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【記事公開】コラム Vol.3──自殺報道をどう伝えるか~記者から対策現場に移った私が考えたこと
「ウェルテル効果」って、こんなに影響があるの!?
「Yahoo!ニュース エキスパート」で2025年11月21日に公開した記事を転載しています。
記者から対策の現場へ──懐疑から始まった
私が新聞記者から自殺対策の民間団体に転職したのは、コロナ禍最中の2021年春でした。
WHO自殺報道ガイドラインに記された「ウェルテル効果」はどこまで信頼できるものなのか、当時の私は正直、半信半疑でした。
「ウェルテル効果」に関するデータ的な裏づけがないと、記事でどこまで配慮すべきか判断できない──。そんな思いを抱いていたのです。
これは、私だけの感覚ではありませんでした。実際に、一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」でメディア向けの勉強会を担当するようになると、同じ疑問を抱く報道関係者が多いことに気づきました。
報道の自由に関わることだからこそ、外部からの声ではなく、エビデンスによる裏付けが求められるのだと実感しました。
世界100以上の研究が示す “報道の影響”
JSCPへの転職後に調べてみて驚いたのは、「ウェルテル効果」が1974年以来、世界各国で100を超える研究によって検証されているという事実でした。
自殺がセンセーショナルに報じられた直後に自殺者数が増加する傾向が、データとして繰り返し確認されてきたのです。
WHO自殺報道ガイドライン(最新版は『自殺予防を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2023年版』)も、こうした強固なエビデンスに基づいて作成されています。
日本でも見えた “報道の影響”
私がその現実を肌で感じたのは、2020年の日本のデータでした。
それまで10年連続で減少していた自殺者数が、コロナ禍が始まったこの年に増加に転じたのです。
JSCPが警察庁の自殺統計(日次データ)を分析すると、7月中旬と9月下旬のある日を境に、自殺者数が顕著に増えていることが分かりました。
「ある日」とはいずれも、有名俳優が自殺で亡くなったことが報じられた日だったのです。
数字が示す影響の大きさに、記者時代にこの事実を知らずに記事を書いてきた自分を思い返し、背筋が冷たくなるような思いがしました。
「報道の自由」とは、リスクを知った上で判断する自由
自殺報道は、報じ方によって、受け手の自殺リスクを高めるおそれがあります。
そのリスクを知った上で、それでも「報じるか」、報じるとしたら「どう報じるか」を判断する。
それは、答えが容易には出ず、苦悩を伴うことも多くあるでしょう。
でも、本当の意味での「報道の自由」とは、そうした中で判断を下すことなのではないかと、今は思います。
※参考情報
JSCPが主催する、自殺報道に関するメディア関係者向けの勉強会のレポートは、こちら
■【コラム Vol.1】自殺報道に答えはない
■【コラム Vol.2】「飛び降り」「飛び込み」は‟普通の言葉”?
【文・山寺香】
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◆記事を読んでつらい気持ちになったら。気持ちを落ち着ける方法や相談窓口などを紹介しています。
「こころのオンライン避難所」https://jscp.or.jp/lp/selfcare/
◆生きるのがしんどいと感じているこども・若者向けの Web空間で、安心して存在できるオンライン上の居場所。絵本作家のヨシタケシンスケさんが全面協力。
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<電話やSNSによる相談窓口>
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<相談窓口をまとめたページ>
・厚生労働省 まもろうよこころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/






