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IoT活用による子どもの援助希求行動の促進に関する研究 ──令和7年度自殺対策推進レアール〈研究成果報告〉⑦

こどもがSOSを出しやすく、受け止める支援システムを

「自殺対策に関する革新的研究推進プログラム(*)」の各委託研究課題の成果(令和7年度自殺対策推進レアールで報告)を紹介する連載の7回目は、領域3(ビッグデータ・AI等を活用した自殺対策)の「IoT活用による子どもの援助希求行動の促進に関する研究」です(R4-3-2)。本研究は、こどものいじめや自死の予防・解決を目的に、こども自身が早期に援助要請を発することを支援するIoTデバイスと、それと連動するアプリケーションを開発し、こどもの心身状態の把握やこどもがSOSを出しやすく、それを周囲が見逃さずに受け止める支援システムを構築するとともに、学校教員の生徒指導上の業務を効率化して負担軽減を図ることを目指すものです(研究代表者/久保順也・宮城教育大学大学院教授)。具体的には、腕時計型のIoTデバイスと、その情報とともに体調やメンタルの調子、コメントなどを把握できるアプリを開発。協力校で実証実験を実施し、デバイスやアプリの有効性や課題を検証しました。

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研究代表者の久保順也・宮城教育大学大学院教授

研究代表者の久保さんがこの研究に取り組み始めたのは、大学がある仙台市で、いじめを背景とする中学生の自殺が立て続けに起こったことがきっかけだったといいます。
「今現在も自死を含めたこうした重大事態が全国で起こっている。この傷ついているこどもたちに対して、私たち大人は何ができるかというのが問題意識の根本。いじめも自死もこどもたち自身が声を上げにくいという構造があり、それをどうしたら覆すことができるのか。もしかしたらICTやIoTの技術を使えば、声の上げにくさや声の拾いにくさを変えていくことができるのではないかと考えたのが研究の出発点。こどもたちの援助要請の声をできるだけ早い段階で発見するためのIoTデバイスとそれに連動するアプリケーションの開発を目指した。また、学校現場が非常に多忙を極めていることで、先生たちがこどもたちの細かな変化やSOSに気づきにくいという悪循環の状況にある。デバイスやアプリの開発はそのサポートにもつながる」と久保さん。

研究は3年間で、当初は、▽1年目に、支援が必要なこどもが周囲の子や大人に援助要請をしやすくなるIoTデバイスと、それを用いた「いじめの早期発見」のためのソリューションを開発するとともに、平行していじめ・自死予防のための教育プログラムを開発▽2年目に、研究協力校でIoTデバイスの試用と教育プログラムの実証実験を実施し、その結果を受けてデバイスと教育プログラムを改善▽3年目には、2年目までに収集された基礎データをもとに、こどもからの援助要請の「声を受け止めやすくする」ためのAIプログラムを開発――という計画でした。ところが、研究協力自治体との調整の難航や協力校の校舎に実証実験用の器具を設置する工事の遅延、参加する児童や保護者の数が限定的となったことから計画を大幅に見直し、実証実験の日程を3年目に延期して、参加児童数の縮小、教育プログラム開発の見送りという形で研究を進めることになりました。

「きずなウォッチ」と「きずなメーター」

こうした中で開発されたIoTデバイスと、デバイスに連携するアプリケーションは、それぞれ「きずなウォッチ」「きずなメーター」と名付けられ、次のような機能を持っています。

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図1 「きずなウォッチ」と「きずなメーター」
(レアール当日発表資料より)

①きずなウォッチ
ビーコン技術を利用した腕時計型の装置。こどもたちが学校内で身に着けて過ごすことで、位置情報を取得し、児童の位置や内蔵するボタンを押した日時・回数・周囲にいる児童の情報を把握する。実証実験では、ボタンを押す回数によって、1回:無反応(誤タップ防止)、2回:つらい気持ち、3回:いじめを目撃・遭遇した時を知らせる。これに位置情報が加わることで、▽相対的に関係が深いと思われる児童の抽出▽見えない場所でのいじめの早期発見▽長くその場に集団でとどまっている児童の把握――ができ、突発的な出来事への対応、いじめの巧妙化対策、見回りの要所の見当がつくことが期待される。

②きずなメーター
児童は下校前にタブレット(GIGAスクール端末)のアプリケーションに、その日の体調や感情状態、コメントを記入。教職員や支援者は、入力内容の分析データやボタン押下の記録、位置情報などを一覧で確認でき、児童の異変をキャッチする。

実証実験は、2024年12月初めから翌年1月末まで行われました。参加したのは宮城県内の小学校の4年生24人です。これは学年の約3分の1の人数で、児童はいくつかのクラスに在籍しています。こどもたちは登校後にきずなウォッチを身に着けて日中生活し、援助要請や教員に知らせたいことがある際には、きずなボタンを押して発信。下校時には、きずなメーターに当日の体調等を入力しました。これらの情報は、AIを用いて毎日分析され、レポートの形でまとめられます。ボタンが3回押されるなど緊急度の高い発信や気になる書き込みなどに対しては、遠隔でシステム全体をモニタリングしている研究者チームにアラートメールがその都度送信され、それを受けて、研究者が学校に電話連絡して対応をうながす仕組みになっていました。実際に、家族との関係に悩んでいて心配な状況がコメントに書かれていたことから、それをきっかけに教員が個別に詳しく話を聞くことにつながったケースもあったそうです。「教員にとっても学校にいるだけではわかりにくい、家庭の状況を把握する機会になったのではないか」と久保さんは言います。

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図2 分析レポートの例(レアール当日発表資料より)

実証実験の全体を通じて、いつ、どこで、何回ボタンが押されたかなどの分析も行っています。例えば、ボタンが押されたのは、2時間目と3時間目の間の休みや、朝の会の前、昼休みなどに多く、「やはりこどもたちが自由に活動している時間帯ほどトラブルが多く、ボタンを押す機会も増えるのではないかと思う。こうした時間は教員が教室にいない時間帯でもあるので、教員の目の届かないところでトラブルやボタンを押すような事態が起こっているということ。そういう意味で教員以外でも構わないので、そうした時間帯に大人の目を増やすことが必要なのではないか」と久保さんは分析しています。
また、きずなメーターへの入力については、実験が進むにつれて、未入力が増えていきました。久保さんは「こうしたサービスなどではよくあることだが、だんだん慣れてくると、入力が億劫になり、使われなくなってくる。一方でIoT機器(きずなウォッチ)は、身に着けることで忘れにくくなっていたのではないか」と話します。

SOSを出すための多様なチャンネルを

以上のように今回の実証実験では、
● いつでもどこでも発信できるIoT機器により、援助希求行動を獲得することができた
● ボタン押下等の記録とアプリの入力データの突合により、トラブルの早期把握につながった
● 第三者的支援者がモニターとしてかかわることで教員の負担減につながった
というメリットが確認できました。
一方で、このシステムを社会実装していくうえでの課題としては、
● ハードウェア(IoTデバイスと校内設備)導入のコスト
● 管理上の負担(持続的な保守サービスが必要)
● 運営上の負担(校外の支援者が必要)
が挙げられます。
それを踏まえて、久保さんは「こうしたツールを含めて、こどもたちが自分を自分で守っていくために、あるいはほかの誰かが傷ついていることに気づき、それを助けることができるようなツールを多様なチャンネルで用意していくことが必要ではないか。また、教員の負担を減らすためにも学校の外で支援者がかかわって、みんなでこどもたちを支えていく仕組みづくりが必要」と論じました。
すでに学校で実証実験を実施したこともあり、報告後の質疑応答では、参加者からは具体的な内容などについて多くの質問や意見が寄せられています。

Q 現在は家庭訪問もなくなり、家庭の状態確認は学校だけでは難しい。きずなメーターを併用することで家庭内の出来事のキャッチにつながるのでは。
久保 こども本人が家庭のことに関して声を上げられる、コメントできるというのは大きな意味があると思っている。親からの情報だけでなく、こどもから情報が上がり、それがその後の支援につながっていることをこどもが感じられるのは重要。

Q 位置情報がわかるという中でプライバシーの確保ができるのか。
久保 位置情報については、実証実験に参加していただく時点で、インフォームドコンセントのうえ、ご理解いただける方だけに参加していただいた。ただ、学校の児童全体で実施するという場合には、プライバシーについて心配される声は少なくないと思うし、十分な説明と理解の中でないと実現は難しいのではないか。今回、24人という人数になってしまったのは、そういう面の懸念をされたためということは確かに否めない。

Q アラートを受け取った教員の側は、対応について十分理解し、現実的に実行可能だったのか。アラートが鳴っても対応できない状況であれば、助けを求めても応じてもらえないという経験になり、逆効果になる懸念がある。
久保 アラートはリアルタイムで来るが、端末そのものを学校の先生がその場で見ているわけではなく、我々の方で拾ったアラートを電話で学校にお伝えした。どうしても時間差が生じて、リアルタイムの対応は難しいということが今回の実験ではあった。場合によっては先生自身にも何かウォッチ型の端末をつけてもらい、アラートが出たことをリアルタイムで伝えられたりすれば、より即時の対応は可能なのかもしれない。今回はそこまでできなかったが、例えば放課後とかにボタンを押したことについて聞き取りをしてもらってはいたので、時間差はあるが、こどものアクションが先生につながり、声は届いているという対応はしていただいていたとは思う。

Q 参加した生徒から必要なときにSOSを出せるという安心感など前向きな感想などはあったか。
久保 今回、質問紙調査も実施し、24人という人数だったため数値的なデータは出していないが、自由記述を書いてもらったなかで、「いいと思います」というコメントはあった。


■本研究の最終報告書はこちらからご覧ください

*2026年度より本プログラムの名称を「革新的自殺研究推進プログラム」から変更いたしました。