研修・会議

【開催レポート】令和5年度 自死遺族等支援団体向け研修・意見交換会

2024年4月 2日

JSCPは2024年1月13日(土)、「令和5年度 自死遺族等支援団体向け研修・意見交換会」をオンラインで開催。全国で自死遺族等支援を行っている20の民間団体(以下、「参加団体」)から計20名が参加しました。本研修は、全国の自死遺族等支援団体の方々同士で意見交換をする場を設けることで、活動を展開する上でのヒントを得ていただくことを目的とし、昨年度から開催しています。

■本研修のプログラムはこちら
■前回研修「令和4年度 自死遺族等支援団体向け研修・情報交換会」の開催レポートはこちら

JSCPからの情報提供

本研修・意見交換会ではまず、JSCP自死遺族等支援室長の菅沼舞が、「JSCPからの情報提供」として、以下の2点についてご報告しました。(講義内容の詳細は、動画をご覧ください)

  • 昨年度の情報交換会の振り返り
  • 自死遺族等支援事業における課題 ~参加団体のアンケート結果の紹介~

「昨年度の情報交換会の振り返り」では、事前アンケートで寄せられた意見で最も多かったのは、「活動スタッフの育成・確保」「情報の発信」「活動拠点の確保」の3つであったことを紹介し、実際に行った工夫として、他団体へ協力要請し共同で事業を行った例、
市長のタウンミーティングで嘆願し、自殺対策連絡協議会の委員として情報提供した例などがありました。
それ以外にも「自治体との連携」「遺族等から相談を受けた際のつなぎ先」「LGBTQの遺族等のわかち合いの会への参加」についても意見交換が行われました。

前回研修の事前アンケートの結果

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今回研修の参加団体に事前にご記入いただいたアンケートでは、前回から引き続き「活動スタッフの育成・確保」の他、「遺族等(特に若い世代)へ情報を届ける方法」「つながりやすいネットワークの構築(近隣の市町村との連携)」「運営資金の財源確保」等の課題が挙がりました。自治体との連携における課題については、「自治体や担当者によって理解度や温度にバラつきがある」「担当者が異動した時の引継ぎや情報共有が不足している」「人口が少ない地域で自死遺族等のプライバシーを確保するのが難しい」等の声があったことを紹介しました。

今回研修の事前アンケートの結果

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各団体の活動内容の紹介と課題

次に、「活動内容の紹介と課題」として、参加団体の方々にご発言いただきました。
活動での課題として挙がったことの一部を、ご紹介します。

  • 世代交代をしたいが、スタッフが集まらない(あるいは、長続きしない)
  • カウンセリング的な聞き方とソーシャルワーク的な聞き方の両立の難しさ
  • オンラインと対面のハイブリッド開催
  • 遺族等が抱える希死念慮への対処
  • コロナ禍以降、活動が停止したまま復活が難しい
  • 自治体からの委託事業の予算削減
  • 身近な人を亡くした子どもたちが参加できる会が少ない
  • きょうだい児のケア
  • 子どもの自殺が起きた時の背景調査(※)は、保護者が声を挙げるかどうか次第になっている
  • 学校の先生たちが自死について学ぶ機会がほとんどない
  • 世の中の変化に対応した支援、立場の弱い人に寄り添った支援ができているか
  • 海外からの参加希望者への対応

※児童生徒の自殺又は自殺が疑われる死亡事案が起きたときに、学校又は教育委員会が主体的に行う調査

各団体から課題が報告された後には、全体での意見交換を行いました。課題として挙がった「子どもたちに情報を届ける方法」については、「子どもと関わる支援機関への周知が有効」や「支援者向けの研修等へ参加し、活動紹介を行う」「保護者や教職員からいつでも相談が受けられる体制づくり」など、先行して取り組む団体からの助言等もあり、活発なやり取りが行われました。
JSCPからは、「子ども・若者の自殺が増加する中、自治体や教育委員会も危機感を持って研修等を行っている。ただ、自殺をどう防ぐかという観点のものが多い一方で、子どもが自殺問題の当事者になる時は、子ども自身が亡くなるケースよりも、子どもが家族や友人を失うケースの方が多いはず(日本の自殺の3~4割が中高年の男性であることから、父親を亡くす子どもの数が多い)である」ことを説明し、「支援者向けの研修へ講師として登壇したり、登壇できなくても、研修の配布資料の中に団体のリーフレット等を入れてもらうなど、教育委員会とのパイプづくりが重要である」点についてお伝えしました。
次に「自治体との連携」に関する課題については、わかち合いの会の会場確保や参加受け付け等を自治体が主体となって行っている団体から、「自死遺族への支援が自殺対策基本法や自殺総合対策大綱に明記されていることを自治体に伝え、民間団体と共催するメリットや、市で自死遺族等支援を実施するメリット、参加者がいなくてもやり続けることの意味について何度も説明してきた」「活動に関する取材を受けるといった情報発信の際には、自治体と一緒にやっていることを大きくアピールしてきた」などの助言がありました。

改訂版の「手引」に関する意見交換

会の後半では、現在JSCPが改訂作業を行っている「自死遺族等を支えるために ~総合的支援の手引~1)」の骨子案について、意見交換を行いました。

※1:2017年に閣議決定された自殺総合対策大綱の理念と内容を踏まえ、2018年11月に自殺総合対策推進センター(※2)が作成。自死遺族等の支援に関わる関係者が、取り組みを進めるために重要な観点および留意点をとりまとめたもの。
※2:学際的な観点から関係者が連携して自殺対策のPDCAサイクルに取り組むためのエビデンスの提供および民間団体を含め地域の自殺対策を支援する機能を強化するため、2016年4月に国立精神・神経医療研究センター内に設置された組織。2020年4月よりJSCPが業務を継承。

改訂版の手引の骨子案の概要

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手引に関する意見交換では、「自死遺族等」の「等」の部分にあたる「家族や親族以外で身近な人を亡くした人」の支援のことや、虐待やDVを受けた人たちにとっては「大切な人を亡くした」という表現にも違和感があること、また「遺児等」の「等」にあたる「きょうだいや友人等を亡くした子どもたち」への支援の必要性など、ご遺族に寄り添った支援を行っている支援団体ならではの視点から、活発に意見が出されました。
その他、新たな自殺総合対策大綱に盛り込まれた「発生直後からの支援」や「偏見や差別を払拭するための啓発活動」の重要性について手引に掲載してほしい、という声もありました。また、「(教諭による)不適切な指導」や「LGBTQ」「外国籍の方」「視覚障害者の方」「児童養護施設や一時保護所などの施設に住んでいる子どもたち」など、誰一人取り残されることがないように配慮が必要といった声、自治体との連携やわかち合いの会の継続について「費用対効果ではなく、継続することの大切さを理解してもらう必要性がある」といった意見がありました。

■今回の研修・意見交換会の講義資料はこちら
参加者のアンケート結果はこちら

JSCPでは、今後も定期的に自死遺族等支援団体などの民間団体を対象に、研修・意見交換会を継続して実施していく予定です。

photo-240325.jpg今回研修・意見交換会の参加者の皆さんと、JSCP関係者の集合写真(参加者の許可を得て撮影)