成果の公表(「自殺対策推進レアール」他)
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──令和7年度自殺対策推進レアール〈研究成果報告〉②
SOSの出し方教育における地域連携モデルの開発
──令和7年度自殺対策推進レアール〈研究成果報告〉②
SOS教育の地域連携モデルを
「革新的自殺研究推進プログラム」 (革プロ)の各委託研究課題の成果(令和7年度自殺対策推進レアールで報告)を紹介する連載の2回目は、領域1(子ども・若者に対する自殺対策)の「SOSの出し方教育における地域連携モデルの開発」(R4-1-2)です。研究代表者の江畑慎吾・中京学院大学准教授を中心に、近年、学校現場で行われている「SOSの出し方に関する教育」について、地域と連携したモデルの開発に取り組みました。
「SOSの出し方教育」(以下「SOS教育」)は、児童生徒が強い心理的な負担を感じ、心が苦しいときなどに、対処する力やSOSの出し方、いわゆる援助要請態度(援助希求態度)を学び、育む教育のこと。近年の深刻な子ども・若者の自殺の状況を受けて、学校現場ではSOS教育の実施が推奨されています。このSOS教育について、江畑さんは「SOS教育は欧米で開発された自殺予防プログラムと異なり、エビデンスの蓄積や調査が不十分で、自殺という言葉を使いづらいことなどもあって、自殺予防教育としての位置づけを疑う意見もある。だが、援助要請の促進という点では自殺予防の観点から重要なことは確か。一方で、自殺の原因はさまざまな要素が複雑に絡み合っている。それに対応していくためには、地域のさまざまな機関と連携して包括的な自殺予防教育を進めていくことが大事になる。この研究ではそうした地域連携のモデルを確立することが大きな目的」とレアール報告の冒頭に説明しました。
具体的には、SOS教育の実態等を把握する調査を実施したうえ、その結果を踏まえて、学校と地域(自治体)がともに行うSOS教育のプログラムを作成し、その効果検証を行っています。
県内の全小中高校と自治体に向けたアンケートを実施
まず、2022年度は、研究1として、東海地方のA県にあるすべての小中高校及び県内全市町村を対象にSOS教育に関するアンケート調査を実施。県教育委員会と県精神保健福祉センターの協力のもと、調査依頼と回答フォームを各校及び各市町村に一斉配信し、回答を求めました(質問事項は、学校:実施対象と回数、実施者及び実施方法、実施内容、実施する上での困り感、自治体の専門職(保健師・社会福祉士等)が参加したことがあるかなど。自治体:学校で実施したことがあるか、あった場合はその経緯、ない場合はその理由や要因、学校で実施する際の課題や困り感など)。その結果、SOS教育については多くの学校で全児童生徒を対象に行われているが、対象や実施回数、実施内容などは学校によってばらつきが大きいことや、自治体の専門職と連携したSOS教育を行った学校は少なかったことなどがわかりました。そして、実施率が低かった要因等の分析から、地域連携モデルを構築するうえで必要なのは、
①自治体の専門職がSOS教育に参画する意義を明確にする
②自治体と学校、それぞれの役割を整理する
③実施のコーディネーターは市町村教育委員会が担当する
ことが示唆されました(*1)。
江畑さんは、「学校にはスクールカウンセラーなどがいるので、外部や専門職の方たちと連携するという意識が学校では低い。これは自治体も同じで、学校にはあまり入り込む余地がないという声が多かった。そういう意味でSOS教育を地域で連携して進めるには、ノウハウやプログラムも大事だが、意識や認識を改めてもらう必要があるのではないか」と指摘しています。
この調査・分析を踏まえ、SOS教育の地域連携モデルとなるプログラムを作成。プログラムは1回50分の2回構成で、1回目の授業は、SOSを出す側に焦点を当て、「ストレスに関する学習」「相談への不安や抵抗感」「様々な相談先の紹介」などについて地域の専門職職員が担当。2回目は友人へのサポート方法を学ぶことを目的に、「相談の有益性」「友人への声掛けの方法」「話を聴くポイント」などについて担任教師が担当しました。また、研究チームでは、生徒が理解しやすいように、友人からの相談や声掛けを題材にしたアニメーション動画(*2)を作成し、あわせて活用したのも特徴です。
2段階でプログラムの効果を検証
2023・2024年度の研究2では、作成したプログラムと動画を実際に授業で使ってもらい、効果検証を行いました。まず、A県の2つの中学校の120人(それぞれ2学年)を対象にプログラムを実施。その際、先にプログラムを受講する先行群、先行群への介入後、同一のプログラムを受講する待機群に分け、先行群への介入前を時点1、先行群に対しプログラムを行った10日後を時点2、待機群への介入後10日後を時点3として、3回それぞれ両群に質問紙に記入してもらう方法としました。質問紙に回答してもらった効果指標は、悩みの程度、相談回数、援助要請意図、援助要請認知尺度、友人援助自己効力感、子ども用抑うつ自己評価、相談に関する知識を採用しています。その結果、もともと悩みを多く抱えている生徒に対してプログラムが一定の効果を与えたことが示唆されましたが、学級全体に対しての明確な効果は確認されませんでした(*3)。
その要因として、プログラムの一部がわかりづらかったこと、学級集団の特性や参加生徒が少ないことにより一部の尺度で天井効果が見られたことなどが推察されたことから、課題を整理したうえ、プログラムをブラッシュアップし、上記とは異なる2つの中学校(2学年)に在籍する433人を対象に改めて効果検証を実施しました。プログラムの主な修正点は、1回目の授業に「相談の有益性について」や「思春期の心に関する内容」を、2回目にロールプレイを取り入れたことです。
この調査結果について群(先行群・待機群)を独立変数、時点2の各尺度得点を従属変数とする共分散分析を実施したところ、相談に関する知識(「地域にも相談できる場所があることを知っている」「相談することのメリットを知っている」など)で、先行群と待機群で有意差がありました。また、相談に関する知識の獲得が、各尺度にどのような影響を及ぼすかを構造方程式モデリングで検討。その結果、群は時点2における相談に関する知識を予測するとともに、相談に関する知識は、抑うつ症状を抑制し、友人援助自己効力感を促進することがわかりました。
相談に関する知識の習得に効果
効果検証により、本プログラムは相談に関する知識の習得に効果があり、それらの知識を身につけることで、抑うつ症状の緩和と友人援助自己効力感の促進に寄与することが示唆されました。この点について江畑さんは、「強いエビデンスが示されたわけではなく、一定の有効性や可能性が示唆されたということ。援助要請を促進することがSOS教育の大きな目的の一つなので、そのあたりのエビデンスをもう少し示す必要がある。今後の課題として研究を続けていきたい」と述べました。そのうえで、「プログラムに参加した生徒からは『自分たちが住んでいる地域にも相談できる場所があると知って、少し安心した。学校だと相談しにくいこともあるから、何かの時は、電話してみようと思った』などの声が寄せられている」と紹介。一方で、調査1の結果にもあるように、学校側は、スクールカウンセラーというすでに外部の人が入っているので、地域の専門職との連携は不要と考えがちだが、こどもにとっては、スクールカウンセラーは学校関係者であり、援助要請はされにくいという面があるので、学校でもない、家でもない、第三の相談先、受け皿をつくっていくために、地域連携モデルには意義があると話しました。
また、質疑の際に自治体の担当者から「要請があった学校にのみ保健師が訪問し、それ以外は自校で行っている。自治体が入っていく必要があるか」という問いかけがありましたが、江畑さんは、「学校の中でSOSが出せない子や不安が高い子は、どういう場所にどういう人がいるということが見えると、困ったときに安心して頼れる選択肢が増えると思う。自治体レベルでどうやって地域の子どもたちを守っていくか、要請のあるなしにかかわらず、仕組みとして自治体の専門職と学校(教育委員会も含む)がタッグを組み年度計画の中に施策を入れるシステムをつくってもらうと非常にいいのかなと思う」と答えています。
江畑さんは、この研究を通じたまとめの考察として、
①学校と家庭以外の相談先を提示する意味でも地域の専門職がSOS教育に参画する意義は大きい
②援助要請を促進させるためには、受け止め方に関する学習は重要な位置づけを担う
③地域連携モデルは、SOS教育を推進していく上で有効なモデルとなる可能性が示唆された
と説明。一方、今後の課題と展望として、
①よりエビデンスレベルの高い効果検証が必要
②効果指標を検討する必要がある⇒行動と自殺に関する指標をどう扱うか
③教育行政や自治体と連携し、実施を推奨する
④自治体用プログラムの実施方法を検討・拡充
を挙げています。そして最後に、「今、不登校のこどもたちに焦点を当てた自殺予防教育プログラムにも着手している。いろいろな方にご協力いただきながら、実践的な研究につなげていきたい」と力を込めて話しました。
研究成果などを書籍化

なお、江畑さんは、この革プロでの研究を通して得られた知見やこれまでの実践を『子どものSOSに対するサポートガイドブック』 (共著/ぎょうせい刊) (*4)という書籍にまとめています。本書では、子どもの心や命を守るために、大人に求められる関わりや支援方法などを解説。その中で、学校現場で効果的なSOS教育を展開していくための方法や具体的なプログラム案も提示しました。さらに、SOS教育の地域連携モデルを推奨する形で、岐阜県での実施例を紹介しています。
江畑さんは「自殺予防という観点からも、日常生活におけるケアが非常に重要な意味を持つ。子どもたちの援助要請を促進する介入は、大切である一方、SOS教育はあくまで“きっかけ”の一つであり、SOS教育での学びなどを日々の生活とつなげていく必要がある。子どもの行動をSOSとしてキャッチするため、そして、苦しい時に一人で抱え込まず、助けてと言える関係性を構築していくためにも多くの方に本書を活用していただきたい」と話しています。
■本研究の最終報告書はこちらからご覧ください
*1 調査結果の詳細は、江畑慎吾・富田宏・松本拓真「SOSの出し方に関する教育の実態調査と今後の課題」『自殺総合政策研究』第4巻第1号を参照。 https://jscp.or.jp/assets/img/Suicide%20Policy%20Research%20Journal_JP_4-1_All.pdf
*2 https://youtu.be/zMfeaAZucNU
*3 詳細については、江畑慎吾・大谷和大「SOSの出し方教育における地域連携モデルが中学生に与える効果」『中京学院大学 紀要』第4巻第1号を参照。
*4 https://shop.gyosei.jp/products/detail/12455






