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2023年2月20日進む、プラットフォーマーの自殺報道への対応 Yahoo!ニュースがプッシュ通知で新たな取り組み
Yahoo!ニュース個人で2023年2月20日に公開した記事を転載しています。
自殺に関するニュースがセンセーショナルに報じられた後に自殺者数が増加する「ウェルテル効果」を防ぐため、近年、メディア各社だけでなく、メディアからニュースを集めて配信するプラットフォーマーでも、取り組みが進んでいる。多数の人がネット上でニュースを目にする昨今、自殺報道の影響はネット上での拡散と切り離せない問題だからだ。Yahoo!ニュースは、自殺で亡くなった著名人の訃報を速報的に伝える「プッシュ通知」で、新たな取り組みを開始すると発表した。
Yahoo!ニュースでは重大ニュースが発生すると、Yahoo! JAPANまたはYahoo!ニュースのアプリ利用者のスマートフォンに、号外的に「プッシュ通知」を配信している。
2022年末に発表された新たな取り組みは、著名人が自殺で亡くなった際の訃報を伝えるプッシュ通知を開くと、記事の詳細を表示する前に特設ページに移り、自殺報道を目にすることで読者が受ける可能性がある精神的ダメージを軽減するための情報が表示されるというものだ。
特設ページには、相談先に関する情報の他、訃報への向き合い方、訃報により精神的ダメージを受けた人が取るべき対処法、報道が自殺を抑止する「パパゲーノ効果」を意識した記事へのリンクなどが掲載されるという。(特設ページは、本記事公開時点でまだ一度も使用されていない)
■この取り組みに関する、Yahoo!ニュース配信のお知らせは、こちら
報道各社が自殺報道への対応を強化したのは、コロナ禍の2020年に著名人が相次いで自殺で亡くなり、その報道の直後に自殺者数が急増した出来事が一つの契機になっている。
一般社団法人・いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)の分析によると、2020年7月と9月に有名男性俳優と有名女性俳優が相次いで亡くなった際には、その自殺報道開始から2週間の自殺者数が、過去5年間の自殺者数に基づく予測値を、それぞれ200人以上、300人以上、上回っていた。
JSCPではこうした分析結果などに基づき、2020年からメディア各社に対する注意喚起のためのリリースの配信、自殺報道について考える勉強会の開催などを続けてきた。その間、新聞やテレビ、ネットメディアなどでは「自殺対策を推進するために メディア関係者に知ってもらいたい 基礎知識(2017年版)」(いわゆる「WHO自殺報道ガイドライン」)に沿い、見出しに「自殺」と入れない、相談窓口情報を併記する、などの対応が大きく広がった。
2020年の日別の自殺者数の推移を示したグラフ(JSCP作成)
Yahoo!ニュースも、2020年を機に自殺報道への対応を強化した。自殺の場所や手段を必要以上に詳報する記事をトピックスに選ばない、「自殺」など特定のワードを含む記事に対し「生きるのがつらいあなたへ―『死にたい』『消えたい』と思ったら」という相談窓口情報などをまとめたページに遷移できるリンクを自動掲出する、報道が自殺を抑止する「パパゲーノ効果」を意識した記事を集中的に配信するなど、様々な対応が取られてきた。
Yahoo!ニュースの相談窓口などをまとめたページ「生きるのがつらいあなたへ」(許可を得て画面キャプチャを作成)
■Yahoo!ニュースの自殺報道に関する取り組みは、JSCP主催の「第2回 自殺報道のあり方を考える勉強会」開催レポートで詳しく報告されている。
こうした中、自殺に関するニュースのプッシュ通知については、自殺報道に触れることを望んでいない人や、心構えができていない人にもスマホなどの画面に急に表示されることから、メディア専門家からは、ユーザーへの負の影響を懸念する声もあった。
Yahoo!ニュースでは同様の問題意識から、プッシュ通知に関する検討が行われてきた。WHO自殺報道ガイドラインにはプッシュ通知に関する記載がないことから、自殺対策やジャーナリズム論、メディア法の専門家や弁護士などから意見を聞いた上で、社内で議論が続けられてきたという。
Yahoo!ニュースの自殺報道への対応を担当するヤフー株式会社メディア統括本部ニュース編集の西丸尭宏さんによると、自殺で亡くなった有名人の訃報については、プッシュ通知をしないことも含めて検討されたという。一方で、Yahoo!ニュースでプッシュ通知しなくても、ウェルテル効果への配慮のなされない情報がSNSで拡散し、それらを引用した「まとめサイト」などを通し、憶測を含む誤情報が事実のように拡散していく現状があった。
新たなプッシュ通知の取り組みについて西丸さんは、「適切な情報をなるべく早く届けると同時に、ユーザーをケアする情報も一緒に届けられないかと考えた。その際、ウェルテル効果の抑止と知る権利のバランスをどう取るべきかを議論した。今後も、ユーザーからの反響やフィードバックを基にさらに検討を続けていきたい」と話す。
インタビューに応えてくれたヤフー株式会社メディア統括本部の西丸尭宏さん=筆者撮影
作成から6年が経つWHO自殺報道ガイドライン(2017年版)では、ネット上での自殺報道の拡散にどう対応するかの記載は限定的で、関係者の間では「時代に合わなくなってきている」との声もある。こうした中で、1日平均約7500本の記事を配信するYahoo!ニュースが、ユーザーへの負の影響を軽減するため先例のない試みに踏み出した意義は大きく、国内だけでなく世界的にも先進的な事例と言えるのではないだろうか。
Yahoo!ニュース以外にも、LINE NEWSやTikTokなどのプラットフォーマーでも自殺報道に対する取り組みが展開されている(詳しくは、JSCP主催の「第2回 自殺報道のあり方を考える勉強会」開催レポートで報告されている)。
またメディア各社でも、WHO自殺報道ガイドラインの範疇にとどまらない、自殺を抑止する「パパゲーノ効果」を意識した特集ドラマの制作(NHK「ももさんと7人のパパゲーノ」)や、自殺防止サイト(毎日新聞「こころの悩みSOS」)の制作など、独自の取り組みが増えつつある。
各社の取り組み事例は、JSCPがメディア関係者向けに開催している「自殺報道のあり方を考える勉強会」の開催レポートで紹介されている。
<「自殺報道のあり方を考える勉強会」 開催レポート>
【第1回】朝日新聞、NHKの事例報告
【第2回】Yahoo!ニュース、LINE NEWS、Tik Tokの事例報告
【第3回】NHK、毎日新聞の事例報告