啓発・提言等

自殺報道ガイドラインに即した報道の呼びかけ

2021年3月30日

不適切な自殺報道は「子どもや若者の自殺を誘発する可能性」がある

2020年は有名人の自殺が相次いだことから、かつてない規模と頻度で「自殺報道」がなされました。
しかし、自殺に関する報道は「子どもや若者の自殺を誘発する可能性」があるとされており、WHO(世界保健機関)が「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識2017 年版 (いわゆる『自殺報道ガイドライン』以下、ガイドライン)」を定めて、自殺対策に資する自殺報道を呼びかけています。
なぜなら、自殺報道においては 「できるだけ細かく正確に伝えること」が、結果として自殺を誘発することになりかねない危険を孕んでいるからです。JSCPは、2020年4月に始動して以降、メディア関係者(新聞社、テレビ局各社及び各番組、WEBメディア、ソーシャルメディア運営事業者各社等、200か所以上)にガイドラインを遵守するよう計9回の呼びかけを行ってきました(2021年3月30日時点)。
とりわけ最近は、 新型コロナウイルス感染症の影響で、心理的に不安定な状況にある人が増えています。不適切な自殺報道は「自殺すれば楽になれる」「この苦しみから逃れるには自殺するしかない」 といったイメージを与えかねず、危険です。

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メディア関係者に送付した呼びかけ文書(基本的に自殺報道の速報がなされた数時間後には配信を行った)

自殺報道が2020年の自殺者数の増加に影響を与えた可能性

2020年は、11年ぶりに自殺者数が前年比で増加しました。ただこれを日次データで分析すると、7月19日と9月28日から10日間程度、自殺者数が急増していることが明らかとなっています。いずれも、有名人の自殺と自殺報道の影響が深く関わっているとみられ、自殺報道は極めて慎重に行われる必要があります。
それは、新型コロナの影響で様々な悩みや生活上の問題を抱え、あるいは元々自殺念慮を抱えていて、表面張力のようにして「どうにか生きることに留まっている人たち」に対して、有名人の自殺および自殺報道がそれを決壊させる最後の一滴になってしまったのではないか、相次ぐ自殺報道が多くの人を自殺の方向に後押ししてしまったのではないか、と推測されます。

自殺関連報道で「やるべきでないこと」、「やるべきこと」

ガイドラインでは、以下が明示されています。

やるべきでないこと

  • 自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
  • 自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
  • 自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
  • 自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
  • センセーショナルな見出しを使わないこと
  • 写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

やるべきこと

  • どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること
  • 自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと
  • 日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること
  • 有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
  • 自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
  • メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること

ガイドラインを遵守した報道が増加

この1年で多くのメディアがガイドラインを遵守するようになってきた印象があります。また、メディア各社の自殺報道が、ガイドラインを遵守していたかをチェック・公表し、「今後のあるべき自殺報道」について問題提起をする記事も散見されるようになりました。加えてSNS上でも「ガイドラインについて遵守すべき」との投稿がにわかに増えてきており、メディアだけでなく、社会においてもガイドラインの認知度、問題意識が徐々に高まっているように感じています。

現状の課題

SNSやポータルサイト等における拡散防止策

メディアの報道が改善されたとしても、個々人が利用するSNSからも拡散されるリスクがあります。また一つのニュースであっても、ポータルサイトに掲載されると広く拡散される恐れがあります。そこで今後は、SNSやポータルサイト等を運営するプラットフォーム事業者においても、ガイドラインを踏まえた掲載判断を検討してもらう必要があると考えられます。

一般の方の自殺報道でのガイドラインの徹底

有名人の自殺報道の内容に関しては、ガイドラインに即した形で改善が見られましたが、一般の方の自殺報道においては、「自殺(心中)」の語を見出しに使ったり、自殺に至った詳しい「手段」や「場所」の情報を伝えたりしている報道がいまだ多く見られます。上記、ガイドラインの「やるべきでないこと」の中に「自殺に用いた手段について明確に表現しないこと」、「自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと」とあるように、その自殺手段や場所を伝えることで他の人が同じ方法を用いるきっかけとなることもあります。

コロナ禍で社会的な自殺リスクの高まりが懸念される中、「自殺報道」が苦しんでいる人を追い込むのではなく、相談や支援につながるきっかけになるよう、当センターでは引き続き、メディアだけでなく社会全体に「自殺報道ガイドライン」の意図とその重要性を啓発していきます。