研修・会議
令和4年度「自死遺族等支援団体向け研修・情報交換会」開催レポート
2023年8月 7日
JSCPは本年3月25日(土)、令和4年度「自死遺族等支援団体向け研修・情報交換会」をオンラインで開催し、全国で自死遺族等支援を行っている21の民間団体(以下、団体)が参加しました。本研修は、2022年10月に閣議決定された新たな自殺総合対策大綱 (以下、大綱)における「自死遺族等支援事業」について理解を深めていただくと同時に、団体が直面している課題について情報共有・意見交換をすることで、今後の活動展開のヒントを得ていただく目的で開催しました。(プログラムはこちら )
JSCPからの情報提供
研修・情報交換会ではまず、JSCP自死遺族等支援室長の菅沼舞が、「JSCPからの情報提供」として、以下の3点について紹介しました。(講義内容の詳細は動画をご覧ください)
- 自死遺族等支援事業のこれまでの歩みと法的根拠
- 新たな自殺総合対策大綱の内容と全国の取り組み
- 自死遺族等支援事業における課題~参加団体のアンケート結果の紹介~
自死遺族等支援室長の菅沼
1.「自死遺族等支援事業のこれまでの歩みと法的根拠」では、自殺対策基本法第9条で定められている「自殺者等の名誉及び生活の平穏に配慮する」ことが新たに大綱に追加されたことを紹介しました。また、自殺に対する誤った認識や偏見によって、遺族等が悩みや苦しさを打ち明けづらい状況が作られているだけでなく、支援者等による遺族等への支援の妨げにもなっていることから、「遺族等支援としても、自殺に対する偏見を払拭し正しい理解を促進する啓発活動に取り組んでいく」ことが盛り込まれた点も紹介しました。
2.「新たな自殺総合対策大綱の内容と全国の取り組み」では、JSCPが全国の自治体を対象に毎年度行っている「自殺対策推進状況調査」の結果から、自死遺族等支援事業の実施状況の一部を報告しました。
自死遺族等支援事業の実施にあたっては、都道府県・政令指定都市では全ての自治体が「何らかの自死遺族等支援事業を行っている」と回答した一方で、市区町村では80%程度にとどまっていました。中でも、市区町村では「ウェブサイトを通じた情報提供」や「自治体窓口以外でのリーフレット配布」は20%程度、「わかち合いの会の開催(支援)」は全体の3%程度でした。また、基本法において全ての都道府県及び市区町村に策定が義務付けられている「地域自殺対策計画」について、「自死遺族等支援事業について記載している」と答えた自治体は、都道府県・政令指定都市では、ほぼすべてであるのに対し、市区町村では40%程度にとどまりました。
3.「自死遺族等支援事業における課題」については、本研修の参加団体に事前にご回答いただいたアンケート結果をもとに3つにテーマを絞り、各団体から状況を説明していただきました。
<3つのテーマ>
・活動スタッフの育成・確保
・情報の発信
・活動拠点の確保
活動における課題として一番多く挙がったのが、「活動スタッフの育成・確保」です。15年以上活動を続けている団体からは、「会の立ち上げ当初から同じメンバーで活動を続けているが、新しく加わったスタッフがなかなか続かず、世代をつなぐことが非常に難しいと感じている」といった声が上がりました。会を最近立ち上げたばかりの団体からは、「活動スタッフも自死遺族の当事者ということもあり、スタッフのメンタルや個々の事情に配慮しながらどのように運営したら良いか悩んでいる」という声もありました。
次に多かったのが、「情報の発信」です。情報を必要としている人にいかに届けるかという課題は、多くの団体が抱えています。「自治体のホームページ等への掲載や、SNSでの発信、チラシの配布などの効果で、参加人数も徐々に増えてきたが、ウェブサイトを作るための資金が足りない」といった声や、「コロナ禍では、会を中止することや再開することを、どのようにご遺族に伝えるか苦慮した」という声がありました。また、ある団体からは「救命救急士に救急車の中で会のことを紹介してもらったことがきっかけで、参加されたご遺族がいた」というお話もありました。
3つ目に多かったのが、「活動拠点の確保」です。会場に関しては、自治体と連携し、会場の無償提供や、助成金等の資金援助を受けている団体がある一方で、「公共施設を使う場合は事前申し込み制なので、その都度、申し込みに足を運ばなければならず、年間を通じた安定的なスケジュールが組めない」といった声が上がりました。
その他の課題としては、「自死遺族等が抱える労災や賠償問題などの具体的な課題の相談を受けた際に、どのようにして行政や専門機関とつないだら良いかがわからない」といったものや、LGBTQ+の支援団体からは、「LGBTQの当事者がパートナー等を亡くし、わかち合いの会などに参加した際に、同性婚やLGBTQ への差別がある中で、なかなか共感をもって受け止めてもらえなかった」という事例も挙がりました。
これまで抱えていた課題に対して工夫した点については、「遺族の参加が少なく遺族同士のわかち合いが難しい場合には、過去に参加し、会からの連絡に承諾をいただいた遺族に連絡し、会への参加の協力をお願いしている」、「コロナ禍で一定のスタッフの確保が難しい場合に、他団体に協力要請を行い、一緒に事業を行ったり、研修会などを実施したりした」、「会を設立した当初は、なかなか自治体との連携がうまくいかなかったが、市長のタウンミーティングへの参加を通じて、地元の自殺対策連絡協議会の委員に加わったことで、自治体や関係機関と様々な情報交換がスムーズにできるようになった」といった具体例の紹介がありました。
グループディスカッション
情報交換会の後半は、「自死遺族等支援事業における課題」をテーマに4つのグループに分かれて、40分間のグループディスカッションを行いました。グループディスカッションの中で、話題として挙がった内容は、以下のとおりです。
- 自死遺族等の当事者であるということを安心して打ち明けることができる雰囲気づくり
- 申し込み時の性別欄等、LGBTQの方などに配慮した対応
- どうやって次世代につないでいくか
- 広域で活動をしていくことの難しさとオンラインの活用の可能性
- 対面とオンラインを併用したハイブリッド開催の可能性と難しさ
- SNSの活用を含む効果的な周知の方法
- 自治体や他団体との連携、ネットワークづくりの必要性
- きょうだいを亡くした方や、自死遺児等へのサポートの不足
このうち、「どうやって次世代につないでいくか」については、「設立時の代表から、役職を引き継ぐ中で、設立時の思い等を受け継ぎながら、会を続けていくことの大変さ」などが課題として挙がりました。一方で、「無理に会を存続させることや、思いを引き継ぐことを意識するのではなく、参加者が新たな場所を自分たちの場所として作っていく形があっても良いのではないか」という意見もありました。
「対面とオンラインを併用したハイブリッド開催の可能性と難しさ」については、実際にコロナ禍でハイブリッド開催を実施した団体から、「限られたスタッフで実施する場合には、対面またはオンラインのみで開催する時と比べて、会場設営から機械的な操作など、いつも以上に負担が大きく、気持ちの面で落ち着かない。わかち合いをファシリテートするスタッフの他に、ITに専念できるスタッフや機材等の環境が整っていれば、可能性はあると思うが、そこに余裕がないと一人二役となり、参加者の安全を確保しながら会に集中するのは難しいように感じる」といった声がありました。
「SNSの活用を含む効果的な周知の方法」については、「開催日時などの事務的な告知を行うだけでなく、会の終了後に、当日の雰囲気や話題となった内容を発信することで、初めて参加する方が会への参加をイメージしやすくなる」といった工夫の紹介や、「自治体からの要請で、地域の福祉関係の職員や、消防、警察、困りごと相談室の相談員向けの研修会で講師を行ったことがきっかけとなり、救命救急士からご遺族への紹介に繋がった」といったお話もありました。
「自治体や他団体との連携、ネットワークづくりの必要性」については、「活動している地域の自殺対策連絡協議会に委員として参加している」や、「地域で遺族等支援を行っている民間団体同士で、定期的に情報交換会や研修を実施している」という団体がある一方で、「なかなか連携がうまくいかず、孤独な状況だったので、今回のような情報交換会を通じて、他の民間団体とのつながりを作ることができたのは良かった」といった感想もありました。
JSCPでは今後も定期的に自死遺族等支援団体等の民間団体向けの研修・意見交換会を実施していく予定です。
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