだが、自殺のように“SNSによって拡散させることが望ましくないテーマ”については、こうしたボタンを付ける目的や意義についても、ぜひ議論していただきたい。


【取り組み事例の報告】Yahoo!ニュース 西丸尭宏氏(ヤフー株式会社 メディア統括本部 編集本部) 

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Yahoo!ニュースの概要

プラットフォームとして平成8年にサービスを開始し、令和312月時点でパートナー様約430社、670媒体以上から1日平均約7500本の記事が配信されている。
スマートフォンの場合、❶人が編成する「トピックス」、❷人とシステムで編成する「半編成レコメンド」、❸システムによる「レコメンド」、の3段構造になっている。

著名人の自殺報道などをトピックスに掲載する際には、15字以内の見出しの中で「自殺」という言葉を使う必要が本当にあるのかどうかを検討することに加え、WHO自殺報道ガイドライン(「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2017年版」)に照らして自殺の場所や手段等を詳述しすぎているような記事は避けつつ、なるべくウェルテル効果を引き起こさないような記事を掲出できるよう、常々メンバーで議論し慎重に対応している。
また、トピックス見出しを1回タップした後に遷移する「トピックス詳細」画面では、「ココがポイント」「詳しく知る」「関連リンク」などニュースを理解しやすくするための情報を載せている。自殺報道やユーザーに自殺を想起させるような記事に関しては、ここのページで相談窓口情報を掲出するなどの配慮をしている。

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提供:ヤフー株式会社

自殺報道への対策強化のターニングポイント

Yahoo!ニュースが自殺報道に関する対策を一段と強化することになったターニングポイントは、令和27月に有名男性俳優が自殺で亡くなった際の報道だった。最初にYahoo!ニュースに配信されてきた記事には「自殺」や「首つり」の記載があり、この記事をプッシュ通知としてユーザーに届けるべきか、トピックスに載せるべきか、議論がなされた。

一旦は、「自殺」「首つり」といった記載のない他の記事が配信されてくるのを待つことになったが、時間が経っても配信がなく、SNSなどでは拡散されはじめていた。そのため、ユーザーへのケアという観点からも、「トピックス詳細」に相談窓口情報を掲載する形で最初の記事をトピックスに掲載した。その上でユーザーにアプリのプッシュ通知も行った。その後、第一報を大切にしたいという気持ちはあったものの、若手人気俳優の死という影響力の大きさを考え、トピックスに掲載していた記事を、後から届いた相談窓口情報を含む記事に差し替えるなどの対応を取った。

令和2年のYahoo!ニュースへのアクセス数は、この男性俳優死去に関する自殺報道が出た時が最も多く、記録的な数になった。その後にJSCPが公表した分析でも、その自殺報道後に自殺者数が増加したことが分かり、それを機に自殺報道への対応を強化することになった。

本日の有名女性俳優死去については、午前1時前に「〇〇さんが転落し入院、重体か」という見出しでトピックスを作成し、その後に亡くなったと分かり「急死」というトピックスを作成した。その際に、「関連リンク」に相談窓口情報を載せると同時に、自殺と断定されていないがそれに近い報道が出てしまっていたため、「報道を見てつらいと思っている人へ」という期間限定のバナーを各所に急遽掲出する対応を取った。

現在行っている4つの対策

❶ 記事入稿ガイドラインの改定、意見交換
Yahoo!ニュースではこれまでも、媒体社様に対する記事入稿ガイドラインの中で、最低限配慮していただきたいこととして「人命を軽視するもの。自殺または自傷行為を誘発、助長するおそれがあるもの」という項目を盛り込んできたが、新たに、WHO自殺報道ガイドラインで「やってはいけないこと」などとして記載されている事項を追記した。その上で、媒体社様ともコミュニケーションをとっている。

❷ 相談窓口情報の自動掲出
プラットフォーマー(アグリゲーター)としてできる対策として、特定のワードを含む記事について相談窓口へ遷移できるリンクを自動掲出するシステムを導入した。スマートフォンの場合、記事の末尾とコメント欄の間に「生きるのがつらいあなたへ」という相談窓口情報へのリンクを掲出している。

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提供:ヤフー株式会社

❸ 相談窓口ページのアップデート
「生きるのがつらいあなたへ」は、令和2年に著名人の自殺報道が相次いだことを機に改修した。これまで避けていた「死にたい」等の言葉もタブー視せず、「『死にたい』と思ったら」という表現を用いている。そういう気持ちを持つことは決して悪いことではなく、むしろそうした方にメッセージを届けていかなければいけないと考え、明確なメッセージを出すように変更した。そこに掲載している相談窓口情報も、当初のリンク集のような形から、気軽に相談できるチャット相談の情報を上に配置する、電話をワンタップで発信できるようにするなど、ユーザーの気持ちに寄り添うようなサイトに作り直した。また、相談窓口情報の下にはパパゲーノ効果を意識した、死にたいと思っていた人が困難を乗り越えたエピソードなどに関するコンテンツを掲載している。

サイト改修後は、サイトへの流入量が改修前の3040倍に増え、チャット相談のタップ量が電話相談の約5倍に上るなど、効果を実感している。一方で、悩みを抱えているであろうユーザーの多さに、改めて真摯に取り組む必要があると感じている。

❹ パパゲーノ効果を意識したコンテンツ制作
長期休み明けに児童・生徒の自殺が増加する傾向があることから、令和38月末から910日前後にかけて、「#今つらいあなたへ」というハッシュタグを設定して、Yahoo!ニュースのオリジナルコンテンツを配信した。読売新聞様の「#しんどい君へ」とも連携し、キャンペーン報道的な形で約20本の記事を配信させていただいた。小中高生に向けた「学校に行かないとダメですか?」といった内容や、著名人がつらい時期を乗り越えたエピソードに関する記事などを対象とした。

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提供:ヤフー株式会社

パパゲーノ効果以外にも、悩んでいる人を周りで支える人向けの動画の制作、著名人の突然の訃報に触れてつらい気持ちになっている人に向けて「報道を見ないという選択肢もあるよ」といったことを伝える記事をYahoo!ニュース個人のオーサーの方に配信していただく、といった取り組みもしている。

現在様々な対策を取っているものの、正直、ゴールデンスタンダードのような正解はなかなか見えてきてはいない。今日ご説明したような取り組みを続けると同時に、相談事業を支える民間団体に寄付が集まるような取り組みも加速していきたいと考えている。


【取り組み事例の報告】LINE NEWS 
末弘良雄氏(LINE株式会社 ポータルカンパニー LINE NEWS編集長)

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LINE NEWSの概要

LINE NEWSは平成25年にサービスを開始し主にLINE上でニュースサイトを展開しているプラットフォームであり、月間利用者数は約7700万人となっている。サービスの特徴を、❶掲出面、❷発信主体、❸掲出方法、の3点について説明したい。

❶ 掲出面
LINE NEWSのメインの面(トップページ)は、スマートフォンでLINEアプリを開くと画面下に表示される「ニュース」タブを開いたところだ。スポーツ、エンタメ、グルメなどの他、天気や路線情報など総合的な情報が表示されるポータル的なページで、利用するユーザー数も最も多い。

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もう一つ、LINEで友だち登録ができるアカウントとして「LINE NEWS」というLINE公式アカウントを運営しており、登録しておくとその日のニュースがまとめて届く機能がある。1日3回の定時配信だけでなく、大きなニュースが発生すると「号外」として随時配信することもある。

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❷ 発信主体
LINE NEWSLINE公式アカウントに掲載する記事等は、LINE NEWS編集部がピックアップしているが、その編集権を契約メディアに開放する「LINEアカウントメディア」という仕組みもある。新聞社や通信社、テレビ局、ウェブ媒体など370媒体以上にご活用いただき、累計登録者数は約25000万人に上る。ここでは、各メディアの方針でトップニュースを選んだり、号外として送るかどうかの判断をしたりできる。


❸ 掲出方法
LINE NEWSのトップページでは、一人一人のユーザーの関心に合わせてAIがニュースを選ぶレコメンド欄(ページ最上部に写真付きで表示されるニュース)と、編集部が今読んでほしい、読むべき記事を手動でピックアップし掲載する欄(写真付きニュースの下に、見出しのみ表示される「ニュース」3本+写真付きニュース1本)がある。

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自殺報道への対応

WHO自殺報道ガイドラインの中で、自殺報道で「やるべきこと」「やってはいけないこと」をまとめた「クイック・レファレンス・ガイド」などをベースに、LINE NEWSとして対応方針を立てている。大方針として❶積極的・直接的な報じ方をしない、❷支援の情報を添える、を掲げそれに沿った対策を実施している。

自殺報道は基本的に、特筆すべきことがない限り積極的な掲出はしていないが、それでも掲出する場合は、多くのユーザーが集まるページやアプリを開いたファーストビューには「自殺」などの文字が並ばないようケアしている。例えば、「自殺」ではなく「死去」等の言葉を使う記事だけを掲出する、などの対応を取っている。

届け方については、プッシュ通知はユーザーが意図しないタイミングに受動的に受け取る側面が強いので、自殺に関するニュースは送らない方針で運用している。特にLINEの場合は、友達などとのやり取りなどの中にその情報が意図せず飛び込んでくる形になるためユーザーに強い影響を与えかねず、強めのケアを行っている。

表現については、WHO自殺報道ガイドラインに沿って、手段や場所の詳細の掲載を避ける、センセーショナルな見出しを避ける、といったところに気を付けている。プラットフォームなので、いくつかのメディア様から提供いただいた記事を見比べ、より適した表現の記事を掲出するようにしている。

我々プラットフォームは、見出しや表現等について自分たちだけでできることは限られている。そのため、メディア様に入稿・運用していただく際のガイドラインを設けたり、コミュニケーションを取りながらWHO自殺報道ガイドラインをご紹介したり、相談したりしながら運用している。

AIによりユーザーの興味に沿ったニュースを掲出する領域でも、例えば「自殺」や「飛び降り」といったキーワードを含む記事を自動的に非掲出とするような対応をとっている。自殺等に関するセンシティブな記事は、基本的に人がきちんとチェックした上で掲出した方がよいという前提に立っているためだ。

相談窓口情報については、「自殺」などのキーワードを含む記事を自動的に判定し、相談窓口の情報につながるバナーやリンクを表示させるようにしている。バナーなどから飛んだ先のページは編集部が情報をまとめており、随時更新している。

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取り組みから見えてきた課題

最後に課題についてお話したい。相談窓口情報の掲出は、メディア様も我々も積極的に取り組んでいるが、本当にユーザーに届いているのか、添え物的に載っているだけでよいのか、といった指摘もあり、もっとよいやり方はないものか編集部内でも議論している。

また、編集権をメディア側に一部開放しているLINEアカウントメディアの取り組みでは、各社ごとに編集方針が異なるため我々が一律にルールを作りにくい部分がある。ユーザーに寄り添った情報の届け方とはどういうものか。課題はたくさんあるが、今後もメディア様と相談を重ねる中で、さらに精度を上げていける領域なのではないかと考えている。

本日の有名女性俳優死去に関しては、基本的にはお亡くなりになったというファクトの部分だけしっかり伝えるようにするという方針で、慎重に対応した。現在進行形なので、編集部でもディスカッションしながら掲載方法、タイミング、見せ方について検討を行っている。


【取り組み事例の報告】TikTok 
金子陽子氏(TikTok Japan 公共政策本部 公共政策マネージャー)

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TikTokはユーザーが動画を投稿するプラットフォームであり、運営チームがニュースを配信したりピックアップして流通させたりするようなことは一切ない。そのため、前にお話しくださったお二方とは異なるが、動画プラットフォームとして自殺防止の側面からユーザー保護にどう取り組んでいるのか、また自殺防止のための機能の開発、啓発活動についてお話したいと思う。

TikTokの概要と特徴

TikTokはモバイル向けショートムービー・プラットフォームで、世界150の国と地域で展開し、累計約30億ダウンロードを突破している。当初は若い女性が踊っているようなイメージが強かったと思うが、今は文化、教育、技術、How Toなど、投稿されるコンテンツが多様化している。中央省庁や自治体など発信主体も多様化し、報道機関にも多くアカウントを開設いただきニュースが投稿されている。テレビを見ない最近の若者にもニュースを見てもらえる、そんなプラットフォームとして位置付けていただいているのではないか。報道機関が投稿した動画については、TikTok側が審査することはなく、媒体社様の編集権を尊重してそのまま掲載している。

TikTokは他のアプリに比べて「圧倒的にバズりやすく新規フォロワーが獲得しやすい」(ユーザーの言葉)と言われるが、アルゴリズムに違いがある。他のSNSがフォロワーにしか広がらないアルゴリズムであるのに対し、TikTokはフォロワーが0人でも、すべての投稿は一定数のユーザーのフィードに必ず表示され、その際のエンゲージメントや視聴態度等をレコメンドシステムが判断し、さらに次のユーザーに届くようになっている。そのため、ユーザーの反応や評価が良い動画は、始めたばかりのユーザーでも多くにリーチすることが可能となる。

もう一つ、TikTokは動画を作らないと投稿できない特徴がある。テキストのみの投稿と異なり動画を作る手間がかかるので、衝動的な怒りに任せての投稿がしづらい。また、外部のニュースをTikTokのアプリ内でシェアすることはできず、TikTokで投稿した動画に付いている「シェア」ボタンを押すと、他のSNSへシェアされるが、TikTok内のオープンスペースではシェアできない仕組みになっている。

そのため、自殺報道に関するニュースの投稿でも、シェアされた回数ではなく再生回数が増えることにより、AIがエンゲージメントが高い有用な動画だと判断してさらに広まっていくことになる。TikTokでは報道内容には一切関わっていないため、自殺報道が拡散する、しないは報道機関の姿勢にかかっており、逆に、(自殺を抑止するような)ポジティブな内容の拡散を狙うという使い方もできると思っている。

安心・安全のための取り組み

誰もが安心・安全に楽しめるアプリ環境の維持はTikTokの最優先課題だ。まず、そのための取り組みの全体像からお話したい。

❶ ルールの整備
「こういう動画の投稿は禁止です」、といったルールをまとめた「コミュニティガイドライン」を整備している。その中に「自殺、自傷行為、摂食障害」という項目があり、これらにつながる可能性のある行為を描写、促進、美化するような動画投稿を明確に禁止している。このルールに基づき、テクノロジーによる検知や、人間の目での審査を行い削除等の対応を取っている。

そうした動画を、専門チームが24時間365日チェックしており、危険性が高い動画が見つかった時には警察に連絡を入れる、または連携するNPOに連絡してコメント機能を使ってサポートに入っていただいたり、対応方法についてアドバイスをいただいたりしている。


❷ ツールの整備
誹謗中傷が自殺の要因になることもあるため、令和3年に新しく導入した機能として、コメントのRethink(再考)機能がある。不適切なコメントを書こうとしているユーザーがいた場合、それをAIが検知し、「本当にこのコメントを投稿しますか?」というメッセージを表示するもので、それを見たユーザーが考え直し、そうしたコメントを避けてくれるというものだ。かなり効果が高く、グローバルでは4割以上、日本ではもっと高い率で避けてくれているというデータがある。

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❸ 教育啓発の推進
安全な利用を促す教育啓発の推進や、啓発動画の制作、自殺予防週間に合わせたキャンペーンなどを行っている。


❹ 安全に関する連携の推進
セーフティパートナー・カウンシルを設け、自殺対策関連では日本いのちの電話連盟や東京自殺防止センターなどに入っていただき、対策等のご意見をいただいている。


自殺対策への取り組み

ここからは、より具体的な自殺報道の取り組みをご紹介したい。
TikTokの検索ウィンドウで「自殺」「死にたい」「リスカ」などの言葉を検索すると、これらの動画は表示されず、相談窓口情報が表示されるようになっている。その後「このコンテンツは一部の視聴者にとって適切でない可能性があります」というメッセージが出て、それでも「検索結果を見る」ボタンを押すと、初めて動画が表示される仕組みになっている。また、ここで表示される動画は自殺に関連するハッシュタグを何でも拾ってくるというものではなく、自殺自傷に関する専門家との協議のもと策定した特別な社内基準に該当する、希死念慮のある方に有益と思われる動画である。

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啓発活動については、例えば令和29月の自殺予防週間には、JSCPと連携してTikTokアプリ内に特設ページを作り、「相談してみよう」をテーマに、悩んでいてもなかなか相談できない人に向けて、相談窓口情報や「実際に相談してみるとこんな風になるよ」ということを伝える動画などを載せる取り組みをした。

令和3年の自殺予防週間には、「#あなたと生きるを考える」と題し、パパゲーノ効果を活用したプロジェクトを実施し、過去に希死念慮を持っていたが、それを乗り越えてきた方々からメッセージを発信していただいた。悩みを抱える方々の支援活動に取り組んでいる方や、多くの支持を集めているTikTokクリエーターに、自分の経験と自分ならではの生き方を見つけたという話をしていただいた動画は、特に同世代のユーザーから多くの「いいね」が集まり、コメント欄でもユーザー同士の共感、応援、励まし合いが自然発生した。

アプリによってはこうした投稿に心無いコメントが多く付くことがあるが、TikTokでは「勇気づけられた」「自分も生きるのがつらいです」といった温かいコメントや共感の声が多い特徴がある。この理由は分かっていないが、こうしたTikTokの特徴を生かしてさらに取り組んでいきたいと思っている。

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最後に、報道機関のアカウントでの取り組みをご紹介したい。TBSnews23の番組アカウントで、「夏休み明けがつらい子どもたちへ」という特集の一環として、女性キャスターの方が過去にいじめを乗り越えた体験を語った 動画 を投稿された。報道機関でも「拡散を抑える」という視点に加えて、このようなポジティブな方向での取り組みもできるのではないかという例として紹介させていただいた。

ディスカッションに向けた論点整理 古田大輔氏(ジャーナリスト)

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まず、前回勉強会でも話した事件報道と拡散の流れについてもう一度確認すると、次のようになっている。基本的に、事件報道(自殺報道)の起点はマスメディアであることに変わりはない。

◆事件発生

● 警察・消防などの覚知

● 新聞・テレビなどの事件担当(警察記者クラブ)へ=速報

● 速報記事が大手アグリゲーターへ=リーチ拡大

● 速報記事が各社アカウントからソーシャルメディアへ=シェアが広がる

● まとめサイトが引用と噂で作った記事を公開=ミスインフォメーション化

この流れの中で今日話題にしているのは、大手アグリゲーターのリーチ拡大やソーシャルメディアの大量拡散という部分になる。そもそもプラットフォームとは何なのか?新聞社やテレビ局の方の多くが、実は明確な区分けができていないのではないか。

代表的な分類方法の一つを紹介すると、ニュースアグリゲーターはパブリッシャー(マスメディア)からニュースを収集して公開するもので、圧倒的なリーチ力がある(Yahoo!ニュース、LINE NEWS SmartNewsなど)

一方ソーシャルメディアは、プラットフォームに作ったアカウントを通じてメディアや個人が情報を発信し、インタラクティブ(相互)に作用するものであり、圧倒的な拡散力がある(FacebookTwitterなど。LINEアカウントメディアもこれに該当)。動画プラットフォームのTikTokをどう分類するかは分類方法によって異なるが、誰でも情報発信ができてインタラクティブな作用で情報が拡散していくというソーシャルメディアの定義にあてはまる要素は多く、広義のソーシャルメディアに含めることが可能と思う。

これに対し、新聞社やテレビ局、雑誌社はパブリッシャーというコンテンツをパブリッシュする人たちで、コンテンツ制作力がある。

  • ニュースアグリゲーター:圧倒的なリーチ力
  • ソーシャルメディア:圧倒的な拡散力
  • パブリッシャー:コンテンツ制作力


ただ注意すべきは、パブリッシャーのコンテンツ制作力には、他の二つには付けている「圧倒的な」という言葉をつけていない点だ。プラットフォームもコンテンツの一部を自ら制作する傾向があること、個人が作るコンテンツの数が圧倒的に増えてきていることが理由だ。こういったメディア環境の激変を理解した上で、自殺報道を含む報道や情報拡散のあり方を考えていく必要がある。


ディスカッション・質疑応答  モデレーター:古田大輔氏  
パネリスト:西丸氏、末弘氏、金子氏、阿部氏、清水

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ガイドラインに反した記事の入稿への対処

古田氏)
最初にぜひ質問したいのは、入稿に際して自殺報道に関するガイドラインに沿っていない記事があった場合、具体的にどのような対応を取られているのかという点だ。

西丸氏)
Yahoo!ニュースには媒体社様とのコミュニケーションを担当するメンバーがおり、そういった記事があった場合には、そのメンバーを通して媒体社様に「弊社が用意しているガイドラインにご配慮いただきたい」などやり取りをするケースもある。令和2年に自殺報道が相次いだ後も継続的にコミュニケーションを取っており、ざっと見た所感では、現在は昨年に比べ飛躍的に改善していると感じている。特に、「自殺」という語を使わない、相談窓口情報を入れるなどは、かなりの媒体に対応していただけていると感じている。

末弘氏)
LINE NEWSでは、短期的には、個人の関心に沿った記事が表示されるレコメンド欄で非表示にする対応を即時取っている。中長期的には、Yahoo!ニュースさんと同様に、メディア様にこちらの意図を説明してコミュニケーションを取るようにしている。

古田氏)
清水さんと阿部さんに、どのくらい変化を感じているのか伺いたい。私もニュースメディアのデジタル化に関する勉強会を開いていて感じるのは、関心のある方は勉強会に来て学んでいるが、問題は勉強会に来ていただけない方。変化をより広げるためにはどうしたらよいか?

清水)
自殺問題にかかわるようになって20年ほど経つが、自殺報道においてこの1年以上に変化を感じたことはこれまでにない。一方、依然として自殺報道ガイドラインに反する、あるいは無視するような報道をされているところもあり、それがどこなのかもかなり特定されてきている。まずは多くのメディアに啓発をして全体を変えていただき、次に私たちが自殺報道として不適切と感じる報道を続ける社には個別にアプローチをして話し合いをさせていただく方向で進めていきたいと考えている。

阿部氏)
「ホエール自殺報道プラットフォーム」というAIが自殺リスクを検知するシステムを開発しているが、ここにきて大きな誤算に気づいた。本日の報道では、メディア側がすごく配慮し「自殺」という言葉使わずに報じる社がとても多かった。つまり、フィルターのワードが変わったということでとても喜ばしい一方で、朝からSNSでの「死にたい」という言葉の使用頻度が急激に高まってきている。つまり、報道で「自殺」という言葉を使わなくても、「死にたい」気持ちは高まる可能性があるので、「自殺」以外の言葉にも網を張る必要があると考えている。

もう1点は、今回の報道では完全な二極化がみられた。配慮された報道が増えた一方で、度を越えてエスカレートした社もあった。この勉強会で高い倫理観の中で話を進めても、社風によってはうまくルール化できない社もあると思うので、やはり自殺報道(が希死念慮を持つ方に与える影響)の怖さを伝えていく必要があると思っている。

コメント欄が荒れないようにするための取り組みについて

古田氏)
コメント欄に関して参加者の方から事前にいただいた質問では、「コメント欄に負の感情が集中しているように見える」とういうものがあったが、先ほどの金子さんのお話では、TikTokでは温かいコメントが多いという説明があった。例えば、10年前は「Twitterは荒れない」と言われていた。なぜなら、自分の人格と紐づいたアカウントで人を誹謗中傷すれば自分のアカウントの評判が悪くなるから。「Twitterは炎上しないプラットフォーム」と真面目に語られていた。今回、TikTokのコメント欄が荒れないようにする取り組みとしてRethink機能(不適切なコメントを投稿しようとすると、「本当にこのコメントを投稿しますか?」というメッセージを表示される機能)があり、世界で4割以上が投稿をやめるというデータは本当に驚きだった。そうした施策は、今後も強化されていくのか?

金子氏)
そう考えている。Rethink機能以外にも基本的な機能として、動画を投稿した本人が、書き込まれたコメントの一つ一つ、あるいはまとめて全部を削除することができるものがある。またコメントフィルターという機能もあり、一つは誹謗中傷のような不適切なコメントを自動で非表示にできる機能、もう一つはユーザー自身が非表示にしたいキーワードを設定できる機能だ。ユーザー一人一人がどういうコメントに触れたいか。それを自己決定できる形にし、自分で自分の発信を管理できる状態を作っていくことが必要だと考えている。

社内での自殺報道に関する教育・人材育成について

古田氏)
参加者から事前にいただいた質問で、「メディア内で自殺報道の問題に対応するには人材が必要だが、社内でそういった教育や研修等はどのように行われているのか?」というものがあった。何か取り組んでいることはあるか?

西丸氏)
清水さんをはじめ、自殺対策に取り組む方を講師に招いた社員向けの研修会を継続的に実施している。また、大きな自殺報道が少し落ち着いた段階で、Yahoo!ニュース内で今回の対応が正しかったのかどうか、継続すべき部分と改善すべき部分はどこか、メンバー同士で振り返る機会を毎回用意している。

古田氏)
おそらく多くの新聞社やテレビ局は、自殺報道後に西丸さんがおっしゃるような振り返りの時間を設けていないと思う。振り返りの時間は、誰がどうリードする形で設けているのか?

西丸氏)
誰がリードするという取り決めはないが、第一報があったときの対応責任者がリードすることが多い。我々は24時間体制でトピックスの対応に当たっているため全員が集まる場は作りにくく、Web上のツールなどを利用して各自が思ったことを書き込み、それを基に一度振り返りの時間を設けるような形にしている。

末弘氏)
LINE NEWSでも勉強会の開催や振り返りを行っている。どういう理由でその記事をピックアップしたのか、ピックアップしてよかったのかどうかなどを振り返り、今後の運用に生かしている。ディスカッションの過程はなるべく「見える化」するようにしており、みんなが書き込めるチャットのログも残し、それを見れば基本的に誰でも同じような判断ができるようにする仕組みにしている。そして、その議論を運用のガイドラインに落とし込んでいる。

より情報の少ない記事を「待つ」ことについて

古田氏)
先ほどのYahoo!ニュースの発表の中でとても驚いたのが、(令和27月に)有名男性俳優がお亡くなりになった際の報道について、最初に送られてきた記事に「首つり」の文言があったことから、情報がより少ないニュースが来ないかしばらく待った、というお話だった。その際は、どういう議論があったのか?

西丸氏)
おっしゃるとおり一番早く届いた記事であり、他よりも深い取材がなされ ていると思うが、「WHO自殺報道ガイドラインと照らし合わせた時に果たしてどうなのか」という議論が、トピックスの更新に当たっていたメンバー内であった。やはり亡くなったのが影響力の大きな方だけに看過できないということになり、他の記事が来るのを「待つ」という判断になった。

清水)
2点補足させていただきたい。1点目は、Yahoo!ニュースさんやLINE NEWSさんは人の手やAIのフィルターを通す対策を行われているが、それでも私たちから見て気になる記事が出てしまっている場合には、「この記事はちょっと危ないのではないか」という打診をする連絡ルートを作っていただいている。今回もそういう形で個別に連絡をさせていただいた。とはいえ、まだ体制がしっかり構築できているわけではなく、こちらのチェック体制もままならない中で細々とやっている状況なので、今後はよりしっかりした体制を作っていく方向で(プラットフォームの皆さんに)相談させていただきたいと思っている。

もう一つは、相談窓口情報を記事と合わせて伝える取り組みがかなり進んできている一方で、相談窓口がパンク状態で記事を見て連絡した人が相談できない状況が現実にある。受け手である民間団体の問題だが、このパンク状態をどう解消していくかと同時に、もしA団体はパンクしているがB団体はパンクしていないのであれば、B団体の連絡先を優先的に表示していただくようなことができないか。民間団体の足並みを揃えながら、そうしたことも今後、ご相談させていただけないかと考えている。

続 社内での自殺報道に関する教育・人材育成について

古田氏)
先ほどと同じ質問で、自殺対策の議論を社内でどのように進め人材を育成していくのか、という点について、金子さんにも形を変えて伺いたい。TikTokのようなグローバル企業では、対策にもグローバルで一定の基準があると思うが、日本に合わせた対策も議論されているのか?

金子氏)
TikTokではグローバルのマネジメント層も含め、その国の文化に合った活動をすることが大切だと考えている。コミュニティガイドラインなどグローバルでかなり統一されたものもあるが、自殺予防週間の日本国内のキャンペーンなどは、完全に日本独自でやっている。

古田氏)
自殺関連の記事についてはウェルテル効果を避けるため、各社ともアルゴリズムやフィルタリングで特定の人にそうした記事が集中しすぎないよう調整しているというお話があった。プラットフォームにとってアルゴリズムは大きな武器であり、収入にも結び付いている。こうした、社の収入面から見たら明らかにマイナスにはたらく施策は、どういうレイヤーで意思決定がなされているのか?

末弘氏)
LINE NEWSの場合は、日々コンテンツを見ている編集部のメンバーが、「こういう問題がある」と現場から提案し、それを決裁者を含めたLINE NEWSのメンバーで広く検討して判断・反映していく形も多い。一番偉い人が決めるというわけではなく、みんなで見て「よくないもの」をしっかりと判断してアルゴリズムに反映していく体制になっている。

西丸氏)
Yahoo!ニュースも基本的にLINE NEWSさんと同じような形だ。自殺報道のようにセンシティブなものは売り上げとは切り離して考える必要があるという考えは、社内の誰もが持っているのではないかと思う。

金子氏)
TikTokの場合は、コミュニティガイドライン違反の動画は削除等の対応を行なっているが、その上でアルゴリズムやレコメンドにおいては、おっしゃるように集中しすぎないようになっている。逆に、似たような動画ばかりお勧めされたら、ユーザーは本当にうれしいだろうか、という視点もあると思う。

古田氏)
最後に、勉強会には多くのパブリッシャーの方々が参加されている。パブリッシャーとプラットフォームが協力して取り組めることは何か。また、「アドバイスがほしい」という声も寄せられているので、これらについて伺いたい。

西丸氏)
メディアの方々にはこれまでもコミュニケーションを通して非常にご協力いただいているが、より発展的に考えるならば、パブリッシャーの素晴らしいコンテンツ制作能力を生かし、現場で取材した真実と合わせ、報道で影響を受けている方たちをケアするような記事を配信していただけるような仕組みを、お互いに作っていけたらよいと思っている。
また、紙と違ってWebは一度情報を公開した後も見直すことができる。この表現はちょっとまずいかな、相談窓口情報を入れていなかったな、といったことがあれば対応できる。考え方はさまざまあるが、命に関わる報道については随時検討していただいてよいのではないかと思う。

末弘氏)
現状では「記事がプラットフォームに配信される速さ」が、掲出されやすさと連動している傾向があるが、LINE NEWSとしては中身が充実した、よりよいものを広く流通させていきたいという思いがある。速さだけに偏らないより充実したコンテンツを広めていく後押しをさせていただきたいと思っている。

金子氏)
自殺報道だけでなく、希死念慮を持ちながら困難を乗り越えた方の物語も報じていただけたらと思う。自殺報道がこれだけ広まるならば、逆に困難を乗り越えた方の話が同じくらい広まってもよいはずだ。

古田氏)
本日の議論をまとめたい。皆さんの発表は私自身も非常に参考になり、聞いていたパブリッシャー等のみなさんも、プラットフォームがこれだけ対策・取り組みをしていることに非常に驚かれたのではないか。印象的だったのは、Yahoo!ニュースもLINE NEWSも現場できちんと振り返りをしてそれを社内で提言していることや、TikTokもグローバルで同じ対応というわけではなく日本独自の対策を現場から出すようにしていることだった。それが広がっていくことで報道も変わっていくと思うし、実際にこの1年、数年の間に自殺報道は随分変わってきている。

それは、今日聞きに来てくださったパブリッシャーの皆さんが各社で声を上げられているからだと思う。次の段階は、ここに来ていない方にどうやって広げていくかということで、今日のような社を越えた勉強会などがより広まる必要があると思う。そして、それでも変わっていかないところには個別に話をしに行く。そういう風にして、全体的な改善が図られていくのではないかと期待している。

閉会の挨拶  清水康之(JSCP代表理事)

改めて、本日ご登壇いただいた皆様に感謝申し上げたい。JSCPとしては、今後も自殺対策に資する報道をしていただくべく様々な働きかけを続けていくつもりだ。そうした中で必ずしもWHO自殺報道ガイドラインを踏まえていない報道をされている社には、何らかの事情があるのかもしれないので個別にお話をさせていただきたいと思っている。粘り強く議論を続けていくので、皆様には今後もぜひお付き合いいただきたい。

勉強会冒頭の阿部さんの報告にもあったように、自殺報道の後にSNS等で情報が拡散され、その直後から自殺が増えるリスクが高まり、令和2年に2人の有名俳優がお亡くなりになった際は、自殺報道から2週間くらい(自殺者数が)高止まりの状況が続いた。今日のこと(有名女性俳優死去の報道)は死因が断定されていないものの、今現在自殺リスクが高まっている最中にあると捉えている。今ぎりぎりのところで生きることにとどまっている方たちの背中を、自殺の方向に押してしまうのか、それとも生きる方向に押し戻していけるのか。私たちにできることはたくさんある。皆様も、そうした緊張感を持ち続け、現場で取り組んでいただけたらと思っている。




■これまで開催した「自殺報道のあり方を考える勉強会」のレポートは、こちらで公開しています