SPECIAL

2025年6月17日大学生の自殺対策が急務 統計データが示す深刻な状況と求められる対策

「Yahoo!ニュース エキスパート」で2025年5月12日に公開した記事を転載しています。photo-250620-student_suicide.jpg

                                                     (イメージ画像)



こども(小中高校生)の自殺が過去最多となり深刻な社会問題となる中、実は、自殺で亡くなる大学生の数も、見過ごせない水準で推移していることをご存じでしょうか。

2024年に自殺で亡くなった大学生は434人にのぼりました。就職や進学という人生の分岐点を迎える時期に、追い詰められる若者たち。統計データや調査結果から、その現状と、大学生の自殺への対策が十分ではない現状が見えてきました。

本記事では、大学生の自殺の現状と、大学での自殺対策を進めるために役立つ情報についてお伝えします。


統計データの分析から見えてきたこと

筆者が所属する一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」では、警察庁の自殺統計データを用いた分析を行うなど、大学生の自殺の実態把握を進めています。同センターが公表した分析結果(2009年〜2023年のデータに基づく)から、いくつかの重要な傾向が見えてきました。

まず、大学生の自殺者数は、2011年以降減少傾向にありましたが、2019年に増加に転じ、近年も年間400人を超える高い水準が続いていることが分かりました。特に、女性の大学生で、自殺者数の増加傾向が顕著です。


fig-250620-graph1.png

fig-250620-graph2.png
「年齢別」「時期」ごとの特徴

次に、年齢別に見ると、21歳から22歳にかけて自殺者数が最も多くなる傾向が確認されています。ちょうど、卒業や就職といった人生の分岐点を迎える時期とも重なります。

fig-250620-graph3.png

月別では、年度末から年度はじめにかけての春先(2月前後)と、後期授業のスタートを前にした9月に、自殺者数が多い傾向が見られました。

fig-250620-graph4.png
「原因・動機」の特徴

原因・動機(警察によって特定された範囲のもの)としては、男性では「学業不振」(23%)、「進路に関する悩み(入試以外)」(19%)が、女性では「病気の悩み・影響(うつ病)」(21%)、「進路に関する悩み(入試以外)」(15%)などが上位となりました。ただし、自殺の背景は非常に複雑であり、警察によって特定された原因・動機が、亡くなった方一人ひとりの背景全体を捉えているとは限らない点に留意が必要です。

また、生前に精神科や心療内科に通院していなかった学生も、半数以上いました。


fig-250620-graph5.png

大学での自殺対策 不十分との調査結果も

このような状況の中で、大学における自殺対策が十分に行われていない状況を示す調査結果もあります。

全国大学メンタルヘルス学会が2020年にまとめた「大学の自殺予防対策に関する現況調査結果報告書(調査参加大学は、全国の国公私立大195校)によると、「大学全体として、学生の自殺予防対策を講じていますか」との問いに対し、「実施している」が56%、「実施予定」が10%、「予定なし」は34%でした。

また、「学生に対する自殺予防関連の教育研修を実施していますか」との問いに対しては、「実施してる」が34%、「実施する予定」が15%で、「実施未定」が半数以上の51%に上りました。


大学関係者向けのe-ラーニングを提供

こうした状況の中、大学での自殺対策の推進を支援するため、いのち支える自殺対策推進センターでは文部科学省や厚生労働省などの後援を受け、これまでも大学教職員向けの研修を開催してきました。

2022年度、2023年度に開催したオンデマンド形式の研修には、それぞれ3955名、3360名の大学関係者が申し込みました。関係者の関心は高く、教育現場で直面する切実な状況への危機感が反映されているとみられます。

研修後には、「繰り返し受講したい」という要望が多く寄せられたことから、同センターでは2025年3月末より、「大学における自殺対策推進のための研修」をe-ラーニング形式で提供しています。

国公私立大学等で学生の支援や教育に携わるすべての方を対象としており、受講費は無料です。

このe-ラーニングは、大学生の自殺の統計データや背景のほか、リスクを抱える学生に「気づき、傾聴し、適切な支援につなぐ」ための実践的なスキルを紹介する「個人スキル編」と、大学として自殺を防ぐための「組織スキル編」から構成されています。

いつでも、何度でも受講でき、確認テストに合格すると修了証が発行されます。

e-ラーニングを作成した、いのち支える自殺対策推進センターでこども・若者自殺対策室長を務める半谷まゆみ医師は、「自殺はその多くが追い込まれた末の死であり、その多くが防ぐことのできる社会的な問題です。大学生においてもこれは同様で、大学教職員一 人ひとりが、また、大学という組織が、できることはまだまだあるはずです。その第一歩として、大学生の自殺の実態や、自殺対策の正しい知識を『知る』ことが非常に重要です。このe-ラーニングを、取り組みを始めるきっかけとして活用してほしいと考えています」と話しています。

■e-ラーニング受講の詳細については、こちら 
■「大学生の自殺の状況」に関する分析結果は、こちら

【JSCP広報官・山寺香】

                                                         

ーーーーーーーーーーー

◆記事を読んでつらい気持ちになったら。気持ちを落ち着ける方法や相談窓口などを紹介しています。

こころのオンライン避難所https://jscp.or.jp/lp/selfcare/

image-JSCP_kyori_oku.jpg

◆つらい気持ちを相談できる場所があります。

<電話やSNSによる相談窓口>

・#いのちSOS(電話相談)https://www.lifelink.or.jp/inochisos/

・チャイルドライン(電話相談など)https://childline.or.jp/index.html

・生きづらびっと(SNS相談)https://yorisoi-chat.jp/

・あなたのいばしょ(SNS相談)https://talkme.jp/

・こころのほっとチャット(SNS相談)https://www.npo-tms.or.jp/service/sns.html

・10代20代の女の子専用LINE(SNS相談)https://page.line.me/ahl0608p?openQrModal=true

<相談窓口をまとめたページ>

・厚生労働省 まもろうよこころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

関連新着トピック