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【登壇報告】「自殺対策の正しい知識を学ぶ国際シンポジウム」に代表理事らが登壇

自殺を防ぐために何ができるか

2026年9月5日、オンラインで開催された「自殺対策の正しい知識を学ぶ国際シンポジウム~正しい知識で、いのち支えよう~」にJSCP代表理事の清水康之と広報官の山寺香が登壇し、日本の自殺と自殺対策の状況や、自殺報道の変化などについて報告しました。同シンポジウムは、金沢大学医薬保健研究域保健学系の主催(同大学生自死防止専門委員会が共催)により行われたもので、9月10日の世界自殺予防デー・9月10~16日の自殺予防週間にあわせて、自殺予防に関する普及啓発(誤解や偏見の払拭、正しい知識の提供)や自殺予防に関する学際的な研究を推進することを目的としています。シンポジウムでは、WHOで自殺対策に携わるDr. Sandersan Onie氏(Harvard Medical School、国際自殺予防学会[IASP]副理事長)が「自殺に関する正しい知識」について講演。WHOの協力センター(WHO Collaborating Centre)に指定されているJSCPでは、国際的なつながりを活かした取り組みの一環として、シンポジウムを後援しました。当日は350人以上が登録。金沢大学の学生や教職員のほか、全国の自殺対策関係者、研究者などが参加しています。
シンポではOnie氏、清水、山寺がそれぞれプレゼンテーションし、その後、質疑応答を行いました(進行は田中浩二・金沢大学医薬保健研究域保健学系精神看護学分野教授)。
Onie氏は「Preventing Suicide~What is the situation, our understanding, and what can we do(自殺を防ぐために~現状、私たちの理解、そして私たちができること)」と題して、自殺に関する状況や背景を説明したうえで、自殺予防へのアプローチと私たち一人ひとりに何ができるかについて語りました。Onie氏は、日本の自殺者数の状況に触れた後、世界的なデータからは、▽自殺者数の20倍の自殺未遂者がいる▽一人の死によって135人が影響を受ける▽自殺した人の65%が事前に支援を求めていない――という背景があることを紹介しました。

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Sandersan Onie氏

そのうえで、自殺への「誤解」について言及。①自殺は精神疾患が原因である、②自殺について尋ねると、その考えを植えつけてしまう、③兆し(サイン)はない、見分けられない――という誤解を問い直しました。①については、「自殺で亡くなる人のほとんどに精神疾患の診断がされているというわけではない。多くは人間関係や孤独、経済的困難、いじめなどの要因と結びついている」としたうえで、「自殺は人生において耐え難い苦しみを抱えたときに起こる。精神疾患だけの問題ととらえると、対策も心理学や精神医学といったメンタルヘルスの領域にとどまり、その人を追い込んでいる根本的な要因は手つかずになってしまう。例えば、学校でいじめを受けているこどもの場合、カウンセラーに相談させることだけでなく、いじめの問題そのものに対処する必要がある」と論じました。また、②については、「多くの人は自殺について尋ねることを恐れるが、思いやりをもって尋ねればリスクは上がらず、むしろ下がる。安全に受け止められることが伝われば、相手も心を開き、助けを求めやすくなる」と説明。③も、「すべての自殺に兆しがあるわけではないが、兆しがあるケースも非常に多い」として、▽睡眠の大きな変化▽人との関わりを避ける▽大切なものを譲る▽「迷惑をかけている」と話す▽飲酒の増加や危険な行動▽苦しい時期の後の平穏な行動、などを挙げました。

Onie氏はこの後、自殺予防に関する科学的な理解がどのように変わってきたかを説明。個人(生物医学モデル)→環境(公衆衛生モデル)→社会(社会的決定要因と権利)と進み、現在では「自殺は単なるメンタルヘルスの問題ではなく、人間の尊厳や価値に関する問題である」という認識へと変化しつつあると話しました。そのうえで、「それぞれの立場で、いかにして人の尊厳や価値を守るかを考えることが大切」として、シンポに参加している①この分野で働く方、②誰かを支えられる方、③大切な人を亡くした方、④いま、その苦しみを抱えている方――に向けて、「それぞれができる具体的な一歩」を紹介。同僚、友人、近所の方などの②の人については、「気づく・聴く・つなぐ・つづける」ことを挙げ、その中で避けるべきなのは、▽解決を急ぐ▽秘密にすると約束する▽一度話して終わりにする、ことだとしました。そして、最後に「自ら命を絶つことを考えている方々にお伝えしたい」として「あなたは決して迷惑な存在などではなく、あなたの命には価値があります。危機的な状況にあるときは、希望がないように感じてしまうこともあるのです。今日、一歩を踏み出して、助けになってくれる誰かや場所につながってください。生きる理由になるもの、大切に思えるものを思い出してみてください」と語りかけました。

こどもの自殺対策をどう進めるか

続いてJSCP代表理事の清水が、「こどもの自殺の実態と対策の現状」のテーマで報告しました。清水はまず、日本では1998年に年間自殺者数が3万人を超えた後、社会全体で自殺対策に取り組むために自殺対策基本法が2006年に制定され、それを受けて自殺総合対策を進めてきたことを説明。その枠組みである「三階層自殺対策連動モデル」は、社会制度・地域連携・対人支援の3つのレベルを有機的に連動させた総合的な自殺対策であり、さまざまな取り組みを進めていくなかで自殺者数も徐々に減少し、昨年は統計開始以来初めて自殺者数が2万人を下回りました。「社会全体で取り組んできたことなので、必ずしもこの対策が減少をもたらしたと断言することはできない。ただし対策として進めるべきだということを一つひとつ実現していくなかで、自殺者数も減ってきた。ピーク時からは約45%減少している」と清水は話しました。

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JSCP代表理事の清水康之

そのうえで、こうした取り組みを下支えしている「生きることの包括的な支援」という理念を説明。自殺対策では、生きることの阻害要因を減らす取り組みに加えて、生きることの促進要因を増やす取り組みを行い、双方を通じて自殺リスクを低下させる、「生きることの包括的な支援」を進めており、これは自殺対策基本法や自殺総合対策大綱にも謳われています。一方で、深刻な状況になっているのがこどもの自殺です。昨年は小中高生の自殺者数が538人と過去最多となりました。「この数年、過去最多を更新し続けているという状況で、“増加が止まらない”と表現すべきだろうと思う。538人というのは、1週間に10人のこどもが自殺で亡くなっていて、それが年間を通じて続いているということ。その非常事態が近年、続いている」と清水は訴えたうえ、ウェブサイトに投稿されている「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちを抱えた若者の声を紹介。「この書き込みをしたこどもが実際に自殺行動に至ったかはわからない。ただ、今、自殺で亡くなるこどもが増えているだけでなく、こうした思いを抱えているこどもたちは亡くなるこどもの何倍も何十倍もいると私たちは受け取るべきだ。亡くなるこどもは氷山の一角で、裾野にはこうした気持ちに追いやられている大勢のこどもたちがいる。そして、こどもたちはその声をなかなか発してくれない」と問いかけました。こうした状況を踏まえ、昨年改正された自殺対策基本法では、こどもの自殺対策を強化。国や学校の責務を明示し、地域の関係機関等が連携してこどもの自殺対策に取り組む「協議会」の設置を規定しました。さらに国は、具体的な施策を「こどもの自殺対策推進パッケージ」としてとりまとめ、自治体の取り組みの底上げを図っています。最後に清水は「パッケージに掲げられている施策は各省庁のものだが、それをばらばらに細切れで展開するのではなく、施策の連動性を高めていくことが重要。そして、国レベルの連動性が高まっていくのに合わせて地域レベルの連動性もしっかり高めていく。その結果として、一人ひとりのこどもに対して包括的な支援を実現していくというのが社会にとってのこれからの大きな課題であり、挑戦になる」と力を込めて話しました。

自殺報道とWHOガイドライン

3人目に登壇したJSCP広報官の山寺のテーマは、「WHOガイドラインと日本の自殺報道の変化」です。WHOでは2000年にいわゆる「自殺報道ガイドライン」の初版を発行し、これまでに2023年の第4版まで版を重ねています。その目的は、報道によって自殺リスクを高める「ウェルテル効果」を最小化し、自殺を抑止する「パパゲーノ効果」を最大化することにあります。ウェルテル効果は、自殺がセンセーショナルに報じられた後に、自殺念慮がある人が報道内容に影響を受けるなどして自殺者数が増えること、パパゲーノ効果は、自殺の危機を乗り越えた物語などを伝えることで、自殺を抑止する現象のことを指します。WHOは『LIVE LIFE』という各国の自殺予防への取り組みをまとめた実施ガイドのなかで、「責任ある自殺報道のためのメディアとの協働」を「科学的根拠(エビデンス)に基づく4つの主要な介入」の1つとして位置づけ、自殺対策における重要性を明記しています。
山寺は、WHO自殺報道ガイドラインについて説明したうえで、JSCPが行っている自殺報道への取り組みを紹介。日本でもWHOガイドラインなどを受けて、以前から研究者や専門家が自殺報道への働きかけを行うとともに、メディア関係者も自主的な努力を進めてきました。2020年に設立されたJSCPでは、メディアをパートナーと位置づけ、「ともに考える」というスタンスで、メディアが「どう報じるか」の判断を支えるデータや情報の提供を行っています。

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JSCP広報官の山寺香

具体的には①自殺報道モニタリング、②緊急対応:注意喚起のためのプレスリリース配信、③調査研究・分析、④「自殺報道のあり方を考える勉強会」の開催――などに取り組んできました。ここでは、③の調査研究・分析から、「近年、日本で確認されたウェルテル効果」や「この40年で自殺報道はどう変わったか」に関する成果などを紹介。後者はまだ分析途中の研究ですが、1984年~2024年の全国紙の自殺報道内容について、ガイドラインの推奨(Dos)と禁止(Don’ts)として掲げられた項目がどのように変化してきたかを調べたもので、見出しでの「自殺」の使用や自殺手段の描写が減少するなど、ガイドラインが示す方向性と合った変化が確認されています。また、相談窓口情報のように近年になって掲載が増えた項目がある一方で、期間を通じて明確な変化がみられない項目もありました。最後に、山寺は今後の課題として▽ネット・SNSによる拡散の影響の実態把握▽有名人以外の自殺報道によるウェルテル効果の周知▽マスメディアだけでなく、SNS等で情報を発信する個人へのWHOガイドラインの啓発▽パパゲーノ効果のさらなる周知――を挙げ、「変化の目まぐるしい時代だが、JSCPでは今後もメディアのみなさんとともに悩みながら、より良い自殺報道のあり方を一緒に考えていきたい」と話しました。

「秘密にしてほしい」と言われたら

この後の質疑応答では多くの質問が寄せられ、議論を深めました。
そのうちOnie氏には、「支援者が避けるべきこととして“秘密にすると約束する”ということがあったが、関係機関につなごうとするときに、本人の同意が得られなかった場合、公務員としてどのような対応ができるのか」との問いがあり、「秘密の保持については、特定の文脈において議論されるもの。さきほどお話ししたのは、あくまで一対一で話をしている状況。公務員やカウンセラー、心理士、精神科医といった立場であれば、もちろん既存の規定や方針に従う必要がある。非公式な場や友人として話している場合は、何よりもまず、その人の身体的な安全や命が優先されるべきだ。相手から“秘密にしてほしい”と頼まれると、秘密を約束してしまいがちだが、それは非常に危険なことでもある。相手が自らの命を絶ってしまった場合、何らかの法的責任を問われる可能性もある。だから、もし秘密にしてほしいと求められたら、“お気持ちは分かりました。でも、一緒に助けを求める方法を考えましょう”と伝えてみてはどうでしょうか」と答えました。さらに、清水も▽こどもに対しては協議会の枠組みの中では、本人や保護者の同意なく情報を共有することができる▽個人情報保護法においても、生命の危機に直面している場合には、関係者が情報を共有することができるという例外規定がある――と補足したうえで、「そうした法令上の話とは別に、“守れない約束はしない”、あるいは“守るべきではない約束はしない”ということだと思う」と話しています。

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左から、田中浩二・金沢大学教授、山寺香、Sandersan Onie氏、清水康之

清水には、「日本の自殺対策で、学校は自殺対策にかかわる機関だとされているが、同時にリスク要因を生み出し得る組織でもあるので、自らを客観的に点検する仕組みが不可欠。協議会を評価する仕組みをどう構築すればいいか」との質問も寄せられました。これに対して清水は、「学校がリスク要因を生み出しかねない組織、あるいは場になっているということについてはその通りだと思う。協議会はあくまでリスクが高まった子たちへの対応を行うので、もっと上流に遡って、自殺リスクを生み出している要因を取り除いていくことが重要だという意味で、学校のあり方を中長期的な視点から考えていくことは必要だろう。ただ、協議会は自治体が設置するもので、学校はその構成員の一人。協議会には学校の外の中立的な専門家が参加して、支援を検討するという枠組みになっている。いずれにしても協議会がしっかり機能しているかという評価については、モデル事業の試みの中などで検討されていくのではないか」と回答。また、山寺には、「SNSで発信する人に対して、JSCPではどのような対応をしているか」という問いかけがあり、「JSCPの自殺報道への取り組みは基本的にマスメディアに向けたもの。個人の方の発信は対象にしていない。ただ、例えば自殺のライブ配信動画などが拡散しているような場合には、プラットフォーマーに通報したり、警察と連携して対処したりしている。また、マスメディアに対しては、それを報じないようにプレスリリースで注意喚起を行っている」と答えています。