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2025年6月18日【記事公開】自殺報道をどう伝えるか~記者から対策現場に移った私が考えたこと②
「飛び降り」「飛び込み」は‟普通の言葉”?
「Yahoo!ニュース エキスパート」で2025年5月15日に公開した記事を転載しています。
(イメージ画像)
※注)本記事は、具体的な報道例を挙げながら説明しているため、自殺の手段に関する記載が含まれます。 | ||
ある日、ネットニュースの見出しに「飛び降りか」「飛び降り死亡」という言葉が並んでいました。複数人の若者が亡くなった、衝撃度の高いニュース。読んでいて、何かモヤモヤするものが残りました。
「飛び降り」や「飛び込み」という言葉は、日常的に見聞きします。プールへの飛び込み、バンジージャンプでの飛び降り。あるいは「未知の世界に飛び込む」といった比喩的な使い方もあります。レジャーや挑戦の場面でも使われるため、これらの言葉に「リスク」の意識を持ちにくいのかもしれません。
しかし現実には、「飛び込み」や「飛び降り」は、自殺の‟手段”を示す言葉としても使われます。
「モヤモヤ」の正体を突き止めようと、調べてみると・・・
手元の国語辞典で「飛び込み」を調べてみると、「『飛び込み自殺』の略」という意味もありました。また、厚生労働省の「自殺の統計」資料では、手段の分類として、「首つり」などと並んで「飛び降り」「飛び込み」などの項目がありました。
これらの言葉は文脈によって、明確に自殺の‟手段”を表す言葉として、読み手や聞き手に伝わると考えられます。
‟手段”の描写は「ウェルテル効果」を招くリスクがある
WHO自殺報道ガイドラインでは、クイックレファレンス・ガイドの「してはいけないこと」(全8項目)の中で、「自殺の手段を描写しない」を挙げています。報道の影響で自殺者数が増える「ウェルテル効果」を招くリスクがあるからです。
近年は、メディア関係者の間でWHO自殺報道ガイドラインが浸透しつつあり、‟手段”がニュースの見出しに入ったり、詳報されたりする頻度は、数年前に比べて大きく減っている印象です。中でも「首をつる」という表現は、その傾向が顕著だと感じます。
『自殺予防を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2023 年版』より引用
それにもかかわらず、「飛び降り」や「飛び込み」は今も、記事の見出しに入りやすいように感じます。これらの言葉がもつポジティブなイメージに加え、もう一つ、言葉の曖昧さが関係しているのかもしれません。これらは自らの意思を示唆する表現でありながら、事故か事件か自殺か断定されていない場合にも使われることがあります。
「どう伝わるか」。受け手の立場で考える
私自身、新聞記者時代を振り返ると、こうした表現をよく考えずに使っていた記憶があります。しかし今改めて思うのは、報じる側の事情だけでなく、「死にたい気持ち」を抱えた読者や視聴者の方々に「どう伝わるか」を考える必要があるということです。
今、自殺で亡くなるこども(小中高校生)の数が過去最多となっています。こどもや若者はとりわけ、自殺報道の影響を受けやすいことが分かっています。報じる側は、こうした社会状況も考慮し、言葉のニュアンスに敏感であることが求められているのではないでしょうか。
■参考情報
JSCPの「自殺報道」に関する取り組み https://jscp.or.jp/action/press-outreach.html
【JSCP広報官・山寺香】
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◆記事を読んでつらい気持ちになったら。気持ちを落ち着ける方法や相談窓口などを紹介しています。
「こころのオンライン避難所」https://jscp.or.jp/lp/selfcare/
◆生きるのがしんどいと感じているこども・若者向けの Web空間で、安心して存在できるオンライン上の居場所。絵本作家のヨシタケシンスケさんが全面協力。
「かくれてしまえばいいのです」https://kakurega.lifelink.or.jp/
◆つらい気持ちを相談できる場所があります。
<電話やSNSによる相談窓口>
・#いのちSOS(電話相談)https://www.lifelink.or.jp/inochisos/
・チャイルドライン(電話相談など)https://childline.or.jp/index.html
・生きづらびっと(SNS相談)https://yorisoi-chat.jp/
・あなたのいばしょ(SNS相談)https://talkme.jp/
・こころのほっとチャット(SNS相談)https://www.npo-tms.or.jp/service/sns.html
・10代20代の女の子専用LINE(SNS相談)https://page.line.me/ahl0608p?openQrModal=true
<相談窓口をまとめたページ>
・厚生労働省 まもろうよこころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/