研修・会議
【開催レポート】改正自殺対策基本法に基づく協議会設置に向けた自治体担当者会議
3省庁と連携し、協議会設置に向けた情報を共有
JSCPは2025年12月23日、「改正自殺対策基本法に基づく協議会設置に向けた自治体担当者会議」をオンラインで開催しました。2025年6月に公布され、2026年4月1日に全面施行される改正自殺対策基本法(2025年12月1日に一部施行)で、こどもの自殺対策を地域で総合的・効果的に進めるために規定された「協議会」について、その周知とともに設置に向けた体制整備を支援することがねらいです。当日は、都道府県・政令指定都市のほか、市区町村や保健所で自殺対策を担当する職員や、教育委員会、こども・家庭福祉部局の職員など1700人を超える関係者が参加。こども家庭庁、厚生労働省、文部科学省と連携し、協議会設置の準備事項などを情報共有しました。
会議ではまず、JSCP代表理事の清水康之が、今回の基本法改正の趣旨などを説明。「こどもに係る自殺対策は、社会全体で取り組む」という今回の改正で基本法に盛り込まれた文言(2条7項)をタイトルに掲げ、社会全体でこどもの自殺対策に取り組んでいくための全体的な枠組みについて述べました。
その中で清水は、「年間500人を超えるこどもが自殺で亡くなっているということは、この1週間に10人が亡くなっているということ。それだけでも非常事態なのに、それが年間通じて起き、この数年間は常態化している」と危機感を募らせ、この状況からこどもたちの命を守るためには、「私たち大人が連携して取り組む以外に方法はない」と強調。「魔法の杖はなく、様々な取り組みを連動させながら進めていく必要がある」と話し、こどもの命を自殺から守る方法などを紹介したうえ、関係機関や団体が連携・協働して取り組む「こどもの自殺対策推進パッケージ」の施策などを紹介しました。
そして、「『点』の対策から『面(社会全体)』のネットワークで支える仕組みをつくることが重要。そうして支えられた経験をしたこどもが大人になってつくるのは『人にやさしい社会』であるはず。こどもたちが安心してこども時代を過ごし、大人になれる社会にしていかなければいけない。まずは地域の関係者が集まった対話から始めていただければ。今日の話を参考にしながら、地域での歩みを進めてほしい」と語りかけました。
協議会の意義や運営方法などを説明
続いてこども家庭庁支援局総務課長(自殺対策室長併任)の小野雄大氏が、「協議会」の意義や運営方法などについて説明。現在、同庁では、協議会の設置と運営に関する「ガイドライン」を作成中で、そのポイントとなる事項を中心に紹介しました。
小野課長は「協議会とは、自殺をする危険性が高いこどもを早期に発見し、相談など自殺の発生を回避するための対処を行う体制の整備や、自殺未遂をしたこどもを継続的に支援していくための仕組み。そのために関係者で情報の交換や、対処・支援等の措置に関する協議をしていく」と話した後、協議会の概要を以下のように説明しました。
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- 具体的な仕組みの特徴として、①協議する場合は、協議会の構成者に対して協議を行う事項を通知する(事前通知)、②構成者は、正当な理由がある場合を除き、当該協議に応じなければならない(参加義務)、③必要な場合に、関係者に対して、資料や情報の提供、意見の表明、説明などの協力を求めることができる(資料提供の要請)、④協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない(秘密保持義務)──があり、▽支援に緊急性を要するこどもや自殺未遂をしたこどもを早期に把握することができる▽情報等を共有することにより、必要な支援について構成者で協議することができ、適切な支援を迅速に開始することができる▽支援の全体像や支援の方向性、役割分担について、共通の理解を得ることができる▽支援を受けるこどもが、より適時適切な支援を受けやすくなる──などの効果が期待されている。
- 設置主体は地方自治体だが、市町村では単独設置だけでなく、地域の実情により、共同設置や都道府県の支援を受けて設置することも考えられる(共同設置の場合、個別ケース検討会議の参加者を限定するなどの配慮が必要)。都道府県では、地域におけるこどもの自殺対策について協議を行うことができるほか、市町村では対応が困難な事例の支援を担うことなどが考えられる。
- 市町村の会議は「個別ケース検討会議」と「全体会議」を想定。前者ではこどもの状況の確認、自殺リスクの評価、支援方針の検討、関係機関の役割分担の決定などを協議する。
- 都道府県の会議では、広域的な観点からの全体会議のほか、市町村の求めに応じた対応方法の議論や、個別ケースの検討、市町村のケース検討会議の支援などが考えられる。
- 基本法では、協議会の構成者として、学校、教育委員会、児童相談所、精神保健福祉センター、医療機関、警察署、民間団体が例示されているが、必ずしもすべてを構成者とする必要はなく、また、こども家庭センター、保健所、有識者など記載のない機関などを構成者とすることもできる。
- 個別ケース検討会議では、毎回、すべての構成者が参加する必要はなく、検討内容に応じて、参加機関を決めることも考えられる。また、検討内容に応じて、構成者ではない関係機関等の参加が必要な場合は、秘密保持義務との関係に留意したうえで、参加を求めることも考えられる。
- 事務局は、地域の実情を踏まえ、各自治体の判断による(自殺対策を所掌する部局、児童福祉担当部局、福祉、保健、医療を所掌する部局・教育委員会など)。
- 個別の相談から支援に至る具体的な流れは、地域の実情に応じた運用になるが、一例として①個別ケース検討会議の対象となるこどもの把握→②必要な情報の収集と個別ケース検討会議の活用の判断→③個別ケース検討会議に向けた関係機関等からの情報収集、情報の整理等→④個別ケース検討会議の開催(支援方針等の決定)→⑤関係機関等による支援→⑥支援方針等の見直し、個別ケース検討会議でのフォローアップの終結──などが考えられる。
- 都道府県がすでに「こども・若者の自殺危機対応チーム」を設置している場合、市町村協議会が支援を要請することが考えられる。また、危機対応チームを設置する都道府県や指定都市が、協議会の構成者に危機対応チームの構成員を含める場合は、危機対応チームのチーム支援検討会議を、協議会の個別ケース検討会議と位置付けて実施することが可能。
- 協議会を設置・運営するに当たっては、新たに設置する方法のほか、要保護児童対策地域協議会、子ども・若者支援地域協議会、孤独・孤立対策地域協議会、自殺対策連絡協議会など既存の会議体に協議会の機能を追加する方法も考えられる(その場合、既存の会議体の設置要綱に協議会を位置付けること、または協議会の設置要綱を定めることが必要)。
- 秘密保持義務については、全ての構成者等が秘密保持義務を課される趣旨やルールに関する基本的な考え方を理解して会議に参加することが基本だが、地方自治体、医療法人や社会福祉法人等の法人などの団体が協議会の構成者となった場合、団体を代表して協議会に参加した者や、こどもの保護や支援を行っている担当部局等に限らず、業務上直接的な関連を有しない部局等の職員にまで秘密保持義務が及ぶことになることに留意が必要。
- 各構成者が協議会で個人データを提供するのは、①法令に基づく場合、②人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合で、本人の同意を得ることが困難であるとき、③公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合で、本人の同意を得ることが困難であるとき──が考えられる。
- 協議会の設置に先立ち、協議会を組織し主導する自治体の担当部署が、構成者となり得る関係機関等を対象として準備会を開催し、協議会の組織や運営の基本的な部分について、十分に説明し、協議・調整することが望ましい。
- 協議会の組織及び運営に関し必要な事項は協議会が定めることとされているため、自治体は協議会の設立に先立って、準備会等で決定した協議会の設置の目的や所掌事項等の基本的事項について、設置要綱として、文書化、制度化しておくことが適当。
最後に小野課長は、協議会のモデル事業について言及。民間団体との連携を図りつつ、円滑な立ち上げや効果的な運営等のモデルを構築するとともに、課題や支援事例などを把握するため、自治体を対象とするモデル事業を実施する(補助率10/10)ので、「こういうものをやりたいということがあれば、ぜひ相談してほしい」と呼びかけました。
既存の取り組みとの連携
この後、文部科学省と厚生労働省がそれぞれの自殺対策の取り組みを説明。
文部科学省は初等中等教育局児童生徒課生徒指導室生徒指導調査官の池田真信氏が、基本法改正を踏まえた学校と地域との連携などについて、「参加している学校や教育委員会の人には、ぜひ協議会に積極的にかかわってほしい」と話しました。また、2026年の年明けを目途に検討を始める医療機関等と連携した早期対応に関するガイドラインの作成とその普及啓発や、こどもの自殺が起きたときの「背景調査の指針」の改訂案なども紹介。最後に校内連携型危機対応チームとネットワーク型緊急支援チームにふれ、「各学校で毎年自殺が起こるということではないが、平時からこうした対応がとれる準備をお願いしたい」と述べました。
厚生労働省は大臣官房参事官(自殺対策担当)の宮崎千晶氏が、「こども・若者の自殺危機対応チームとの連携」を中心に説明。宮崎参事官はまず、こども・若者の自殺の状況に関する統計的な数値を補足的に紹介し、こども・若者の自殺が急増した時期には、自殺未遂も大きく増えていることや、自殺者全体の中でも未遂歴が多い年代であることなどを指摘して、「自殺対策では、未遂者や自傷を繰り返すことにしっかり対応していくことが非常に重要」と強調。それを踏まえて、こどもや若者の困難事案に対応していくため、2023年度から進められている「こども・若者の自殺危機対応チーム」事業について紹介しました。
危機対応チームは都道府県・政令指定都市に設置され、多職種の専門家で構成するチームが、学校や市町村等の地域関係機関に助言などの支援を行っています。「協議会」との違いについて、宮崎参事官は「直接、対象者を支援する協議会と違い、危機対応チームは、支援者支援、いわばバックアップをするチーム。個別法に基づく秘密保持義務はないが、協議会や要対協の枠組みを活用し、個人情報の共有をしていくこともできる」と話しました。
情報共有をどうするか
会議の最後に、事前に参加者から寄せられていた質問に対して、こども家庭庁の小野課長が以下のように回答しました。
Q1 協議会の設置は義務なのか、努力義務なのか。また、設置の期限や猶予期間はあるか。
A1 協議会の設置は「できる」規定。そのため期限や猶予期間はない。ただ、こどもの自殺が深刻な状況を打開するために設けられたスキームなので、各自治体でも協議会設置に向けた積極的な検討をお願いしたい。
Q2 既存の自殺対策協議会や要対協などで、協議会を兼ねることは可能か。その場合の要件は。
A2 既存の会議体と協議会を兼ねることは可能。その場合、会議体の設置要綱で、会議体と協議会のそれぞれの目的や役割、構成者などを明らかにしておくことが必要。
Q3 事務局はどの課が担うのか。国からの財政措置はあるか。
A3 事務局を担う部署は、自殺対策担当部署や児童福祉の担当部署、福祉・保健医療の担当、教育委員会などが想定されるが、どの部署になるかは各自治体の実情を踏まえて協議のうえで判断いただければ。設置運営の財政措置については、協議会の設置が任意のため、現時点では講じていない。現段階では事業運営のモデルとなる取り組みをつくっていくことが大切なため、その予算事業を用意している。
Q4 未遂事案などで本人の同意が得られない場合や、本人が「親に言わないで」と言った場合、どの範囲まで、どのような法的根拠で関係機関と情報を共有してよいのか。
A4 個人情報の共有をどこまでできるかは個別の事案ごとに判断が必要になるため一律に示すことはできないが、個人情報保護法に則った適正な個人データの提供などについては資料で紹介した。例えば、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要な場合であって、本人の同意を得ることが困難なとき」(同法27条1項2号)という点では、未遂事案で、再度の自殺企図の恐れがあって、適切な医療や見守りが必要の状況で、情報共有しなければこどもの命を守れないということが合理的に判断されるケースなどはあり得るのではないか。また、同意を得るのが困難ということでは、本人が精神的に不安定な状況にあるなど適切な判断ができずに拒否されたり、同意を得るための手続きや説得を行う時間的な余裕がなく、直ちに情報共有しなければ、生命に危険が及ぶ場合などは考えられる。ただ、情報共有の仕方については、無制限に提供できるのではなく、提供する対象を生命・身体の保護に関わる機関に限定したり、共有内容も支援に必要な範囲にとどめることが必要だと思う。
Q5 OD (過量服薬)やリストカットなどに対する具体的な介入ノウハウや、専門職不在の自治体への支援について示してほしい。
A5 自殺未遂が起きた際や事後の対応などの具体的な手順については、現場それぞれの事情があると思うが、文科省や厚労省とも協力しながら事例として展開できる形を考えていきたい。専門職不在の自治体という点では、厚労省から紹介があった「こども・若者の自殺危機対応チーム」の機能の活用などができるのではないか。また、モデル事業の中などでも検討していきたい。
最後にJSCP代表理事の清水がQ4・5への回答について補足。「『親に言わないで』『誰にも言わないで』などと言われたりしたケースや、具体的な介入では、法律的な問題とは別に、道義的な問題というか、こどもとの信頼関係もかかわってくる。法律では『これができる』と言えるが、こどもとの信頼関係を保ちながら支援をしていくことを踏まえた判断はかなり個別的なもの。だからこそ地域の専門家の方たちに入っていただいて、一緒にケースの検討をしていくことが大事なのだろうと思う。それぞれの負担を減らしつつ、力を合わせてこどもの命を守る取り組みを全国各地で進めてほしい」と話しました。
なお、本会議の資料や動画は、自殺対策担当等に共有される予定です。






