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     ──令和7年度自殺対策推進レアール〈研究成果報告〉③

児童生徒の自殺リスク予測アルゴリズムの解明
 ──令和7年度自殺対策推進レアール〈研究成果報告〉③

自殺リスク評価ツール「RAMPS」の活用

「革新的自殺研究推進プログラム」の各委託研究課題の成果(令和7年度自殺対策推進レアールで報告)を紹介する連載の3回目は、領域1(子ども・若者に対する自殺対策)の「児童生徒の自殺リスク予測アルゴリズムの解明──自殺リスク評価ツール(RAMPS)を活用した全国小中高等学校での大規模実証研究によって」(R4-1-3)です。こどものいのちを守るための、実用的なリスク指標とツールの開発に向け、全国の学校等の協力を得て、大規模な実証研究を進めてきました(研究代表者/北川裕子・東京大学大学院特任助教)。

この研究で活用する自殺リスク評価ツール「RAMPS」は、研究代表者の北川さんが、佐々木司・東京大学教授(当時)と2015年に共同開発し、その後、学校等の協力を得ながら、改良とシステム検証を継続的に実施してきたクラウドシステム。タブレットなどの情報端末での回答を通じて、自殺リスクや心の不調を察知し、予防につなげることを目指しています(RAMPSとは、Risk Assessment of Mental and Physical Status(心身状態の評価)の頭文字をとったもの)。

今回の研究では、①潜在的に自殺リスクの高い若者と接する学校教員のリスク発見促進とケアの意思決定を補助する実用的なツールの開発(RAMPSの改良・開発)、②自殺企図および自殺に関連するリスクを予測するアルゴリズムの構築──の実現に取り組みました。

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研究代表者の北川裕子・東京大学大学院特任助教

「こどもの自殺は統計史上最多という異常な事態となっている。また、その背景には10倍~100倍の自殺企図者がいるということも忘れてはいけない。そして、残念なことに自殺の危機が高まった子、しんどい子ほど自ら助けを求めない。また、大人の側もリスクを見過ごしている可能性がある。この問題を解決し、こどもが語ること、大人が聞くことを支援するために、RAMPSの改良を続けてきた。特に今回の研究では、ツールの開発にとどまらず、実際に現場で使ってもらう先生方の支援・研修に力を入れた」と北川さんは研究について説明しました。

「保健室検診」「集団検診」「個別検診」

実証研究では、以下のようにRAMPSを活用しています。

    1. 保健室に来室した生徒が、タブレット上の質問に回答(1次検査)
    2. 養護教諭等の教員が自動集計された結果を見て、問題があると思われる項目を中心に、画面に表示された質問文に沿ってより詳しく質問。所見等も記載(2次検査)
    3. 2次検査終了後、1次検査とともに画面に一覧表示され、これらをもとに生徒への対応を検討(回答のまとめ)

      ※1 緊急性の高い回答があった場合には、管理職など登録されている教員に「リスクアラート」が送信される
      ※2 対応の評価や改善に役立てるため、検査実施後3か月を目途に、その生徒の状態を評価・記録するフォローアップを行う
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RAMPS の画面と使い方の流れ(レアール当日発表資料より)

これはメインとなる「保健室検診」(保健室来室者が対象)ですが、このほか、一人一台端末を使用して全校生徒を対象に検査を実施する「集団検診」や、不登校の生徒や緊急時などに実施する「個別検診」を行うこともできます(集団検診と個別検診も1次・2次検査で構成)。集団検診は、周囲に気づかれていない、自ら相談してこないハイリスクの生徒に支援を届けるために実施されるもので、健康診断の一つの項目としたり、年度始め、夏休み前、年度末などこどもの自殺のリスクが高まる時期に計画的に行ったりしています。

「機械で完結するものではないというのがRAMPSのポイント。2次検査で向き合うこと、聞くことを大事にしている。3つの場面の中で大切なのは保健室検診。保健室は、おおよそ全ての学校にあって、いつでも誰でも明確な理由がなくても行くことができる。そしてそこでは、養護教諭という専門性を持った学校教職員が対応にあたっている。つまり、こどもにとっては、教室以外のもう一つの場所であり、安心して回答できる場所。だから保健室での実施がまず基盤になる。一方で、自殺未遂などハイリスクの子は、自分から保健室に来ることができない、あるいは誰にも気づかれていない可能性がある。だから、現場からのニーズも踏まえて集団検診を追加実装し、全てのこどもたちに支援の手を届けるようにした。さらに学校にも来られていない子にも支援を届けるため、個別検診も追加実装した」と北川さん。

RAMPSの特徴の一つは、こどもたちが繊細な内容を人の目をあまり気にせず回答できるよう、1画面1問にしていること。そして、回答にかかった時間を記録していることです。同じ「いいえ」や「なかった」という回答でも、逡巡して答えたものと、即答したものとでは意味が違ってきます。こうした“小さなサイン”も見逃してほしくないため、北川さんは「時間も必ず見てくださいと先生方にお願いしている」と言います。
なお、報告後の参加者との質疑で、「あえて高リスクとなることを避けるような回答をする生徒もいるのでは」という質問が寄せられましたが、北川さんは「最初から正直な回答を避けるという子はいると思うし、それを前提に対応している。1回の質問でその子のすべてを知ることができると思うのは間違い。学校が精神不調や自殺のことを聞くというのは、『話してもいいんだよ』というメッセージになるので、1回目にうまく話してくれなくても後から『本当は死にたいと思っているんだ』と言ってくる子もいる。そういう機会をつくれればいいなと思うし、何度か聞く中でリスクを見つけてほしい」と答えました。

約170校でRAMPSを導入

革プロの研究期間の3年間でRAMPSを導入した学校(中学・高校等)は、2022年度の約70校から、23年度約100校、24年度は約170校へと増加しました。6万人以上の生徒が使用しています。
実施した学校からは

    • 「身体不調を主訴に来室したが、RAMPSへの回答により自傷行為を繰り返していること、幻聴等の症状もあることが明らかとなり対応した」
    • 「普段は淡々としており問題のなさそうな生徒だったが、回答をきっかけに自殺企図(OD等)を繰り返していることを打ち明けてもらった。その後、支援に繋がった」
    • 「一斉検診を実施したところ、思いもよらない生徒の自殺リスクが明らかになった。地域の保健師や教育行政と協力して対応にあたった」「危ないところだった、ことなきを得た」
    • 「普段保健室に来ない生徒の抱える問題等を知ることができた」
    • 「『聞かなければ言わない』生徒の声を聴くきっかけとなった」
    • 「自殺リスクアラートが出たら、その時々に対応可能な教員で即時に集まり、生徒の見守りや対応方針を迅速に相談している」
    • 「RAMPSの回答結果を活用し、精神科医等やかかりつけ医師、学校医等に症状等を説明して連携をしている。情報共有がしやすい」

などの報告が寄せられ、RAMPSが生徒の「気づかれていなかった/見過ごされていた自殺リスク」の察知や校内外連携等の早期支援に寄与したことがうかがえます。

また、今回の実証研究では前述のように研修や支援にも力を入れました。全実施校の管理職・養護教諭・担任・スクールカウンセラー等を対象に、精神科医による自殺予防講義、ロールプレイを活用したRAMPSの使い方演習、自治体担当者・教員の座談会などの「新年度研修会」を毎年度開催したほか、毎月1回以上、オンライン研修会を企画し、自殺リスクの評価やスクリーニングのポイントの解説や質疑応答などを実施(教員・自治体担当者約50人が参加)。また、実施校専用のサポートページ(Web)を開設し、資料やFAQなどを掲載しています。

「自殺のリスクを特定するための最も効果的な方法ははっきりと具体的に自殺について聞くこと。ただ、学校や先生は慣れていないかもしれないので、研修会でさまざまな工夫をしながら伝えてきた。また、自殺リスクがわかったときに、どう行動すればいいか。計画を立てていなければスムーズに対応できないので、リスク段階に応じて、どういった行動を、誰がいつ行うのかなどを具体的に記した表やフローを一緒につくったりしてきた。その際、各自治体や学校ごとに使える資源はまちまち。地域ごとに差もあるので、その学校で、その地域で、具体的に使える、連携できる資源はどこかというのを徹底的に調べたり、実際に足を運んでもらったりしながら、実施に備えるように強調した。また、研修会の内容を各学校に持ち帰って資料として使えるように資料提供するなど、現場での実践力を高めるように工夫してきた」と北川さんは話します。

基本法改正の「健康診断」への応用

RAMPSの実施校は2025年度にはさらに増え、北川さんらは現在、それらの実施校から日々収集される大規模かつ多様な情報を解析しながら、冒頭の研究目的(①潜在的に自殺リスクの高い若者と接する学校教員のリスク発見促進とケアの意思決定を補助する実用的なツールの開発(RAMPSの改良・開発)、②自殺企図および自殺に関連するリスクを予測するアルゴリズムの構築)の実現に向けて取り組んでいます。

折しも2025年6月に、こどもの自殺対策の強化を柱とする自殺対策基本法の改正が行われ、学校は「自殺の防止等の観点から、心の健康の保持のための健康診断、保健指導等の措置のほか、……在籍する児童、生徒等の心の健康の保持に係る教育又は啓発を行うよう努めるものとする」と規定されました(第17条3項)。北川さんはこの改正について、「学校や自治体の自殺対策が変わっていく大きな転換点。この健康診断や保健指導には、RAMPSが応用できるはずだし、貢献できると確信している」と力を込めて話しました。

■本研究の最終報告書はこちらからご覧ください