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【記事公開】コラム Vol.5
──自殺報道をどう伝えるか~記者から対策現場に移った私が考えたこと
メディアとのパートナーシップが生んだ劇的効果

「Yahoo!ニュース エキスパート」で2026年5月7日に公開した記事を転載しています。

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(写真はイメージ)

私が勤務する「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」では、メディア関係者を、自殺対策において協働する「パートナー」と位置づけています。

メディアの責任ある判断を尊重し、「どう報じるか」を判断するためのデータや情報を提供することが、私たち(JSCP)の基本的な役割だと考えています。

私を含め、現在の広報チームは全員がメディア出身者であり、このスタンスに至るのは自然なことでした。

おそらく世界で初めてメディア向けの自殺報道ガイドラインが導入されたのは、1987年。オーストリアの首都・ウィーンで、劇的な効果を生みました。

この事例の詳細を論文等で調べてみると、40年近く前にこの問題に取り組んだ現地の自殺予防の専門家たちは、メディアに対し私たち(JSCP)と同じスタンスで向き合っていたことが分かりました。

ウィーンの地下鉄で起きた「模倣自殺」の急増

ウィーンでは1978年の地下鉄開業後、80年代半ばから地下鉄での自殺が急増。メディアは亡くなった方の写真を用いるなど、センセーショナルに報じました。

これに対し専門家グループは、報道の規制を押し付けるのではなく、「報道の自由」を尊重し、以下のような具体的な行動に出ました。

専門家らは文献や調査などから、次の仮説を立てました。手段の詳細や動機をロマンチックに報じ、見出しに「自殺」と使えば模倣効果が高まる。一方、助けを求める先や危機を乗り越えた事例を示せば影響は小さくなる、といったものです。

この仮説を1ページにまとめ(最初の自殺報道ガイドライン)、1987年半ばにメディア・キャンペーンを展開しました。

規制ではなく「対話」がもたらした劇的な効果

動きは、大きく2つです。一つは、地下鉄運営会社が主要紙の編集トップとの直接交渉を担い、地下鉄自殺に関する報道をメディアが自主的に一時休止する取り決めを交わしました。

もう一つは、現場の記者への継続的な草の根アプローチです。自殺に関する記事が出るたびに、ガイドラインをジャーナリストや編集トップに直接送り、記事へのコメントを添え、対話を求めました。

重要なのは、ガイドラインを押し付けるのではなく「どう報じればいのちを救えるか」の判断をメディア自身に委ねた点です。

その結果、ガイドライン導入から半年間で地下鉄での自殺・未遂件数は80%以上も急減。

その後2005年までの20年近く、地下鉄の乗客数が約2倍に増えても、自殺の件数は低い水準を保ち続けたという分析結果もあります。

懸念された、別の手段での自殺が増える「手段の代替説」は観察されず、オーストリア全体の自殺者数についても、ガイドライン導入後に減少がみられ、ガイドラインが報道の質と自殺行動に影響したという仮説を支持する結果が報告されています。

メディアが抱える構造的課題と、社会を変えていく力

現在の日本でも、状況は改善しつつあるものの、センセーショナルな自殺報道が繰り返される一因は、報道現場の構造にあるように思います。

元記者の私が実感するのは、事件・事故報道は新人記者が担当し、詳細な記事を書く訓練を受ける一方で、ウェルテル効果(報道の影響で自殺者数が増える現象)を知らない可能性があるということです。

実はウィーン事例に関する1998年の論文でも、模倣効果を知らない若手が記事の執筆を担当しがちで、担当者が頻繁に代わるという課題が指摘されていました。

時代や国を問わず、「知らないこと」と「頻繁な担当交代」という構造的な課題は共通しているのかもしれません。

一方で、近年はネット上でのPV(ページビュー)競争の側面も無視できません。紙面とネットの記事では見出しを付ける担当が異なることが多く、PVに直結するネット記事で、見出しがセンセーショナルになる傾向が顕著です。

当時のウィーンの専門家たちも「(危機を克服した記事よりも)センセーショナルな報道の方にマスメディアは関心を示す」というジレンマに直面しつつも、それでも粘り強く対話を続けました。

メディアには負の影響力もあれば、社会をより良い方向に変えていく力もあると信じています。「いのちを守る」という共通の目的に向かって、メディアと共に歩む。ウィーンの事例を詳しく知り、「日本でも」と、その思いをより強くしています。


〈参考文献〉
Niederkrotenthaler, T., & Sonneck, G. (2007). Assessing the impact of media guidelines for reporting on suicides in Austria: interrupted time series analysis. Australian and New Zealand Journal of Psychiatry, 41(5), 419-428.
・Etzersdorfer, E., & Sonneck, G. (1998). Preventing suicide by influencing mass-media reporting: The Viennese experience 1980–1996. Archives of Suicide Research, 4(1), 67-74.
・Sonneck, G., Etzersdorfer, E., & Nagel-Kuess, S. (1994). Imitative suicide on the Viennese subway. Social Science & Medicine, 38(3), 453-457.

〈参考情報〉
「JSCPの自殺報道に関する取り組み」https://jscp.or.jp/activities/proposal/for-media.html

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「こころのオンライン避難所」https://jscp.or.jp/lp/selfcare/

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