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学校において教職員がゲートキーパーとして機能するためには何が必要か? ~ チーム学校によるマルチレベルな自殺予防体制の支援・組織モデルの構築~
 ──令和7年度自殺対策推進レアール〈研究成果報告〉④

教職員がゲートキーパーとして機能するためには

「自殺対策に関する革新的研究推進プログラム(*)」の各委託研究課題の成果(令和7年度自殺対策推進レアールで報告)を紹介する連載の4回目は、領域1(子ども・若者に対する自殺対策)の「学校において教職員がゲートキーパーとして機能するためには何が必要か?-チーム学校によるマルチレベルな自殺予防体制の支援・組織モデルの構築-」です(R4-1-7)。これまで学校の教員をゲートキーパー(GK)として育成する試みが進められてきましたが、実際に学校現場で十分に機能していないのではないかという指摘があります。そこで本研究では、その原因を明らかにし、解決方法を探るため、3つの調査を実施。学校で教員がGKとして機能するためには、何が必要なのか、研修などで高めた資質能力を発揮できるためにどのような環境づくりが求められるか、模索しました(研究代表者/目久田純一・梅花女子大学心理こども学部准教授)。

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研究代表者の目久田純一・梅花女子大学准教授

報告の冒頭、目久田さんは、研究の問題意識について、「2007年に自殺総合対策大綱が策定されてから、日本でもGKの養成が精力的に進められ、効果も確認されてきた。その中で学校の教員をGKとして育成する取り組みも行われてきた。ただ、海外では、従来のプログラムは、受講者の知識や自己効力感を高めるが、日常生活における実践的な行動を増加させるまでの効果はないのではないかという指摘もされている。日本ではこれを裏付ける調査結果はないが、こどもの自殺者数が過去最多を更新し続けている状況を踏まえると、少なからず当てはまるのではないかと推察される。そこで本研究では、学校において教員が児童生徒のGKとして機能していないのではないかと考え、その原因を特定したうえで、効果的な解決方法を見出すための研究を計画した」と説明しました。

「支援を困難にしている要因」89項目を調査

目久田さんたちは、この研究目的に向けて2022~2024年度の3か年に3つの調査を実施。調査1と調査2で教員がGKとして機能することを阻害する要因の特定を、調査3で教員が機能するための解決策を模索しました。

[調査1]調査2の予備的調査として、公立学校(小中高)の教員(26人)、スクールカウンセラー(SC/13人)、スクールソーシャルワーカー(SSW/13人)を対象に、自死リスクを含む日頃の児童生徒支援で困っていることなどをヒアリング。

[調査2]公立学校(小中高)に勤務する教員356人(管理職、主幹教諭、養護教諭、学年代表、生徒指導担当、進路指導担当、保健主事、人権教育担当など)を対象に質問紙調査を実施。調査1の語りから抽出・作成した「自死防止を含む日頃の児童生徒支援を困難にしている要因」89項目について、困っている度合いを7段階(「とても困っている」~「全く困っていない」)で評価してもらった。

[調査3]調査2で明らかとなった教員の困難感の解決策(ボトルネックへの介入方法)を探るため、こどもの自殺防止に先進的に取り組む3つの組織(さいたま市教育委員会、浜松市保健福祉センター、北九州市自殺予防教育ワーキンググループ)の有識者に面接調査を実施。

この調査から以下のようなことがわかりました。

①調査1を踏まえて調査2で自己評定してもらった「自死防止を含む児童生徒支援の困難感」89項目のデータをクラスター分析したところ、89項目を大きくは8種類、細かくは16種類の困難感に集約することができた(図1)。

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図1 自死防止を含む児童生徒支援における16 種類の困難感 (レアール当日発表資料より)

②これらの発生プロセスを明らかにするため順序関係分析を実施した結果、5つの段階に分かれて起きていることが示唆された(図2)。

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図2 自死防止を含む児童生徒支援における困難感の発生機序 (レアール当日発表資料より)

つまり、CL04の「教員という役割の混乱」からすべてが始まり、その葛藤が大きくなると、その下のCL01 (保護者との関係における困難)、CL05 (児童生徒支援や同僚性の涵養に費やせる時間の欠如)、CL06 (困難課題対応型の支援に必要な資源の欠如)、CL07 (一部の教員のみが児童生徒支援を担っている状況)という4つの困難感を抱くようになり、その葛藤が大きくなると次のCL16の「組織的な支援に必要な体制の不備」に関する葛藤が噴出し、さらにそれが強くなるとその下のCL12(教員間の不充分な情報共有・協働体制)、CL13 (同僚による児童生徒への不適切な支援)、CL14 (教員間の未熟な同僚性)、CL15(外部機関・専門家との協働の不充分さ)が噴出していくというプロセスです。

2つのボトルネック

「この発生プロセスを見ると、『教員という役割の混乱』と『組織的な支援に必要な体制の不備』がボトルネックのようになっている。だからこの2つが教員の困難感を解決していくために介入するポイントになると考えた」と目久田さんは話したうえで、この2つの困難感についてさらに詳しく説明しました。

「教員という役割の混乱」という困難感は、

・専門家に委ねるべき役割を教員が担っている
・どこからどこまでを教員が担わねばならないのかがわからない
・児童生徒の支援において、学校の役割であるか否かの判断が難しい

という下位項目から構成されていて、要するには「これ(自死予防教育)って私たち(教員)の仕事なのかな?」「専門家でもない私たちがやって大丈夫なのか?」という教員の葛藤を表しています。教員は「日常的に安定して対峙する課題について、その対処が教員として必要な役割である」と認識することがわかっています。こどもの自死防止の重要性はどの教員も理解していますが、学校で日常的に対峙する問題でないため、現実問題として自分たちの大事な仕事であると認識することは難しいということが考えられます。教員がGKとしての役割を果たすためには、こうした意識を変えていかなければなりません。

また、「組織的な支援に必要な体制の不備」も

・学校内外の利用可能な人的・物的資源のコーディネートや支援の計画・評価を統括する存在がいない
・特別支援や心のサポートが一部の教員にのみ任されている
・児童生徒の問題について、学校としての対応が後手にまわる傾向にある

という下位項目から構成されていて、要するに「誰がいつ誰に相談(誰と連携)すればいいのかわからない」という状況にあるということです。

「教員という役割の混乱」解消への取り組み

このボトルネックの解消を検討するために実施したのが調査3です。さいたま市教育委員会の山本詩織氏、浜松市保健福祉センターの二宮貴至氏、北九州市自殺予防教育ワーキンググループ(代表:シャルマ直美氏)に面談調査を実施し、課題を解消するために何が必要かを聞きました。あわせて調査1で収集したSC、SSW、教員の語りも踏まえて検討し、以下の取り組みや配慮の必要性を政策提案として取りまとめています。

  • 「教員という役割の混乱」を解消するために

①悉皆の教員研修
②教員による自死予防教育
③自死予防に係る取り組みを学習指導要領に位置づける

  • 「組織的な支援に必要な体制の不備」を解消するために

④外部の専門家・関係機関との協働に対する管理職の姿勢の改善
⑤学校文化を尊重した連携体制

①~③は自死予防を担うことも教員の役割の一つであるという意識を構築するための取り組みで、①の悉皆の教員研修は、SOSを敏感にキャッチするための資質能力を身につけること、キャッチできたSOSを支援につなげられる職場環境をつくることがねらいです。目久田さんは「調査3で協力いただいた組織では、教員として働き始めた後にGK研修が行われているが、教員養成課程の段階から学ぶことができれば、自死予防も教員の仕事であるという意識をつくることができるのではないか」と提案しています。

②について、現在、多くの学校が自死予防教育を外部の専門家に任せる傾向があることに対して、自分が担当することで教員の仕事であることを意識づけようというものです。ただし、教員は心の専門家ではなく、トラウマを抱えている人などもいるため、そういう点には注意が必要です。「自死予防のための取り組みが教員にもたらすリスクは、これまで見落とされてきた課題だと思う。教員であれば誰もが自死予防教育を冷静に児童生徒に提供できるわけではない。北九州市では、SCが当日の授業に参加することはもちろん、事前の授業準備から事後の反省までのすべての過程で教員をサポートしているし、教材も独自に開発して提供している。不安な教員にとってはハードルを下げる効果があるのではないか」と目久田さんは話します。

③はもちろん学習指導要領に明記されれば、教員の役割が明確になります。目久田さんは「現在、自死予防に関する記述が一切ないことも教員の葛藤の一因になっているのではないか。学習指導要領に明記されれば、決定的に影響を及ぼすだろう」と指摘しました。

協働による小さな成功体験を積み重ねる

そして④⑤は、「組織的な支援に必要な体制の不備」の解消に向けた取り組みです。
「児童生徒の自死を防止するための組織体制については、例えば2009年に文科省が作成した冊子『教師が知っておきたい自殺予防』に記載されるなど、これまで具体的な提案がされてきたが、10数年経った現在でもすべての学校で理想的な支援体制が達成されたわけでない」と目久田さんは前置きしたうえで、校内体制は管理職(校長)の姿勢によって大きく左右されることから、 「外部の専門家・関係機関との協働に対する管理職の姿勢を改善し、協働による小さな成功体験を積み重ねていくことが重要」と指摘。あわせてSCやSSWの勤務時間を増やすことも提案しました。

また、各学校には、学校文化(校風)と呼ぶべき文化的複合体があるので、外部機関が学校と協働していくには、学校文化の中に入っていく側に、校風をくみ取って関わり方を調整する配慮が望まれます。例えば浜松市保健福祉センターでは、教育委員会と連携する中で、会議では専門的な知識を駆使して学校側の問題点を指摘するのではなく、先生が問題と考えていることや悩んでいることに一緒に取り組むという姿勢を徹底しているそうです。学校文化という点で忘れてはならないのは、学校では自死を連想させる話題や表現を忌避する傾向があるということです。それを踏まえ、さいたま市では「生きる力の育ちを支える」、北九州市では「生涯にわたるメンタルヘルスの基礎」という枠組みの中に、自死予防教育を位置づけて、学校に教材を提供しています。

最後に目久田さんは提言の活かし方について、「まずは学習指導要領に、しんどい状況を何とか生きる力という視点を盛り込む必要があるのではないか。これまでの学校教育では『生きる力』という言葉を看板に据えてきたが、『自己実現』のように、もっぱら『より良く生きる』という視点でつくられている。それで、これだけこどもたちが自死を選択してしまう社会になっているわけだから、より良く生きるという視点だけではなく、しんどい状況でどうにか生きるという視点も指導要領に組み込むなどして『生きる力』の捉え方を変えていく必要がある。指導要領がそう変わることで、自死予防教育を学校でもっとやりやすくなるし、地域や外部専門機関との連携もしやすくなるはず」と述べました。

■本研究の最終報告書はこちらからご覧ください

*2026年度より本プログラムの名称を「革新的自殺研究推進プログラム」から変更いたしました。