研修・会議

令和4年度 自殺未遂者ケア研修「第2回 かかりつけ医版」開催レポート

JSCPは令和5年2月19日(日)、令和4年度 自殺未遂者ケア研修「第2回 かかりつけ医版」をオンラインで開催し、約110名が参加しました。
保健医療機関での業務に従事する医師、歯科医師を対象とし、かかりつけ医等が「地域社会からの孤立の状況等により、精神疾患が増悪するおそれがあると認められるもの又は精神科若しくは心療内科を担当する医師による療養上の指導が必要であると判断されたもの」に適切に対応するためのスキル等を修得することが目的です。(プログラムはこちら


JSCPが主催する本研修は、令和4年度の診療報酬改定で新設された「こころの連携指導料()」に対応した要件研修で、今回で2度目の開催となります。


研修会ではまず、JSCP代表理事の清水康之が本研修の「3つのポイント」として

①「こころの連携指導料()」に対応した要件研修であること
②かかりつけ医や歯科医師が、自殺リスクを抱えた方、あるいは抱えかねない患者さんに向き合う上での基本的な姿勢、また適切な対応をするための具体的なスキル等を身に着けていただけるように工夫した研修となっていること
③午前中は基礎講義、午後はワークショップ形式の研修となっていること

を挙げ、「ワークショップでは、具体的で典型的な症例に基づき、講師と参加者が双方向のやり取りをできるように工夫をしている。ぜひ皆様の積極的なご参加をお願いしたい」などと挨拶しました。
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研修会で挨拶をする、JSCP代表理事の清水康之

 

午前中には3つの講義があり、「講義1」では、JSCP自殺未遂者支援室長の大内衆衛が「かかりつけ医等における精神疾患および自殺対策」と題して講演しました。
大内は、「疾病負担」に関するWHOの推計を紹介しながら「自殺を含めた自傷が強いる疾病負担は2000年には全ての疾患の中で5番目であったが、2019年にはランク外となった。一方で、アルツハイマー型認知症等の認知症の疾病負担が4番目という状況になった。しかしながら、15歳~49歳の男性に限ってみると自殺を含めた自傷が強いる疾病負担は、2019年の時点でも1位の状況にある」と話しました。
また、自殺対策基本法に始まる自殺に関する法整備等と、「こころの連携指導料()」の算定に伴う注意事項などについても、詳しく解説しました。
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JSCP自殺未遂者支援室長の大内衆衛


続いて「講義2」では、札幌医科大学医学部神経精神医学講座・主任教授の河西千秋氏が「プライマリケア医の先生のための自殺予防の基礎知識」と題して講演し、「自殺の動機の不動の1位は、『経済・生活問題』や『人間関係』ではなく、『健康問題』である。従って、公衆衛生学上の問題でもあり、医療の問題でもある。だからこそ、私たちが関与する必要がある」「自殺未遂・自傷の既往は最も明確かつ最大の自殺のリスク因子であり、これについての先行研究は1000を超えるレベルだと思われる。また、特徴的なのはこれに関してはほとんど異論がないことだ。従って、自殺未遂者の再企図防止が自殺予防対策の主たる課題の一つであることは常識として扱われている」などと述べました。
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札幌医科大学医学部神経精神医学講座・主任教授の河西千秋氏


「講義3」では、岩手医科大学医学部神経精神科学講座・教授の大塚耕太郎氏が「ハイリスク精神疾患患者のケア」と題して講演し、自殺の防御因子について「本人を理解しサポートしてくれる人がいるだけで、適切な対処行動になったりする」「制度に結び付けることも大事なことだ」などと話しました。
また、自殺を考えている人の心の状態について「一緒に問題を考えていける心の状態にあるのか、何を置いても死なせてくれという状態にあるのか、そのあたりを考えることが重要である」と話しました。加えて、精神科への紹介に際してのポイントについて「患者が『見捨てられた』という感覚を持たないように注意すること」「問題を具体的に取り上げながら、その問題を専門家に相談してみることを勧めること」などを挙げました。
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岩手医科大学医学部神経精神科学講座・教授の大塚耕太郎氏


午後は、大塚氏による司会のもとでワークショップが行われ、Part1では中高年男性、Part2では高齢の患者に関する事例検討を行い、個別の課題を通して対応方法を学びました。また、講師と参加者との間で双方向のコミュニケーションを図りつつ、途中で質問も交えながら、事例検討が進められました。
質疑応答にも十分な時間を設けたことから、参加者の満足度が非常に高い研修となりました。


自殺未遂者ケア研修「かかりつけ医版」は、来年度も複数回の開催を予定しています。かかりつけ医等にとってより充実した内容の研修を行うべく、研修内容の検討も重ねて行ってまいります。