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【記事公開】「誰も悪くない」を、こどもに届ける──自死遺児が主人公の絵本『さよならなんかしない』が伝えること

「Yahoo!ニュース エキスパート」で2026年3月5日に公開した記事を転載しています。

photo-special-ms.sato-260415.jpg 絵本『さよならなんかしない』を持つ、著者の佐藤まどかさん

「かわいそうな顔したほうがいいんか、なんともない顔したほうがいいんか、わからんかった」
絵本『さよならなんかしない』(童心社、2025年11月出版)は、父親を自死で亡くした小学5年生の男の子・ユウの心の内を描いています。周囲の視線の中でどのように振る舞えばよいのか分からず、戸惑いながら日々を過ごす姿などが、静かな言葉で綴られています。

この記事では、自死で親などを亡くしたこどもたちに起こりがちな「こころの反応」や、周囲の大人がどのように寄り添うことができるのかについて、本書を通してお伝えしたいと思います。

自死で身近な人を亡くしたこどもたちの現実

自死で身近な人を亡くした方々への支援は、自殺対策において「ポストベンション(事後対応)」として重要な位置を占めています。

2025年の国内の自殺者数(暫定値)は1万9097人で、統計開始以来初めて2万人を下回りました。一方で、小中高生の自殺は近年増加傾向にあり、同年は532人と過去最多となりました。こうした事態を受け、2025年6月に自殺対策基本法が改正され、こどもの自殺対策を社会全体で推し進めていくこととなりました。

一方、日本国内の自死遺族の数について推計した研究(2008年)によると、自死遺族はおよそ300万人、自死遺児(自死で親などを亡くしたこども)はおよそ9万人存在するとされています。それにも関わらず、自死遺児への支援は依然として立ち遅れた状況にあり、自死遺児たちの存在や抱える苦しみは、社会の中で十分に理解されているとはまだ言えません。

このような状況下で出版された本書は、これまで可視化されにくかった自死遺児らの存在と苦しみに光を当てるという意味で、大きな意義があります。

「日本で初めて」自死遺児を主人公に描いた絵本

fig-special-book-main-260415.jpg 絵本『さよならなんかしない』の表紙(童心社提供)

本書は「日本で初めて自死遺児を主人公として描いた絵本」(著者調べ)として、こどもたちが抱えがちな強い「自責感」に寄り添い、「誰も悪くない」というメッセージを一貫して伝えています。

制作したのは、7人の研究者や民間団体関係者らでつくる「自死遺児支援プロジェクト」。文章を主に手掛けたのは、佐藤まどかさんと森山花鈴さんです。

佐藤さんは、中学3年生の時に継父を自死で亡くした経験があり、NPO法人グリーフサポート・リヴの代表理事として2001年から自死遺族支援に携わってきました。現在はスクールソーシャルワーカーとして学校現場でこどもたちと向き合っています。森山さんは南山大学社会倫理研究所の准教授であり、大学院在籍中から内閣府自殺対策推進室(当時)などでの勤務経験を持つ自殺対策の研究者です。

プロジェクトは2021年に始動し、4年かけて絵本が完成しました。その間、佐藤さんらはかつて自死遺児だった大人たちや、支援者らにインタビューを重ねました。絵本には、佐藤さん自身の体験に加え、当事者や支援者が語った生のエピソードが個人が特定されない形で反映されています。

自死遺児に起こりがちな「こころの反応」

自死で親を亡くしたこどもは、自分を責めたり、感情を抑え込んだりするなど、特有の心理的な負担を抱えやすいことが知られています。その代表的なものが、「自責」や「罪悪感」です。「あのとき気づいていれば」「自分のせいで死んでしまったのではないか」といった思いを、こども自身が一人で抱え込んでしまうことがあります。

絵本の主人公・ユウは、父が生前に「お父さんが死んだら悲しいか?」とユウに聞いた時、こわくて聞こえないふりをしました。父の死後、その記憶は「自分のせいでお父さんが死んでしまった」という思いに変わっていきます。

佐藤さんにも、似た体験がありました。中学3年の時、父が経営する会社が不渡りを出しました。その直後、父は「心配せんでいいよ」と、修学旅行に出かける佐藤さんを車で送ってくれました。それが、父の姿を見た最後になりました。「あの日、車から降りた後に振り向いていれば、父は死ななかったのではないか」「大人だったら働いて父を助けられたのに、こどもだった私が悪い」と、自分を責め続けました。

「隠さなければいけない死」というメッセージ

また、自殺は「隠さなければいけない死」というメッセージを、周囲がこどもに与えてしまうことも少なくありません。「病死」などと事実と異なる死因を伝えられたり、「周囲に自殺と言ってはいけない」と禁止されたりすることも珍しくないからです。

佐藤さんは、こう言います。「大人は『こどもを傷つけない親切』のつもりで隠すこともありますが、逆にこどもの疎外感を強め、追い詰めてしまうケースも少なくありません。こどもは敏感だから、うすうす気づいているのです。『知らないふり』を強いられることは、こどもにとって大きな負担です。家族間で故人の話がタブーになれば、こどもは泣きたいときに泣き『ちゃんと悲しむ』機会さえ奪われてしまいます」

fig-special-book-sub1-260415.jpg 絵本『さよならなんかしない』より(童心社提供)

本書が伝えたいメッセージ――「誰も悪くない」

本書の根底を流れるのは、「あなたは悪くない」という一貫した肯定のメッセージです。これは、佐藤さんやインタビューに応じた「元遺児」たちが、こども時代に最も言ってほしかった言葉でもあります。「亡くなった親も、遺されたこどもも、家族も、誰も悪くないのです」(佐藤さん)

森山さんはあとがきで「自殺は、いのちを粗末にしたわけではなく、生きることがしんどくなってしまった末に起こる死です。いのちを大切にできなくなったから亡くなったのではありません」と記しています。

タイトルでもある「さよならなんかしない」という言葉には、「亡くなった人との関係は、死によって終わりではなく、遺された人が生きていく中で変化し、育っていくもの」(佐藤さん)という思いが込められています。絵本では、主人公のユウが「誰も悪くない」と思えた時、色彩を失っていたユウの世界が再び色を取り戻す瞬間が、象徴的に描かれています。

「自死遺児は、私たちのすぐそばにいる」

fig-spcial-book-sub2-260415.jpg 絵本『さよならなんかしない』より(童心社提供)

本書では、スクールカウンセラーがユウと母親の話を聴き、担任や友人がユウにそっと寄り添う姿も描かれています。著者の2人は、この本を、身近な人を自死で亡くしたこどもだけでなく、自死遺児やその家族への接し方が分からず困っている教職員や友人、そしてかつての自死遺児たちにも読んでほしいと願っています。

森山さんはあとがきで、「自死遺児やその家族への接し方がわからず、『そっとしておく』ほうがよいのではと思うことがあるかもしれません」とした上で、「見守る適度な距離感は大切ですが、逆にそれが相手の孤立を深めてしまう場合もあります。毎日のさりげない挨拶からでもよいので、『声かけ』を心がけてください」と呼びかけています。そして「この本を、図書館や保健室、相談室など、人目を気にせず誰でも手に取れる場に置いてほしい」と言います。

「自死遺児は、私たちのすぐそばにいます。こどもたちと接する大人が絵本の内容を知っていれば、こどもたちの小さな変化に気づくことができるかもしれません。その『まなざし』こそが、こどもたちを支え、育てます。こどもたちの苦しみを取り去ってあげることはできませんが、何かあった時に『寄り添ってくれる人がいる』と思えることが、きっと大きな支えになるはずです」(佐藤さん)

近年、こどもや若者の自殺が増加傾向にある中で、自死できょうだいや友人を亡くすこどもが増加しているという新たな課題も見えてきています。こどもたちのいのちを守るため、本書のように自殺に対する正しい知識を伝えるものや、正しい知識を持った大人の存在が、ますます重要となっています。

fig-special-book-sub3-260415.jpg 絵本『さよならなんかしない』より(童心社提供)

【文・写真 山寺香】

〈参考資料〉

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◆記事を読んでつらい気持ちになったら。気持ちを落ち着ける方法や相談窓口などを紹介しています。

「こころのオンライン避難所」https://jscp.or.jp/lp/selfcare/

JSCP-Image-Illustration-hinanjyo-1.png

◆生きるのがしんどいと感じているこども・若者向けのWeb空間で、安心して存在できるオンライン上の居場所。絵本作家のヨシタケシンスケさんが全面協力。
「かくれてしまえばいいのです」https://kakurega.lifelink.or.jp/

◆つらい気持ちを相談できる場所があります。

〈電話やSNSによる相談窓口〉
・#いのちSOS(電話相談)https://www.lifelink.or.jp/inochisos/

・チャイルドライン(電話相談など)https://childline.or.jp/index.html

・生きづらびっと(SNS相談)https://yorisoi-chat.jp/

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・こころのほっとチャット(SNS相談)https://npo-tms.or.jp/sns/

・10代20代の女の子専用LINE(SNS相談)https://page.line.me/ahl0608p?openQrModal=true

〈相談窓口をまとめたページ〉
・厚生労働省 まもろうよこころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/