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【記事公開】救急搬送データが示す「自損行為」の増加傾向 若年女性で目立つ実態
「Yahoo!ニュース エキスパート」で2025年11月25日に公開した記事を転載しています。
消防庁救急搬送人員データより、JSCP作成(「自損行為による救急搬送事案の概要 ―消防庁 救急搬送人員データより―」から引用)
消防庁の救急搬送人員データを、筆者が所属する一般社団法人いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)が分析したところ、2019年以降、故意に自分自身を傷つける「自損行為」による搬送が増加傾向にあることが分かりました。特に、10〜20代の若い女性で増加が顕著です。
また、全国の救命救急センターを対象とした症例登録システム「自傷・自殺未遂レジストリ(JA-RSA)」(JSCPと一般社団法人日本臨床救急医学会が協働で運営)では、若い女性を中心に過量服薬(オーバードーズ)による救急搬送が多い実態が確認されています。
この記事では、消防庁や救急医療現場のデータなどをもとに、若年層の自損行為の実態を整理します。
若年層で顕著な増加 「0~19歳」は7年間で2.5倍に
2016年~2023年の消防庁の救急搬送人員データによると、自損行為による搬送者数は2019年以降毎年増加しています。
2023年には1日あたり平均118人、年間で約4万2,977人に上りました。
人口10万人あたりの搬送者数(救急搬送率)をみると、0〜19歳、20〜39歳で特に増加が顕著で、0〜19歳では2016年から2023年の7年間で約2.5倍となっています。
「自損行為による救急搬送事案の概要 ―消防庁 救急搬送人員データより―」から引用
若年女性に多い自損行為 自殺死亡率も増加傾向
この年代の自損行為による救急搬送率を性別に見ると、0〜19歳、20〜39歳ともに女性の方が男性よりも高く、増加のペースも速いことが明らかになりました。
「自損行為による救急搬送事案の概要 ―消防庁 救急搬送人員データより―」から引用
一方、2023年までの自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)は男性の方が高いものの、若い女性の増加率が近年特に目立っています。特に0〜19歳の女性では、2016年から2023年の7年間で自殺死亡率が2.5倍に増えました。
(※2024年は、0~19歳の女性の自殺者数が、初めて男性を上回りました。)
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「自損行為による救急搬送事案の概要 ―消防庁 救急搬送人員データより―」から引用
「自傷行為はいのちの危険が低い」は本当か?
自損行為による救急搬送のうち、0〜19歳、20〜39歳では「中等傷(入院診療)」や「軽傷(外来診療)」の割合が比較的高く、8割を超えます。一方、40代以降では、年代が上がるにつれて「死亡」や「重症(長期入院)」の割合が高まります。
「自損行為による救急搬送事案の概要 ―消防庁 救急搬送人員データより―」から引用
こうしたことから、「自傷行為はいのちの危険が低い」「自傷行為を繰り返す人は、死なない」といった誤解が生じがちです。しかし実際には、2024年に自殺で亡くなった方のうち「自傷行為歴あり」の割合は年齢階層が低いほど高く、特に「〜19歳」の女性は46.7%に達しています(「令和7年版 自殺対策白書」より)。自傷行為は直ちにいのちの危険はなかったとしても、将来の自殺の重要なリスク因子と考えられています。
そのため、軽傷であったとしても軽視せず、適切な治療や支援が必要とされています。
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厚生労働省「令和7年版 自殺対策白書」から引用
過量服薬(オーバードーズ)の深刻な実態
全国78(2024年末時点)の救命救急センターが参加する症例登録システム、「自傷・自殺未遂レジストリ(JA-RSA)」の2025年報告書によると、2022年12月から2024年12月に登録された症例4521件のうち、自傷・自殺未遂の手段は「過量服薬」(オーバードーズ)によるものが最も多いことが分かりました。
過量服薬の割合を年代別にみると、年齢階層が低いほど高く、「30歳未満」では約7割、「30歳以上60歳未満」でも約6割を占めました。
性別にみると男女ともに最多で、男性は約4割、女性では約7割に達していました。
これらの結果から、過量服薬が特に若年女性で深刻な状況であることが分かりました。
再度の自殺企図を防ぐために
JA-RSAの報告書によると、自傷・自殺未遂で救命救急センターに搬送された人の7割で、救急科だけでなく精神科と連携して治療にあたる「精神科コンサルテーション」が行われていました。
医療機関では、自殺未遂などで救急搬送された人が再び自殺企図(自殺や自殺未遂をすること)に至るのを防ぐため、身体面の治療のみならず、精神面の治療や支援が進められています。
厚生労働省では、地域で自殺未遂者支援の拠点となる医療機関の整備などに取り組んでいます。また、いのち支える自殺対策推進センターなどでは、「自傷・自殺未遂レジストリ(JA-RSA)」の運営による実態把握のほか、救急医療と精神科医療の従事者などを対象に自殺未遂患者への対応方法や連携について学ぶ「自殺未遂者ケア研修」(日本臨床救急医学会、日本精神科救急学会との共催)を開催しています。
また、退院後に地域での支援につながることができるよう、病院のソーシャルワーカーや自治体職員などが入院中から面談を行い支援計画を立てる取り組みも、各地で行われています。
若者のいのちを支えるために
これらの分析結果から、近年若年層で、特に過量服薬(オーバードーズ)による自傷・自殺未遂が増加傾向にある実態が明らかになりました。
救急搬送データやJA-RSAの分析を行ったJSCPの清水康之代表理事は、「こどもの自殺者数が増えているだけでなく、自傷・自殺未遂のこどもや若者も増えていることが明らかになりました。これは、特別なこどもや若者が自殺で亡くなっているのではなく、自殺のリスクにさらされているこどもや若者が全国的に増えていることを表しているのだと思います。原因・動機を含む実態の解明を更に進め、医療現場や地域での対策・支援に生かしていくのはもちろんのこと、こどもや若者が安心して生きていける環境(社会)作りを社会全体で推し進めなければなりません」と話しています。
【文・山寺香】
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【出典】 ●「自損行為による救急搬送事案の概要 ―消防庁 救急搬送人員データより―」 ●「自傷・自殺未遂レジストリ(JA-RSA)2025年報告書」 ●「令和7年版 自殺対策白書」 |
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<相談窓口をまとめたページ>
・厚生労働省 まもろうよこころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/






