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    ──自殺報道をどう伝えるか~記者から対策現場に移った私が考えたこと
    海外の取り組みに学ぶ―「押しつけ」ではないガイドラインの形

【記事公開】コラム Vol.4
──自殺報道をどう伝えるか~記者から対策現場に移った私が考えたこと
海外の取り組みに学ぶ―「押しつけ」ではないガイドラインの形

「Yahoo!ニュース エキスパート」で2026年1月29日に公開した記事を転載しています。

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(写真はイメージ)


前回(第3回)は、新聞記者から自殺対策の民間団体に転職した私が、国内でも「ウェルテル効果」(自殺報道の後に自殺者数が増加する現象)が顕著に現れていた事実に直面し、衝撃を受けたエピソードをお伝えしました。今回は、転職直後の私を驚かせたもう一つの事実――「海外での自殺報道への取り組みの進展」について書きます。

世界各国で広がる「独自のガイドライン」

日本では2000年に世界保健機関(WHO)がメディア関係者向けのガイドラインを発行して以降、厚生労働省や専門家、JSCP(私が所属する一般社団法人いのち支える自殺対策推進センター)などを通じてその周知が進められてきました。しかし、海外の状況を調べてみると、WHOの指針をそのまま周知するだけでなく、自国の文化や社会情勢に合わせた「独自のガイドライン」を運用している国がこれほどまでに多いのかと、目から鱗が落ちるような思いでした。

JSCPが把握しているだけでも、イギリス、アメリカ、オーストラリア、韓国、シンガポール、ドイツ、スイス、さらにはインドやブータンに至るまで、多くの国や地域で独自のガイドラインが作成されています。(参考情報:海外の「自殺報道ガイドライン」リスト

お国柄を反映した実践的な工夫

興味深いのは、それぞれのガイドラインが各国の抱える課題を反映している点です。

例えば、アメリカの民間団体による「自殺報道に関する優良事例と勧告」では、銃社会という背景から銃乱射事件などへの言及があります。また、オーストラリアの研究機関による「自殺とメンタルヘルス不調に関する報道」では、アボリジニなど先住民族のコミュニティにおける自殺の報じ方にまで踏み込んでいます。

韓国では、自殺対策の専門機関、韓国記者協会、政府(保健福祉部)が共同で「自殺報道勧告基準」を作成しています。韓国では2000年代、芸能人の死がセンセーショナルに報じられたことによる模倣自殺が深刻な社会問題となりました。そのため、ガイドラインでは有名人の自殺への対応に力点が置かれ、実際の新聞紙面やテレビ映像を「良い例」「悪い例」として示すなど、非常に具体的・実践的な内容になっています。

メディアと専門家は車の両輪

これら先進的な事例に共通しているのは、自殺対策の専門家がメディアに対し一方的にガイドラインを押しつけているのではなく、作成段階から両者が議論を重ねている点です。

海外の複数の研究では、専門家とメディア関係者が対話を重ね、協働して作成したガイドラインほど、実際の報道現場に浸透しやすいことが報告されています。報道には「伝える使命」があり、それにより社会を良い方向に変えていく力があります。その使命を尊重した上で、いかにして「死を誘発しない報道」を目指すか。その着地点を双方が粘り強く模索しているのです。

「ウィーンの地下鉄事例」―世界に先駆けガイドラインを導入

こうした協働が顕著な成果を上げた例として知られるのが、オーストリアの首都ウィーンの事例です。1980年代、ウィーンでは地下鉄での自殺が相次ぎましたが、専門家とメディアが協力して取り組んだ結果、地下鉄での自殺が一時80%も減少しました。この事例は、世界に先駆けて自殺報道ガイドラインを導入したケースとしても知られています。このウィーンの事例については、次回以降のコラムで詳しくご紹介したいと思います。

【文・山寺香】

■【コラム Vol.1】「自殺報道に答えはない」

■【コラム Vol.2】「飛び降り」「飛び込み」は‟普通の言葉”?

■【コラム Vol.3】「ウェルテル効果」って、こんなに影響があるの!?

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