1. HOME
  2. 自殺対策に関する革新的研究推進プログラム
  3. 研究成果
  4. がん患者の自殺に関する全国実態分析とがん診療病院自殺対策プログラムの検討

がん患者の自殺に関する全国実態分析とがん診療病院自殺対策プログラムの検討 ──令和7年度自殺対策推進レアール〈研究成果報告〉⑤

がん患者の自殺の実態や自殺リスクを分析

「自殺対策に関する革新的研究推進プログラム(*)」の各委託研究課題の成果(令和7年度自殺対策推進レアールで報告)を紹介する連載の5回目は、領域2(自殺ハイリスク群の実態分析とアプローチ)の「がん患者の自殺に関する全国実態分析とがん診療病院自殺対策プログラムの検討」です(R4-2-3)。がん患者は、自殺のリスクが高いことが知られていますが、自殺予防に関する確立された対策は世界的に見てもなく、リスク因子に着目した予防体制の構築が課題とされています。本研究では、実証的ながん患者の自殺予防対策の実現を目指して、全国がん登録情報や医療安全情報収集事例データベースなどを用いて、がん患者の自殺者数及びリスク因子を含む実態を明らかにするとともに、がん診療病院の自殺対策プログラムの検討を行いました(研究代表者/藤森麻衣子・国立がん研究センターがん対策研究所支持・緩和・心のケア研究室長)。

photo-PD-hujimori
研究代表者の藤森麻衣子・国立がん研究センターがん対策研究所支持・緩和・心のケア研究室長

本研究の研究メンバーたちは、これまでに全国がん登録情報を用いた記述疫学的分析により、日本でもがん患者は一般人口に比べて自殺リスクが有意に高いこと、特に診断1か月以内のリスクが高いことを報告 [1 ・2 ・7]。また、がん医療及び自殺に関連する学会・患者市民代表と『がん医療における自殺対策の手引き』を作成し、公開するとともに、『がん医療における自殺対策のための提言』(啓発・教育の推進、サーベイランス体制の整備、リスクを含む実態把握、科学的根拠に基づく予防法開発、遺族や医療従事者に対する支援法の検討等)を行ってきました。それらを踏まえ、今回の研究では、①全国がん登録情報(2023、2024年度の公表データを取得)と医療安全情報収集事例データベースを用いた、がん患者の自殺者数やリスク因子を含む実態の把握、②がん診療病院内の自殺対策フローや関係機関との連携体制の調査と実態に即した自殺対策プログラムの検討に取り組んでいます[6・10]。
レアールで報告を行った研究代表者の藤森さんは、まず、がん患者の自殺の状況について紹介。日本の自殺者の原因・動機では、「健康問題」が一番多く、その約3分の1が「身体の病気」であり、さらにその半数が「がん」であることが統計的にわかっていると示したうえで、その背景にある「がんの経過と気持ちのつらさ」を説明しました。

(1)がんと診断されると治療が始まり、概ね6か月以内の時期は非常につらい痛みや副作用が生じる

(2) それでもがんが進行してしまったり、再発、転移などが起きると治療を継続し、つらい症状や副作用が生じる。さらにがんが進行した場合、状況によっては抗がん治療を中止したり、終末期に移行するという経過をたどる

(3) (1)の後、治療がうまくいき、病気をコントロールできるようになることもあるが(サバイバーシップ)、そういう人でも、治療の経過の中で休職や退職をしたり、副作用が長期に及び日常生活に支障を来したり、学校に行けなくなって思い描いていた人生と大きく異なってしまうなど、人生に影響が及んでしまう場合がある

fig-hujimori-01_260702.jpg
図1 研究の背景:がんの経過と気持ちのつらさ(レアール当日発表資料より)

このようにがんに罹患すると、「診断」「再発」「抗がん治療中止」の時期に精神的苦痛が強いことや、がんの診断前後に精神疾患が増加することがわかっています[9・10]。 「がんと診断されると、この先どうなるんだろうと気持ちが落ち込む。多くの人は通常の生活が送れるような状態に戻るが、一部の方は、うつ病や適応障害などの診断がつくほど、気持ちのつらさが持続することがある。これは診断のときだけでなく、進行や再発、終末期などさまざまな時期に生じることが知られている。がんの診断前後の精神疾患の有病率は海外のデータでは10倍にも増え、徐々に下がっていくが下がり切らない」と藤森さん。 こうした状況から、がん医療の中での自殺対策の重要性が理解され、第3期がん対策推進基本計画中間評価(2022年6月)の中で、がん患者の自殺は「大きな課題の一つと認識された」と掲げられるとともに、がん診療連携拠点病院の整備指針(2022年8月)でも、地域がん診療連携拠点病院の指定要件として、自殺のリスクが高い患者に対して、院内共通のフローを使用し、対応方法や関係機関との連携を明確にしておくことや、関係職種で情報共有を行う体制を構築していることなどが盛り込まれました[6・10]。

「全国がん登録」「医療安全情報収集事例」のデータを活用

こうした背景を踏まえて、研究チームでは、前述したように①がん患者の自殺者数やリスク因子を含む実態の把握、②がん診療病院内の自殺対策フローや関係機関との連携体制の調査と検討――に取り組んでいます。
まず①については、「全国がん登録」を用いた自殺の実態分析を行いました。全国がん登録は、がんと診断された患者の罹患や死亡の情報を国が一元管理するデータベースで、2016年に稼働開始。本研究では、2016~2020年のがん登録のデータと、人口動態調査から算出した一般人口の自殺者数を比較し(年齢・性別・居住地などを調整した「標準化死亡比」)、がん患者の自殺リスクを検討しました。
その結果、おおよそ毎年100万人ががんと診断を受けている中で、診断から半年以内で200~300人、1年以内で400~450人、2年以内で600~660人、3年以内で約800人、4年以内で約1000人が自殺で亡くなっていることがわかりました。これは一般の人と比べると、2倍弱の自殺リスクの高さであり、AYA世代(思春期・若年成人)でも1.3~1.7倍高くなっています。
また、診断後のどの時期に自殺リスクが高いのかを分析すると、診断後1か月以内は一般の人と比べて4.4倍と非常に高くなっているが、その後も徐々にリスクは下がっていくものの2年を経過してもまだ一般の人よりリスクが高い(1.3倍)状況でした。そのほか、がんの状況については、食道がんなど特定のがん種や、遠隔転移など進展度が高い場合にリスクが高いこともわかっています[1・2]。
一方、地域(都道府県)別の分析も試みました。東北や北陸のリスクが高くなりましたが[3]、「医療資源や日照時間、医師や緩和ケアチームの数、薬の使用量など公表されている数値との関連性を調べてみたが、明確な関連は認められなかった。おそらく複合的な要因が影響しているのではないかと考えられるので、よりデータが蓄積されてきたら詳細な分析を進めたい」(藤森さん)とのことです。
また、新型コロナ感染症との関係では、自粛期間中に自殺リスクが高くなっていたこともわかりました。コロナ禍では、一時期がん検診を受ける人が減っていて、症状が進んでから受診するというケースがあり、上記の分析のように進行してから見つかった場合、自殺リスクが高まるため、それを裏付けるような結果となりました[4]。
①ではもう一つ、公益財団法人日本医療機能評価機構がウェブサイト上で公開している医療安全情報収集事例データベースを用いた分析を実施。2010~2022年のがん患者およびその他の身体疾患がある患者の入院中に発生した自殺・自殺企図(がん患者213事例、非がん患者214事例)について調べました。対象となったがん患者は、高齢者、男性が多く、がんの種類では頭頚部、治療の状況では、緩和的治療中の患者が多くなっていました。自殺の背景や時間、手段、場所などについて、がん患者と非がん患者との間に大きな違いはありませんが、がん患者では未遂より既遂が多くなっています(死亡が約63%、非がん患者では、死亡は約49%)。また、関連要因で見ると、がん患者では自殺関連行動の前に約50%が抑うつ症状を呈し、30%以上が自殺念慮を示し、約7%が安楽死への希望を医療者に表出していましたが、精神科的なケアを受けていたのは全体の24%にとどまっていました。さらに、痛みがコントロールされていない症例が約25%ありましたが、緩和ケアチームの介入は13.6%にとどまり、かつその半数は痛みのコントロールが不十分でした[5]。

がん診療連携拠点病院では75%で自殺対策等を策定

一方、②では、医療の質・安全学会の会員(病院の医療安全管理部門職員)を対象に、医療安全マニュアル内の自殺対策や手順(フロー)の有無などについてアンケート調査を実施。196人(うちがん診療連携拠点病院118人)から回答を得ました。その結果、がん診療連携拠点病院の75%には自殺対策・手順がありましたが、それ以外では約半数にとどまっていました。特に自殺対策の対策部署や介入方法、手順書では、拠点病院とそれ以外の差が大きくなっています[6]。
藤森さんは「拠点病院には整備指針が出たので増えているが、まだ100%ではない。それ以外も含めて今後の取り組みが求められる」と指摘しました。また、質疑の中で「病院にいると、医療者が地域の人とつながっていくのはなかなか難しい。ただ、がんの領域では、相談支援センターが各病院に設けられている。これはソーシャルワーカーや看護師が相談員として常駐している窓口で、どこからでもどなたでも相談することができる。センターは自治体や外部の支援先の情報を広く持っているので、情報共有しながら地域とつながっていけると患者さんの自殺対策という視点でいい循環ができてくるのではないか」と地域や自治体との連携について展望しています。

fig-hujimori-02_260702.jpg
図2 医療の質・安全学会会員調査結果(レアール当日発表資料より)

なお、今回の研究成果などを踏まえて、藤森さんらは冒頭の『がん医療における自殺対策の手引き』の改訂版(2025年度版)を作成。国立がん研究センターがん対策研究所のウェブサイトで公開しています[10]。

*2026年度より本プログラムの名称を「革新的自殺研究推進プログラム」から変更いたしました。

参考文献

  1. Harashima S, Fujimori M, Akechi T, et al. Death by suicide, other externally caused injuries and cardiovascular diseases within 6 months of cancer diagnosis (J-SUPPORT 1902). Jpn J Clin Oncol. 2021;51:744‒752.
  2. Kurisu K, Fujimori M, Harashima S, et al. Suicide, other externally caused injuries, and cardiovascular disease within 2 years after cancer diagnosis: A nationwide population-based study in Japan (J-SUPPORT 1902). Cancer Medicine. 2023;12:3442‒3451.
  3. Kurisu K, Harashima S, Fujimori M, et al. Regional disparities in suicide among patients with cancer: A nationwide population-based study in Japan. Cancer Medicine. 2023;12:20052‒20058.
  4. Kurisu K, Fujimori M, Harashima S, et al. Suicide risk among individuals diagnosed with cancer during versus before the COVID-19 pandemic: A nationwide population-based study. Jpn J Clin Oncol. 2025;55:1194‒1197.
  5. Kurisu K, Fujimori M, Harashima S, Okamura M, Yoshiuchi K, Uchitomi Y. Exploratory analysis of nationwide Japanese patient safety reports on suicide and suicide attempts among inpatients with cancer using large language models. Psycho-Oncology. 2025;34:e70150.
  6. Kumada F, Kurisu K, Okamura M, Akechi T, Matsumura Y, Uchitomi Y, Fujimori M. Suicide prevention in Japanese cancer care hospitals: a topic modeling analysis of manuals and workflows. Front Psychiatry. 2026;17:1743690.
  7. Fujimori M, Hikiji W, Tanifuji T, et al. Characteristics of cancer patients who died by suicide in the Tokyo metropolitan area. Jpn J Clin Oncol. 2017;47:458‒462.
  8. Kawashima Y, Yonemoto N, Inagaki M, Inoue K, Kawanishi C, Yamada M. Interventions to prevent suicidal behavior and ideation for patients with cancer: A systematic review. Gen Hosp Psychiatry. 2019;60:98‒110.
  9. Lu D, Andersson TML, Fall K, et al. Clinical diagnosis of mental disorders immediately before and after cancer diagnosis: A nationwide matched cohort study in Sweden. JAMA Oncology. 2016;2:1188‒1196.
  10. 藤森麻衣子ほか. がん医療における自殺対策の手引き 2025年度版. 国立がん研究センターがん対策研究所, 2026.