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【活用事例】大学における自殺対策推進のための研修 e-ラーニング
JSCPでは、全国の大学で学生の支援・相談・教育に携わる方々を対象に、「大学における自殺対策推進のための研修」(e-ラーニング)を提供しています。大学生の自殺が深刻な状況にある中で、多くの大学教職員の方々にご活用いただいています。3か月間に120人以上の教職員が研修を受講したA医科大学に、導入の背景や、研修の活用方法についてお話を伺いました。
私立A医科大学 事例の概要
実施主体:学生課の学生相談担当
実施時期:2025年8月~10月
研修形式:JSCP提供のe-ラーニング教材によるオンデマンド研修
受講対象者:
・ 全大学教職員(臨床実習担当医を含む)・事務職員に研修について案内した
・学生との関わりが深い学年担当・副担当教員、小グループ担当教員(1人あたり学生5〜6人を担当)を【重点対象】とし、集中的に受講を呼びかけた
受講管理:教職員向けポータルサイトを利用した「修了証」の提出(【重点対象】のみ)
受講者数/受講率:【重点対象】中の受講者数は121人。受講率は4割以上
1.研修導入の背景
同大では2024年度、大学の事業計画に初めて「自殺対策」が盛り込まれました。背景には、以下のような事情がありました。
・医学生特有のストレス:学業の難しさや、臨床実習での指導医らとのコミュニケーションにおける挫折体験に悩む学生が少なくない。
・アフターコロナの変化:対人スキルの顕著な低下がみられ、教室で「隣に人がいるだけで耐えられない」といった学生も出てきている。相談できる友人などがおらず、一人で悩みを抱え込む孤立化の傾向もみられる。
・他者との比較による自己肯定感の低下:「タイパ・コスパ」を重視しすぎて「失敗=人生終わり」と思い詰める、SNSで他者と自分を比較して落ち込む、大学のテストで過度に順位を意識し疲弊するなど、自己を低く見積もり苦しむ学生が増えている。
・深刻な事案の増加:希死念慮を抱え、自傷・自殺未遂に至る学生が近年増えており、大学として学生の自殺対策が喫緊の課題となっていた。
2.研修運用の工夫:多忙な教員を巻き込む「仕組み」
・利便性を重視:講義や臨床で多忙な教員・医師が、空き時間など自身の都合に合わせて視聴できるようオンデマンド形式を採用。さらに、受講期間を長め(3か月間)に設定した。
・トップダウンによる周知:学生部長が大学の運営委員会や教授会で繰り返し受講を呼びかけ、組織としての重要度を示した。また、教職員向けポータルでもリマインド通知を複数回送った。
・確実な受講確認:e-ラーニングの修了証発行機能を活用。修了証を教職員向けポータル経由で提出することで「受講完了」とみなす仕組みをつくった。
3.外部研修の戦略的な活用
・学内研修の限界:学内の専門家(精神科医など)に講師を依頼することも可能だが、外部講師の言葉の方が「響く」「説得力が増す」という特性を考慮し、あえて外部リソースを利用した。
・「全国的な流れ」の提示:臨床実習の指導医は患者の診療が本業であり、学生対応や学生のメンタル面への配慮は「本業ではない」と感じがち。外部研修により、大学での自殺対策が全国的な流れであることを伝えることで、理解を得やすくなった。
4.研修以外の自殺対策関連の取り組み
・組織化の推進:学生相談の窓口を一元化し、相談体制の強化を図っている。
・相談アクセスの改善:学生のアイデアを採用し、学内相談窓口のQRコードを学内トイレの全個室、学生寮、自習室等に掲示している。
・年2回の集中周知:春のガイダンスに加え、学生の自殺リスクが高まる夏休み明けに、学生相談の利用法などについて学生に対し再度周知を行っている。
・保護者との連携:新入生オリエンテーションで保護者に対しても、「学校だけではこども(学生)のいのちは守れない。家庭でもこどもの様子の変化に注意を払ってほしい」と呼び掛けている。
5. 今後の展望:担当職員のコメント
コロナ禍を経て、学生たちの心性は「世界が変わった」と感じるほど変化し、サポートが必要な学生の増加を切実に感じています。特定の熱意ある教員に頼る支援の「属人化」を脱却し、人が入れ替わっても機能する相談体制の整備を急いでいます。今後も「大学における自殺対策推進のための研修」等を活用しながら、「トップダウン」と「草の根」の両面から、教職員全体で学生たちのSOSを受け止める土壌を育んでいきたいと考えています。






