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    「『できない理由』にこそ、支援のヒントがある」 伴走型サポートで築く信頼関係

【職員インタビュー】地域連携推進部 地域支援室長:下野精太
「『できない理由』にこそ、支援のヒントがある」 伴走型サポートで築く信頼関係

photo-shomino_15.jpg〈プロフィール〉
下野 精太(しもの・しょうた)
兵庫県出身。広告制作会社や広報・PR会社等を経て、2019年にNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」に入職。同年、こども・若者の自殺対策のモデル事業として全国に先駆けて設置された、長野県「子どもの自殺危機対応チーム」の運用に携わる。2020年4月よりJSCPに在職し、広報室長を経て、2023年4月より地域支援室長として地域自殺対策に関する自治体等へのサポートに従事。また、都道府県や政令市が設置対象となっている「こども・若者の自殺危機対応チーム」を主に担当している。






──主に担当する「こども・若者の自殺危機対応チーム」事業について、下野さんの役割を教えてください。
下野) 地域連携推進部の一員として、主に地方自治体における「こども・若者の自殺危機対応チーム(以下、危機対応チーム)」の立ち上げ・運用に関わる支援を担当しています。危機対応チームは、学校と地域が連携してこども・若者の自殺を防ぐための取り組みで、児童精神科医、心理士、保健師、精神保健福祉士等、多職種による専門家チームを設置・運用するものです。長野県での取り組みを踏まえ、2023年度からは厚生労働省所管の交付金事業として位置づけられており、JSCPは自治体が危機対応チームを円滑に設置・運用できるよう支援しています。

こどもが自殺の危機にある場合、最初にサインに気づくことが多いのは学校です。しかし、学校だけで対応することが難しいケースも多く、教員が「どう声をかければよいのか」「どこまで対応すべきか」と悩む場面は少なくありません。特に、自殺の危機の背景に家庭の問題など複数の要因が絡む場合、学校単独での対応には限界があります。

危機対応チームは、学校を支える“伴走者”です。チームの専門家が学校に対応方針等について助言し、それに基づいて、保健師や児童相談所、医療機関など地域の関係機関と連携した支援体制が構築されるまでをサポートする役割を担います。

学校が「孤軍奮闘」する状態から、地域全体でこどもを支える体制へ。その仕組みづくり(危機対応チームの立ち上げ) を後押しするのが私たちの仕事です。

──具体的な業務内容は?
下野)危機対応チーム事業を実施する自治体の担当者に対し、立ち上げ前の検討・準備段階から立ち上げ後の運用までトータルで伴走支援を行っています。具体的には、危機対応チームの立ち上げ・運用に関するマニュアルの作成や各種研修の実施、チームの設置を検討する自治体の疑問に答えるための質疑応答会の開催、自治体同士が意見交換し横の繋がりをつくれるような場の設定などです。地域ごとに異なるニーズに対応するため、自治体の個別サポートも日常的に行っています。

──JSCPで働く前は、どんなことをしていましたか?
下野) 広告や広報・PRの仕事をしていました。クライアントの製品やサービスを世の中に広めるため、情報発信の戦略を立てる仕事です。大きなプロジェクトを達成したときのやりがいはあったものの、打ち上げ花火的な側面もあり、時には自分が心から共感できない商品を広めなければならないこともありました。多忙な日々の中で次第に、「これは何のためにやっているのだろう」「本当に人に喜んでもらうには、一過性のコミュニケーションではなく、もっと腰を据えた関わりをしていくべきではないか」という迷いを感じるようになっていきました。

──自殺対策に関わるきっかけは?
photo-shomino_18.jpg下野) 広報・PRの仕事に疑問を感じていたとき、随筆家の若松英輔さんのエッセイに出会い、「人生は有限だ」ということを強く意識させられました。ちょうどその頃、若松さんがSNSで、NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」の職員募集の投稿をリポストしていたのです。それまで自殺対策に全く接点はありませんでしたが、導かれるようにボランティアに応募しました。

参加して目の当たりにしたのは、「誰も自殺に追い込まれることのない社会を創る」という使命感を持って働く人々の姿でした。私自身、ビジネスの世界でそれなりに熱心に働いてきたつもりでしたが、その「使命感の切実さ」に大きな衝撃を受けました。単に必要とされていることを実行するのがゴールではなく、それを結果(仕組みの改善)に繋げていくという強い意志を持って働いていたのです。その姿に感化され、仕事として自殺対策に取り組みたいと思うようになりました。

──自殺対策への思いや、今後取り組みたいことは?
 下野)自殺対策は、特定の専門家だけが担うものではありません。社会全体で取り組むべきテーマです。 そしてその本質は、ひとつの機関が抱え込むのではなく、役割を分担しながら連携して支える点にあります。専門性を持ち寄ることで、こどもへの支援がより良いものになるだけでなく、支援者一人ひとりの負担も軽減されます。
 
危機対応チーム事業に関わる中で、私はまず「『できない理由』を安心して言える関係づくり」を大切にしています。自治体や教育委員会の担当者も、多忙な中、日々それぞれの持ち場で力を尽くされています。そうした中で事業がうまく進められていない場合、そこには何か要因や背景があるはずです。自治体の担当者が抱えるリアルな悩みや地域の構造的な課題を丁寧に聞くことで、初めてこちらが取り組むべき支援のニーズが見えてくると考えています。

チームの運用が軌道に乗ると、学校の姿勢が大きく変わることがあります。最初はチームを含め外部の支援機関との連携に消極的だった学校が、役割分担した経験を重ねる中で、非常に積極的になっていくのです。その様子は、それまで疲弊していた学校が、こどもに向き合う「気概」を取り戻していったように見えました。その気概に私も力をもらいます。こうした成功事例を広く共有し、支援者同士が安心して繋がれるネットワークを全国に広げていきたいです。 


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