研修・会議

【開催レポート】令和6年度 厚生労働省との合同研修会  自殺対策と生活困窮者自立支援制度等との連携構築について ~生きることの包括的支援を考える~

2024年8月 2日

JSCPと厚生労働省は、2024年6月27日(木)、自殺対策と生活困窮者自立支援制度等との連携構築に関する自治体職員等向けの研修会を、オンラインで開催しました。目的は、「生きることの包括的支援」の実現を目指し、死にたい気持ちを受け止めながら、その背景にある生活困窮などの課題にも対応するための関係部署間の連携強化を図ることです。当日は、全国の市区町村や保健所等の自殺対策担当者や、生活困窮者自立支援制度等(重層的支援体制整備事業含む)に関わる職員・関係機関を中心に、約900名が参加しました。

背景として、自殺対策と生活困窮者自立支援制度とは密接な関係にあり、借金や多重債務などの問題を抱えた人が、希死念慮(死にたい気持ち)を抱えていることもめずらしくないという実情があります。「死にたい」「生きるのがつらい」という気持ちの背景には様々な要因が潜んでいますが、その気持ちに寄り添えたとしても、背景にある経済問題等の解決まで、自殺対策担当がすべて単独で行うことは容易ではありません。一方、死にたい気持ちを抱えた方が借金や生活困窮の問題を抱えているからといって、利用できる制度の紹介だけを行っても、「気持ちを受け止めてもらえなかった」と、孤立感を深めることになりかねません。そのため、関係部署間の連携が「生きることの包括的支援」の実践においてカギを握っているのです。

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研修に臨む、(写真左より)大阪市西淀川区役所保健福祉課(総合福祉)担当係長の大里祥氏、厚生労働省大臣官房参事官(自殺対策担当)の前田奈歩子氏、
厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長(当時)の米田隆史氏、JSCP代表理事の清水康之


研修会の冒頭で、厚生労働省社会・援護局長(当時)の朝川知昭氏が、「自殺の背景ともなる生活困窮に対してしっかりと対応していくためには、自殺対策と生活困窮者自立支援制度が一体的に取り組み、効果的かつ効率的に施策を展開していくことが重要。事例紹介、報告、ディスカッションを通して、現場における両制度の連携構築につなげていただくようお願いしたい」とあいさつしました。

研修会前半

各登壇者からの取組事例の報告がありました。
まず、JSCP地域連携推進部地域支援室長の生水裕美より、JSCPが令和5年度に実施した「自治体における相談体制構築事例に関する調査報告書」を踏まえ、愛知県武豊町と神奈川県座間市での、自殺対策担当者と生活困窮者自立支援担当者の連携事例について報告しました。

次に、大阪市西淀川区役所保健福祉課(総合福祉)担当係長の大里祥氏より、生活困窮者自立支援制度における「支援会議」を活用した、多機関での連携にあたってのポイントについて、ご報告いただきました。

続いて厚生労働省から、取り組みを支える制度に関する説明がありました。大臣官房参事官(自殺対策担当)の前田奈歩子氏は、両制度間における連携の重要性やeラーニングによるゲートキーパー研修の活用について、社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長(当時)の米田隆史氏からは、生活困窮者自立支援制度と自殺対策とが連携することの必要性や意義について、それぞれ説明がありました。

研修会後半

前半で登壇した大里氏、前田氏、米田氏に、JSCP代表理事の清水康之が加わり、JSCP地域連携推進部長の小牧奈津子の進行のもと、事前アンケートを踏まえ、「他部署や他機関との連携」と「相談者の対応」をテーマにディスカッションを行い、それぞれの視点から活発な意見が交換されました。

最後に参加者に向けたメッセージとして、清水は「『死にたい』と言われたら、それは支援の入り口が開かれたということ。気持ちを受け止め寄り添いつつ、支援につなげる道筋を言語化していくことが大事。わが自治体はどこと連携すれば良いのか、事例検討等で事前にシミュレーションすることが必要だ」と述べました。

大里氏は「『死にたい』と言われたら支援者はしんどくなる。だからこそ、チームでの対応が重要。制度を上手く使いながら、現場から改善点を国に伝えていく意識が大切だ」と話しました。

米田氏からは「つながり続けることだけでも支援であることを理解してほしい。困窮制度が目指す『包括的な支援』には、大きく解決型と伴走型の2つあるが、両輪で進めていっていただきたい」、前田氏からは「厚労省とJSCPと自治体は一つのチームであり、一緒に『生きるための包括的支援』を行うことを通して、誰も自殺に追い込まれない社会を作っていきたい」との言葉がありました。

研修会終了後のアンケート

アンケートには474件の回答がありました。研修会が参考になったかどうかの質問に対しては、回答者のうち96%が「とても参考になった」または「参考になった」と答えました。

研修に参加しての感想としては、主に以下のような声が寄せられました。

  • 漠然と抱いていた「連携」のイメージが具体的になった。ゲートキーパー研修は、相談員とケースワーカーで受講したいと思う。
  • 生活困窮と自殺の関連について改めてしっかりと知ることができた。また、自殺対策担当なので、生活困窮に関する制度や支援会議等について理解できて良かった。
  • 他機関との連携が、対象者本人だけでなく、関わる者にとっても必要なことだと認識できた。
  • 管内の自殺対策に関する研修会の企画をしている中で、方向性に迷いがあったが、今回の講話を受けて、今自分たちの管内に必要な内容を再確認できた。
  • 「『死にたい」と相談する方は、同じくらい『生きたい」という思いがある』という言葉を聞いて、相談を受けた時にしっかりと受け止め、一人では抱え込まず連携して、その人にとってどう支援することが大事かを考えていきたいと、改めて感じた。


JSCPでは、今後も地域の様々な関係者が連携して、「生きることの包括的支援」として自殺対策を推進できるよう、各種研修の開催等を通して支援していきます。