研修・会議
令和4年度 自殺未遂者ケア研修「第2回 一般救急版」開催レポート
JSCPは令和5年1月15日(日)、令和4年度 自殺未遂者ケア研修「第2回 一般救急版」をオンラインで開催しました。本研修は、救急医療に従事する医師、看護師、精神保健福祉士、救急救命士、救急隊員、その他地域救急医療や地域精神保健福祉に関わる方を対象とし、約40名が参加しました。
本研修では小グループに分かれてのワークショップを実施するため定員を少なく設定していますが、例年定員を上回るお申し込みをいただいていることから、今年度は開催回数を従来の年1回から2回に増やし、より多くの方々にご参加いただくことができました。
臨床現場で役立つ自殺未遂者ケアのポイントを体系的に学び、多職種でのワークショップを通してケアのあり方を実践的に習得していただくことが目的で、日本臨床救急医学会、日本精神科救急学会が共催団体となっています。(プログラムはこちら)
研修会ではまず、本研修を主催するJSCPの代表理事である清水康之が挨拶し、自殺の現状について「昨年の自殺者数は11月までの暫定値で既に2万人を超えている。年間の速報値が間もなく公開されることになるが、この数年で最も自殺者数が多い年だったということになるのではないかと思う。こうした深刻な状態にある我が国の状況を踏まえ、自殺対策をさらに踏み込んで進めていくためには、自殺未遂者支援の強化が鍵を握ると考える」と述べました。
午前の「講義1」では、札幌医科大学医学部神経精神医学講座・主任教授の河西千秋氏が「自殺未遂者支援・ケアに関する施策と医療の動向」について講演するとともに、「自殺未遂者支援について一定の質を担保された拠点病院を増やし、地域と医療がしっかりと連携して未遂者を支える体制が各地域で作られていくことが望ましい」と話しました。
研修会に臨む、JSCP自殺未遂者支援室長の大内衆衛(左)と札幌医科大学の河西千秋氏(右)
続いて「講義2」では、帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・教授の三宅康史氏が「一般救急医療における自殺未遂者への対応~基本的な理解と多職種による支援・つなぎ~」をテーマに講演し、「妊産婦の自殺は、(自殺を除く)妊産婦の死亡の倍ぐらいあることが分かっている。身体の治療よりも心のケアが大事なケースがあるということだが、こうしたことを家族や周囲も理解・ケアできておらず、我々医療者もよく知らないという状況がある」と、現状の課題を指摘しました。
「講義3」では、福岡大学病院精神神経科の精神保健福祉士である松尾真裕子氏が「もう一つの精神科救急:自死遺族対応」と題して講演し、「搬送されてくる方の中にはお亡くなりになる方もおり、自殺対策は事前の予防や救命だけに留まらない。救急医療と自死遺族支援とは切っても切り離せない関係である。自死遺族にとってはそこからが始まりであり、私たちにできることを一緒にやっていければと思っている」などと述べました。
「講義4」では、岩手医科大学医学部神経精神科学講座・教授の大塚耕太郎氏が「自殺未遂者ケア・ガイドライン」と題し、「このワークショップは効果検証も行われており、参加した医療従事者の自殺関連患者に対する態度などにも非常に大きな効果を与えていることが分かっている」と語り、当研修のワークショップの意義を強調しました。
続く「講義5」では、河西氏が「エビデンスに基づく自殺未遂者医療:診療報酬項目“救急患者精神科継続支援料”」と題して、「自殺対策のための戦略研究・ACTION-Jにより、自殺未遂者へのアサーティヴ・ケースマネジメントが自殺の再企図を抑止することが明らかにされ、救急患者精神科継続支援料という形で診療報酬化された」ことを説明し、「自殺予防の蓋然性のあるこの診療報酬項目を普及していくことが必要」と話しました。
午後は、大塚氏の司会のもと、参加者が8グループに分かれて多職種でのワークショップを行いました。自殺未遂者ケアに携わる各分野の専門家がファシリテーターを務め、うつ病の中年男性と自殺行動を繰り返している若年女性の2症例について、自殺企図の危険因子、患者が精神科受療を拒否している場合の対応、自殺企図者の家族に対するケア、自殺企図者を取り巻く問題に対する連携の方法などについて、対応のポイントを学び、参加者間で活発な議論が行われました。
JSCPは、今後もより充実した内容の研修を行うべく、研修の企画運営に携わる方々と議論を続けてまいります。来年度も自殺未遂者ケア研修「一般救急版」を開催する予定です。
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