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    「借金は解決できても、失ったいのちは取り戻せない」
       ── チームでいのちを支える 自殺対策の「多制度連携」

【職員インタビュー】地域連携推進部 地域支援室長:生水裕美
「借金は解決できても、失ったいのちは取り戻せない」
   ── チームでいのちを支える 自殺対策の「多制度連携」

photo-ms.shozu-25122304.jpg〈プロフィール〉
生水 裕美(しょうず・ひろみ)
京都市出身。1999年に野洲市役所(滋賀県)に入職し2022年定年退職。以降はJSCPに入職し地域連携推進部地域支援室長を務める。野洲市役所在職中は主に消費者行政、生活困窮者自立支援制度を担当し、この2つの分野を包括的に盛り込んだ「野洲市くらし支えあい条例」の制定に携わる。生活困窮者自立支援制度の創成時から関わる他、厚生労働省の「自殺総合対策の推進に関する有識者会議」委員、消費者庁の「消費者教育推進会議」委員等を務めた。現在は、厚労省の「社会保障審議会」(生活困窮者自立支援及び生活保護部会)委員、一般社団法人生活困窮者自立支援全国ネットワーク理事、日本自殺総合対策学会理事、大阪市総合的な相談支援体制の充実事業スーパーバイザー、全国クレサラ・生活再建問題対策協議会副代表幹事、一般社団法人つながる社会保障サポートセンター監事。主な著書に『生活再建型滞納整理の実務』(ぎょうせい、2013年)。

──主な業務や役割を教えてください。
生水)JSCPの地域支援室長として近畿・中国ブロックを担当しています。自治体職員の方々からの相談を直接お受けする「いのち支える自治体コンシェルジュ」の運営や、自治体の自殺対策の参考になる取り組みを紹介するための事例収集などを行っています。

また特に力を入れているのが、これまでの経験を活かし「自殺対策と生活困窮者自立支援制度等との多制度連携」を進めることです。そのために、各種研修を通して連携に役立つ情報提供を行っています。

――生水さんの業務の核となる「多制度連携」について、もう少し詳しく教えてください。 
生水)「多制度連携」の本質は、「人と人がつながる」ことです。
自殺のリスクを抱える方の背景には、借金や生活苦など様々な問題が潜んでいます。そのため、自殺対策担当部署だけで抱え込むのではなく、他制度と連携することが不可欠です。

ただ、自殺対策の担当部署は、生活支援に役立つ「アイテム」(住宅手当等) を持っていません。だからこそ、自殺対策担当部署の役割は、相談者が抱える根本的な問題――借金、住まい、家族関係など――を解決できる制度や支援策を持つ他の部署に的確につなぎ、そこが持つ様々な行政サービスを最大限に活用してもらうことにあるのです。

例えば、「死にたい」と思っている方の背景に多重債務や住まいの困りごとがあれば、生活困窮者自立支援の担当部署につなぎます。このように、各部署が持つ専門性や制度などできることを持ち寄り、チームとなって一人の人を支えていく。これが多制度連携の具体的な姿です。

2025年9月に自治体職員向けに企画・実施した「自殺対策と他制度等との連携構築に関する研修会」では、厚労省だけでなく消費者庁や、現場の実践者である足立区(東京都)にも登壇いただき、約700人が参加しました。アンケートでは「分野の垣根を越えてお互いの業務を理解し合うことから連携が始まるのだと気づいた」といった声を多くいただき、多角的な連携の在り方を伝える手応えを感じています。

──JSCPで働く前は、どんなことをしていましたか?
生水)私の原点は、野洲市役所での経験です。 特に2001年頃からヤミ金融の被害相談が急増し、相談に来られる方の追い詰められた姿を目の当たりにして、「このままでは自殺してしまうのではないか」と怖くてたまりませんでした。当時は一人体制だったので相談する相手もおらず、「これはいかん」と思い、県内の弁護士や司法書士、消費生活相談員の有志と定期的に勉強会を行うなどして、専門家とのネットワークを構築していきました。

2006年の改正貸金業法成立時には、被害者の会や法律家、金融庁の皆さんから大切なことを多く学びました。この法改正を機に野洲市で始めたのが「多重債務者包括的支援プロジェクト」です。これは、借金で苦しんでいる市民を発見し相談につなげるために、 税金や公営住宅の家賃、水道料などを滞納している市民に対し、各担当課が「もしかして借金はないですか」と声をかけ、借金がある場合は市民生活相談課(消費生活センター)につなぐという仕組みです。この取り組みによって、庁内連携の基盤ができあがりました。

私が自治体職員として大切にしてきた姿勢は、元野洲市長の故・山仲善彰さんから教わったものです。山仲さんは「滞納は市民のSOS。それを捉えて生活再建を支援するのは市の重要な役割だ」とし、野洲市債権管理条例を「ようこそ滞納いただきました条例」と名付けました。そしていつも、「一人をも救えない制度は制度ではない。一人をしっかり支援し、うまくいけばそれを普遍化すればよい。だから一人の支援が社会のためになる 」と話されていました。この言葉が私の支援の原点であり、後に制定に携わった「野洲市くらし支えあい条例」にもその思いが込められています。

退職前の3年間はコロナ禍の真っただ中でした。仕事がなくなり生活が苦しいという相談が急増する中、生活に困窮する方々を支える特例貸付が始まりました。「誰も死なないでほしい」という一心で、チラシを全戸回覧するなど無我夢中で支援情報を伝え続けました。しかしその後、滋賀県社会福祉協議会の調査で、貸付金の死亡による返済免除申請の中に自殺と思われるケースが複数あることが判明します。当時委員を務めていた厚労省の社会保障審議会でこのことを伝えると、2023年3月に厚労省から、「生活困窮者自立支援制度等と自殺対策との連携について」という通知が発出されました。こうした現場の実態を国に伝え、制度の改善につなげていくことも、現場を預かる者の大切な役目だと思っています。

──相談支援などの現場から、自殺対策に関わるようになったきっかけは?
生水)多重債務相談の現場では、多くの相談者が「死にたい」と口にされますし、借金が解決した後に「実は死のうと思っていた」と打ち明けられることもあります。多重債務問題は、まさに「生き死に」の問題なのです。

ある時、多額の借金を抱える男性を弁護士につなぎ、解決の道筋がついたと安心していた矢先に、その弁護士から「遺書のようなFAXが届いた」と連絡が入りました。職員とアパートに駆け付け、なんとか一命をとりとphoto-ms.shozu-25122311.jpgめましたが、搬送先の病院の待合室で彼は「自己破産したらお世話になった人に顔向けできない。自分には何の価値もない」と、辛い胸の内をポツリポツリと語ってくれました。

その時、私はハッとしました。「借金を解決すればよい」だけではないのだと。借金自体は、本人が解決したいと思えば必ず解決できます。しかし、一度失ったいのちは取り戻せません。法律的に借金を整理するだけでなく、その人の抱えるしんどさや思いに寄り添い、その後の生活再建まで支えていくことが最も重要な支援なのだと、彼から教わりました。

野洲市では、「多重債務者包括的支援プロジェクト」 を発展させ、全庁的な連携推進を目的とした「市民生活総合支援推進委員会」を設置し、その中に「自殺防止対策連絡部会」を設けました。「いのち支える野洲市自殺対策計画」 の策定にあたっても、自殺対策を所管する健康推進課が主担当、生活支援を所管する市民生活相談課が副担当となって共に事務局を担い、協力しあう体制を作りました。このように、生活支援の現場と自殺対策の現場が密に連携する仕組みをつくることが、いのちを守るためには不可欠だと考えています。

──最後に、「多制度連携」がもたらす効果や、今後取り組みたいことについて教えてください。
生水)2025年6月に自殺対策基本法が改正され、新たに、関係機関がこどもの自殺防止のために情報共有ができる「協議会の設置」が規定されました。こどもの自殺リスクが高まる背景には、こども自身の問題だけでなく、世帯全体が複合的な課題に直面しているケースも少なくありません。そうしたケースでは、こどもだけでなく、保護者を含めた「世帯まるごと」の包括的な支援が必要です。

そこで鍵になるのが、既存の会議体との連携です。生活困窮者自立支援法や社会福祉法に基づく「支援会議」(関係者が集まって支援策を話し合う場 )は、守秘義務が課せられた会議体であり、一定の条件を満たせば本人の同意がなくても個人情報の共有が可能です。これらを、こどもの協議会と連携させて活用することで、制度の枠を越えた支援が可能になります。

今後は、自治体が協議会を効果的に運営するのに役立つ事例収集や研修会を行うなど、自殺対策と生活困窮者自立支援などの担当職員が同じ意識を持てるよう、理解を広げていきたいと考えています。多制度との連携が深まることで、自殺対策が庁内で孤立することなく、一緒に取り組む仲間を増やし広がっていくことを期待しています。困った時に「助けて」と言える、そしてその声がしっかりと受け止められる。それが当たり前の社会の実現に向けて、これからも制度と制度、人と人をつなぐ役割を果たしていきたいと思います。


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